「医療情報化」の次の一歩を踏み出せない韓国

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趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

「医療情報化」の次の一歩を踏み出せない韓国


韓国の過去の失敗から学ぶ(1)



韓国では1990年代から医療の情報化が進んでいる。

 例えば、病院に行く際には保険証も診察券もいらない。受付で国民IDカードである住民登録証を見せるか、国民IDである住民登録番号注1)と名前を言うだけで済む。このシステムは総合病院だけでなく、町の診療所も同じである。病院が医療保険のデータベースに照会して、その人がどの種類の医療保険に加入しているのかを確認し、初診なのか再診なのか、再診ならどの科で診療したのかといった記録も併せて医者に転送する。日本では病院に行く際に保険証を忘れると、自己負担で高い医療費を支払い、後で精算し直す必要がある。韓国ではそんな面倒なことはあり得ない。


注1)住民登録番号とは、出生申告をすると発行される国民ID。17歳になると住民登録証が発行される。住民登録番号で税金や保険、教育、金融、不動産、パスポート発給など、あらゆる行政情報が管理される。携帯電話やインターネットの加入、Webサイトの会員登録をする際にも、住民登録番号と氏名を入力して本人確認をしなければならない。


 医療の情報化が進んでいるのは、韓国政府が国家戦略として1980年代から医療情報化やヘルスケア、次世代医療の育成に力を入れてきたからだ。1983年に起業した韓国初の大学生ベンチャー(現在のBIT Computer社)も医療情報や電子チャート(電子医療記録)のシステムを開発する会社だったほど、病院の情報化や電子チャート、電子処方箋の導入は早かった。1994年には電子チャートが広く使われるようになり、医療情報化を専門とするベンチャー企業も雨後のたけのこのように増えていた。



ICTと医療・ヘルスケアの融合が叫ばれ始めるが…



 韓国は1997年に経済危機(国家倒産の危機とまで言われた)に陥った。その危機に対して、どの国よりも早くブロードバンド環境を普及させ、ICT産業を集中育成することで乗り越えてきた。韓国政府も国民も、資源のない小さい国から世界を先導するIT国家へと成長できたという自負を持っている。


 以降、国家成長戦略には必ず「ICTと既存産業の融合」、「ユビキタス」、「スマート政府」といった項目が含まるようになった。2000年のe-Korea戦略に続いて、2006年のu-Korea戦略、2007年のU-Life21戦略、2010年のスマートコリア戦略でも「ICTと既存産業の融合」が掲げられ、中でも「ICTと医療の融合」や「ICTとヘルスケア」は、より健康・安全・便利な国民生活を実現するために早期達成すべき目標と言われ続けてきた。


 2010年からは、「スマート電子政府」を目標に、国民がスマートフォンや携帯電話機、タブレット端末などのモバイル機器を使って、国家が提供するサービス、つまり各種行政書類の申請や発給、税金、教育など、国民が必要な情報を受けられるようにしている。こうしたスマート電子政府の仕組みが、医療保険や医療記録、処方箋など情報化が進んだ病院とつながることで、より効率的でより広範囲に国民の健康を増進できるヘルスケア・サービスを提供できる環境は整っている。


 ところが、ICTを活用した遠隔診療や予防医療といったサービスは、10年近く実証実験の段階を逃れられないままでいる。医療の情報化は進んでいるが、医療保険や病院の情報化の段階で止まったままである。ICTを組み合わせたサービスという次の一歩には、踏み出せないでいる。



by  趙章恩

BPnet

2011/08/22

orginal link ;
http://www.nikkeibp.co.jp/article/dho/20110822/281391/