ついに韓国でもiPhoneが発売に、モバイル市場を変える起爆剤となるか

韓国でもついに「iPhone」が発売されることになった。iPhone 3GSは市場シェア2位のキャリアKTが8月に発売を予定している(2009年6月にKTとKTFが合併して新生KTになった)。当初は7月に旧モデルのiPhoneを発売して、9月から3GSを発売するという話もあったが、3GSの8月発売にほぼ決まったようだ。端末価格は99米ドルを基準に決める模様。人気の高いサムスン電子スマートフォンの韓国内発売価格に比べてたったの8分の1程度なので、画期的な安さといえる。

 日本ではシェア3位のソフトバンクモバイルが発売しているiPhone。韓国ではキャリアとしては2位だけど、ブロードバンドや固定電話を含めると圧倒的1位である元国営のKTから発売される。KTはiPhoneを独占発売するため、長期にわたりAppleと交渉を続けてきた。


 しかし、APPLE側は韓国シェア1位(50.5%)のキャリアSKテレコムからも発売したいとして独占販売を拒否したという。もちろん、iPhone 3Gからは1国家1キャリアではなく、世界で複数のキャリアと契約しているので、韓国でも同じように複数のキャリアから出したいところだろう。


 iPhoneが狙っているシェア1位のSKテレコムは、既に自社のモバイルアプリケーション販売サイトの計画を発表している。グーグルのアンドロイド携帯と提携してアプリ販売サイトを育てるという戦略であるため、iPhoneそのものに興味があるけど、iPhoneユーザーが増えて自社のサイトではなくAPPLEのApp Storeを利用されてしまっては困る、というのが本音のようだ。SKテレコムは「KTがiPhoneを発売するならうちも発売するが、無理したくはない」と余裕の反応を示している。


 韓国は2008年3月から補助金制度が解禁となり、新規加入の場合は端末を半額以下で購入できるようになった。0ウォン端末も競争的に売り出されている。ナンバーポータビリティ(MNP)の利用も活発で、毎月携帯電話加入者の3~4%にあたる115万~120万人ほどがMNPを利用しているほど、新規加入を繰り返して次々に最新端末を安い値段でゲットするユーザーが増えている。

MNP競争で生き残るためには、端末のラインアップを充実させる必要がある。サービスや料金はどんなにアピールしても似たり寄ったりなので差別化が難しい。キャリアを変更したくなるほど、魅力的な端末は重要である。SKテレコムはシェア1位らしく、もっとも人気のあるサムスン電子の最新端末を優先的に発売している。さらにソニーエリクソンやHTC、ブッラクベリーのスマートフォンも独占販売している。それに比べKTはブロードバンドやIPTVと一緒に加入すると料金を割引をするという競争はしているものの、キャリアのシェアの差は縮まらない。KTとしてはなんとしても他のキャリアからユーザーを奪いたいので、iPhoneの独占販売は譲れない。


 韓国では2009年3月まで、国策で開発したモバイルインターネットのミドルウェア「WIPI」を搭載していない携帯電話端末は販売できなくしていた。iPhoneをはじめ海外メーカーにとっては、仕様を変えないといけない負担があるため端末販売をためらっていた。WIPIは韓国の携帯電話端末市場を自然に鎖国状態にしていた。


 2009年4月からソニーエリクソンをはじめ海外メーカーの端末がどんどん発売されるようにはなったが、端末に不具合があったりして、やはりスマートフォンよりは普通の韓国製携帯電話が使いやすい状況だった。端末のラインアップは増えたものの、ユーザーの立場からすればほしいと思う端末はない。しかしiPhoneとなれば話は別だ。無料で使えるアプリが豊富で、使って楽しい携帯というイメージがあるからだ。


 iPhoneがついに発売されると報道されてから、待っていましたとばかりに、ソフトウエア会社やモバイルコンテンツ会社が次々にApp Store向け戦略を発表している。モバイルコンテンツ業界も活気が出そうだ。


 KTは無線LANやWibro(モバイルWiMAX)といったモバイル用のインフラが充実しているだけに、iPhoneからパケット定額より安く、移動しながら高速インターネットが使えるようにもできる。韓国でもパソコンより携帯電話からネットにアクセスする人の方が増えるかもしれない。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年7月8日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090708/1016769/