サムスンが給与の5倍の奨励金、人材引き留めで待遇改善競争

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 2021年に米Intel(インテル)を抜き、世界半導体市場の売上高で1位となった韓国Samsung Electronics(サムスン電子)と、歴代最多売上高を記録した韓国SK hynix(SKハイニックス)。好業績に沸く両社が従業員に支給したボーナスと基本給に上乗せして払われる奨励金(インセンティブ)が大盤振る舞いだとして、韓国内で話題になっている。報道によると、サムスン電子のメモリー事業部で課長クラスの従業員は、給与のほかに4800万ウォン(約460万円)の奨励金を受け取るという。背景には韓国内の競合はもちろん中国企業を含めて人材の奪い合いが激化しており、待遇改善で優秀な人材を囲い込みたいという狙いがある。

 サムスン電子とSKハイニックスは毎年年初に、前年度の営業利益に応じて従業員に成果報酬を支給している。両社の21年半導体部門の営業利益は約41.6兆ウォン(約4兆円)と前年比で実に2倍近く増えた。半導体需要の急増や米中貿易摩擦によるサムスン電子のファウンドリー受注増加などが背景にある。両社は半導体人材流出を避けるために待遇を競い、給与のほかに成果報酬や奨励金、激励金、特別賞与などの名目でボーナスを支給している。

 21年年初の奨励金の額は、サムスン電子の方がSKハイニックスよりも多かった。額を公表直後にサムスン電子が半導体分野の中途採用を始めたことから、SKハイニックスからサムスン電子へ転職を希望する人が増えたという。逆に22年年初の奨励金の額は、SKハイニックスの方がサムスン電子よりも多い。そのため、サムスン電子の社員がSKハイニックスへ転職したがっているという報道があった。

 両社は従業員を自社に引き留めようと待遇改善の競い合いを始めた。21年12月にサムスン電子が基本給の200%に当たる特別賞与を従業員に支給したところ、翌週にSKハイニックスは基本給の300%に当たる特別賞与を従業員に支給。これを知ったサムスン電子は、半導体メモリー事業部の従業員にさらに同300%、半導体研究所やパッケージングなどメモリーを支える部署の従業員に同200%を追加支給――といった具合だ。最終的にサムスン電子のメモリー事業部は、SKハイニックスよりも多い基本給の500%に当たる特別賞与を受け取った。

 22年1月に入っても待遇改善競争は続いている。SKハイニックスは目標を超過した利益に応じて支給される成果給を、最高限度額である年俸の50%にしたと発表。サムスン電子も負けずに同水準を支給する見込みという。

 韓国メディアによると21年9月時点での両社の平均年俸は、SKハイニックスが8109万ウォン(約780万円)、サムスン電子が7500万ウォン(約725万円)で、SKハイニックスの方が上である。同じ年俸50%の成果給でも金額には差が出てしまう。

 2021年大卒初任給(年俸)もSKハイニックスの方が上だ。SKハイニックスが5040万ウォン(約480万円)に対しサムスン電子は4800万ウォン(約460万円)である。複数の韓国メディアは、「このままでは半導体業界で最高の待遇を用意するSKハイニックスに人材が流れ、10年内にSKハイニックスがサムスン電子を追い越すのではないか」というサムスン電子従業員らの不満の声を報じた。

 年俸の差にサムスン電子の労働組合も反応している。同社の労働組合は22年2月4日、韓国雇用労働部(部は省)中央労働委員会に労働争議調整申請の手続きを行った。サムスン電子労働組合は、競合他社の待遇に比べて給与や奨励金の額が少ないとし、21年10月から経営陣と交渉を続けていたが、交渉が不調に終わったからだ。労働組合の要求は、全従業員の年俸を1000万ウォン(約96万円)一括で引き上げること、年初に樹立した営業利益目標を超過達成すると超過利益の20%の範囲で支給する奨励金を年間営業利益の25%に変更すること、などである。同社の労働組合は、同社創業以来初めてとなるストライキを予告。韓国メディアは実現可能性が非常に少ないとしながらも交渉の成り行きを注目している。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 2.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00053/