ソウル市の集中豪雨で被害拡大、「Twitterが頼り」またもや立証

2011年7月26日16時から27日の午前にかけて、ソウル市では338mmの集中豪雨に見舞われた。1時間あたり110.5mmが降った地域もある。気象庁の予報がなかったため市民らは慌てふためいた。豪雨は予想以上で、携帯電話がつながらない、ネットが使えない、テレビが映らないという被害が発生した。

 ソウルは6月から雨が多く、既に平年の2.3倍も雨が降っているのに、また集中豪雨が発生した。気象庁の大雨警報が出る前にもう道路は浸水し、地下鉄の駅の中まで水が溜まり、川の中を歩いているようなものだった。ソウルの中心部である光化門と市庁周辺道路はひざぐらいまで水が溜まった。漢江沿いを走る首都高速も一部区間で漢江が溢れて浸水したため通行止めになり、道路ではなく「駐車場」になってしまった。道路の浸水状況はどんどん悪くなり、バスは道路ではなく水上を走っているような状態で、バスの中にまで水が入ってきたほどである。まさかソウルのど真ん中でこんなことが!と驚かずにはいられない光景であった。


 サムスンの本社がありITベンチャー街でもある江南駅周辺は、自動車が屋根まで水に浸かりぷかぷか浮いている写真がTwitterに投稿され、「ここがソウルだなんて信じられない」というつぶやきが後を絶たなかった。


 韓国では大雨になると有線インターネットがつながらなくなることがある。この日もインターネットがつながらなかった。テレビが映らなくなった地域もある。モバイルインターネットだけがライフラインとなった。ほんの5分ほどで道路が浸水して車ごと流された地域もあったため、ニュースの速報も追い付かず、一刻を争う緊急事態の中で頼れるのはTwitterのつぶやきだけだった。


 Twitterへは人々がソウル各地の浸水状況をつぶやき、写真も投稿した。「○○駅周辺は浸水で地下鉄駅を閉鎖中、運転中の方は迂回してください」、「○○マンション周辺の道路が浸水して団地内に入れない状態」、「○○駅前のマンホール、蓋がずれてるから気を付けて!」など、絶えず浸水状況が更新された。Twitterで地域名と被害状況を検索しながら、どうやったら家に帰れるのか頭を抱えたものだ。







Twitterに投稿されたソウル市内の浸水状況






刻々と変わる被害状況の写真が投稿される


テレビや新聞も、記者の身動きが取れなくなったこともあり、Twitterのつぶやきをニュースとして報道する状況になってしまった。ソウル市はTwitterで地下鉄運行状況、避難警告を出し始めた。ラジオでもソウル市内に付けられた防犯カメラの映像とTwitterのつぶやきを頼りに地下鉄やバスの運行状況、道路状況を伝えていた。


 土砂崩れで死者が発生した地域でも、真っ先に危険を知らせてくれたのはTwitterだった。基地局も被害にあい音声通話ができない状態だったため、Twitterで避難を呼びかけ救助を要請し、消防隊が出動した。マンションの2階まで土砂が流れ込み、流された自動車がぐちゃぐちゃにつぶれてビルの2階に突っ込んでいる写真を見ると、恐ろしくなってしまった。


 27日の朝には、江南地域の道路浸水がひどく、歩く人が感電する危険があることから停電することが決まり、周辺の携帯電話基地局も電力を供給してもらえず臨時バッテリーで作動させることになった。


 豪雨が続いたため停電が長引き、SKテレコムの基地局は臨時バッテリーの電源が底をつき、午前9時から電力送信が再開された14時ころまで5時間ほど携帯電話がつながらなくなった。LGU+は不通までにはならなかったものの、中継機の電源が切れたために信号がつながりにくい、雑音がひどくてよく聞こえないといった状況が続いた。放送通信委員会によると、停電地域内にあった基地局の数はKTが20、SKテレコムが3、LGU+が7だった。


 同じ時刻、江南では唯一KTだけ携帯電話が通じた。KTの説明によると、クラウドコンピューティングを活用した基地局のおかげだという。基地局のデジタル信号処理をビルの屋上に置いて光ケーブルでつなげ、データ処理は中央集中局(電話局内)に分離して管理する「クラウドコミュニケーションセンター」を導入したため電力消耗が非常に少なく、小型発電機で基地局のアンテナを運用できて、停電になっても2時間は耐えられるようになったことから、携帯電話が不通になることはなかったという。


 豪雨をきっかけに、少ない電力でも動くクラウド基地局を増やして、災難時に備えるべきという声が高まっている。東日本大震災をきっかけに韓国も災害時の情報伝達方式を見直すとしていた矢先、結局またTwitterに頼ってしまった。韓国はIT強国のはずだが、気象、災害、こういうところはITがうまく活用されていなくて残念だ。日本の「10秒後に揺れます」、という地震警報のように正確でなくても、「今日は大雨が降ります」くらいの天気予報はしてほしいものだ。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年7月29日

-Original column

http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110729/1033359/