企業がとる感染防止の秘策とは? 新型インフルで経済活動にも影響が

韓国政府は2009年11月3日、新型インフルエンザの伝染危険度を「警戒」から「深刻」へ一段階強めた。

 新型インフルエンザによる死者は11月9日付けで52人。その後さらに9人ほど増えている。死亡者数は日本とあまり変わらないが、韓国の人口は約4800万人と日本の3分の1に過ぎない。比率として韓国では3倍も死亡者数が多いことになる。芸能人の中でも感染者が広がり、有名人の子供が死亡するなど、韓国はパニックに近い状態になっている。


 観光やサービス産業、飲食店の打撃は大きく、新型インフルエンザの影響で回復の兆しを見せていた韓国経済がまた沈んでしまうのではないか懸念されている。地域祭りや大型イベントはほとんど中止されている。それでも韓流スターが登場するイベントには、新型インフルエンザで人があまり来ない今がチャンスとばかりに日本のファンが韓国まで駆けつけている。


 子供とお年よりの感染が多いが、感染した場合その家族も全員1週間ほど自宅から外に出てはならないため、企業や政府機関では在宅勤務を余儀なくされる人が増加している。


 その影響からか、画像会議・音声通話・ファイル送信ができるインターネットメッセンジャーの利用が増加している。メッセンジャーさえつながっていれば、在宅勤務であってもリアルタイムで会話ができて会議にも参加できるので、1週間ぐらいは問題なく過ごせるからだ。



在宅勤務に有用なインスタントメッセンジャー



 トラフィック調査会社のコリアンクリックのデータによると、韓国でもっとも利用者の多いNATEメッセンジャーの利用者は、10月19~25日726万人から10月26日~11月1日754万人へと3.7%ほど増えている。同じ期間中インターネット全体の利用者数は1.1%しか増えていないので、メッセンジャーだけが特に利用が伸びていることがわかる。


 しかし韓国ではメッセンジャーを業務用に利用している会社が多い。インターネットのアンケート調査では、1202人の79.1%が業務時間中にメッセンジャーを利用していると答えた。メッセンジャー利用が禁止されていると答えた人は9.9%しかなかった(残り11.0%は使っていないと回答)。


 業務時間中のメッセンジャーは7割以上が友達と雑談するために利用していて(複数応答)、業務用に使っていると答えた人は4割ほどしかいなかった。使っている理由は、リアルタイムで会話ができる、迅速な資料の送受信や質疑応答、仕事をしながら会話できるといったことがあげられた。元々メッセンジャーを会社の中で利用している文化があったので、在宅勤務でも電話やメールよりメッセンジャーでやりとりする方が多いのかもしれない。


 新型インフルエンザの恐怖は銀行の利用スタイルも変えた。


 不特定多数が集まる場所だけに、銀行窓口担当者5人が集団感染し支店を閉鎖した銀行が出たからだ。顧客の安全のため、これからも感染危険度の高い支店は閉鎖する方針だ。銀行の支店では感染を恐れ、社員にマスクを利用させ、入り口で消毒、雑誌や新聞もおかないことにしている。大型店舗では熱感知カメラを導入することも検討されているほどだ。

人と接触せずにお金を振り込む、ファンドや信託・定期貯金に加入できるインターネットバンキングやモバイルバンキングの利用が銀行ごとに前年同期比10~15%ほど増加しているという。インターネットから定期貯金や積立貯金を申し込むと0.2%ほど金利が上乗せされ、貸出もより安い金利が適用される。税金納付、電気代やマンション管理費なども全てインターネットバンキングで解決できる。


 このようなメリットがあっても、やっぱりインターネットバンキングよりは直接銀行の窓口に行って相談しながら済ませるのが安心だった主婦やお年寄りの間でも、コールセンターに電話して何度も教えてもらいながらインターネットバンキングにチャレンジしているという。貯金や振込みといった基本的な機能の他に、財テク・保険相談やチャット相談コーナーの利用も20%以上増えているそうだ。


 あれだけ普及させようとしても伸びなかったモバイルインターネットやモバイルバンキングも、新型インフルエンザ恐怖のおかげで利用が増加している。


 感染者が増え休校になった小学校の学生を対象にしたEラーニングやオンラインゲームも利用者が増加していて、ここぞとばかりにオンラインゲームを応用した数学教育サイトや英会話サイトの広告も目立って増えている。新型インフルエンザで沈みところあれば生き返るところあり。それでもやっぱり新型インフルエンザの影響による景気後退は心配である。インフルエンザの猛威はいつまで続くことやら。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年11月12日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091112/1020372/