[日本と韓国の交差点] 日本ドラマの韓国版リメイクが流行る理由

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韓国の地上波放送MBCが2013年6月から8月初めにかけて、「女王の教室」を放映した。日本のドラマ「女王の教室」をリメイクした韓国版だ。このドラマが、韓国で大きな注目を集めた。本放映時の視聴率は8.2%と高くなかったものの、再放送の視聴率も本放送と同じレベルを維持した(本放送は、人気タレントが出演する裏番組のドラマに押された事情がある)。テレビ局の掲示板やブログ、Twitterにも書き込みが絶えなかった。

 日本の「女王の教室」は、日本テレビ系列が2005年に放映したもの。とても厳しい担任教師とぶつかる中で、小学校6年生の子供たちが成長していく物語である。韓国版はタイトルも日本版のまま。登場人物の性格、家庭環境、衣装、ストーリーも日本版とほぼ同じだった。いつもふざけてばかりだけどやさしい男の子と、「てぃひっ!」「でへー」といった奇声を放つおっちょこちょいの女の子が中心になって、担任教師とクラスの子供たちの心を動かすという設定も同じだった。「この中で将来幸せになれるのは、1人か2人だけなんです」というセリフも何度も登場した。


 舞台となる公立小学校では様々なことが起こる。貧富の差や成績の差から生まれるいじめ。リーダー格と子分ばかりでクラスの誰も本当の友達がいないこと。成績さえよければ、我が子がほかの子供をいじめようが放っておく親。自分より成績の悪い子とは友達になるなと教える親。校長先生や親の機嫌ばかり気にする教師たち。――こうした子供たちや同僚教師に、主人公である担任先生マ・ヨジンは容赦なく皮肉や毒舌を浴びせる。これを聞くと逆に癒やされる、というファンが続出した。


 せりふを韓国語に置き換えただけに見えるドラマであるにも関わらず、マスコミは「女王の教室は韓国の教育現場をリアルに描いたドラマ」と絶賛した。韓国の視聴者も「韓国の教育問題を暴いたドラマ」「今までこれほど感動的なドラマはなかった」と称賛した。


 韓国の教育熱の高さは日本でもよく知られている通りだ。韓国の子供たちの、一人で勉強する学習能力は高い。しかし、その一方で、学習意欲や、他の子供たちと協同して学習する能力がとても低いことが問題になっている。大学入試のためにしか勉強しない子供が増えている。競争社会で生き残る術を身につけないといけないとして、小学校から何事にも順位をつけ差別をしているのが現実だ。


 しかし一般のドラマは理想的な小学生の姿しか描かない。「女王の教室」はいじめや差別を生々しく描いているので、とても新鮮だった。


ネットで広がる名台詞


 ドラマの名台詞集がネット上で出回った。人間味のない冷酷な教師の毒舌が、実はとても人間的で、見ているこちらが反省させられるからだ。話題になっている韓国版の名セリフのいくつかを紹介しよう。


 「童話のような世界はない。君たちの生きる世の中では、善良な人は貧しく、悔しい思いをするでしょう。あなたたちが悪いことをしても、力のある人が味方になってくれたら罰の代わりに賞をもらえるでしょう。大人になったら、あなたたちは私があなたたちにしたことよりもっとひどいことに立ち向かわないといけない。その時にどう行動するかは、あなたたちが考えないといけない。その結果もあなたたちに回ってくる。今まで私と戦いながら何を学んだの? 生きていく中で直面する苦しい問題を解決する超能力や魔法の杖なんて現実にはないわ。ただ一つ、希望があるだけです」


 「すべての人間が持つ、世の中に対する純粋な好奇心、その好奇心を満たしていくのが勉強なの。だから良い大学や良い会社に就職することは勉強の目的にはならない。試験の成績の良し悪しが勉強の結果ではない。勉強することは人間だけが持つ最高の特権です」


 「学校で起きた事件を隠ぺいする場合、ほとんどの場合、子供のためと言います。実は、大人が責任を回避するために隠ぺいするのです」


 「子供は奇跡を作ります。教師は案内者にすぎません。自ら道を探した子供は自分の人生だけでなく、世の中までもっと良い方向に変えていくのです」


 「自分が幸せでありたいと願うように、友達も幸せになるべきだということを忘れないで。自分を大事にし、その気持ちで友達も大事にして。最善を尽くして、友達と一緒に、今日を幸せに生きなさい」



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By 趙 章恩

2013年8月21




-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130821/252476/