第12回:高句麗昔話「ホドン王子とナクラン姫」


予習してさらにハマる太王四神記

【第十二回】

高句麗昔話「ホドン王子とナクラン姫」






韓国人なら誰もが知っている物語 ~その2~



「好董(ホドン)王子と楽浪(ナクラン)姫」のお話も、前回ご紹介した「バボオンダルとピョンガン姫」同様、日本の「桃太郎」や「かぐや姫」のように、韓国では誰もが知っている物語。高句麗時代に実在した人物の悲しいラブストーリーです。愛する人のため国を裏切った姫と、国のために愛する人を利用した王子の話は『三国史記』に記録され、語り継がれてきました。ホドン王子は、ドラマの主人公として有名になった高句麗の建国王「朱蒙(チュモン)」の曾孫にあたります。それではご紹介しましょう。





ホドン王子とナクラン姫



高句麗の3代目大武神王(デムシンワン、在位18~44年)は、最初の王妃に跡継ぎになる男の子が生まれなかったため、二番目の王妃を迎えました。二番目の王妃は男の子を産み、その名前を好董(ホドン)とつけました。ホドン王子はとてもハンサムで聡明だったので、王はこの上なく大事に王子を育てました。


ある日、青年になったホドン王子は、高句麗の東にある沃沮(オクジョ)というところへ狩に出かけます。そこで高句麗の周辺国である楽浪(ナクラン)の王・崔理(チェリ)に出会います。崔理はホドン王子を見るなり、娘と婚姻させて高句麗の侵略から国を守ろうと考え、王子を楽浪へ招待します。美しいナクラン姫と出会った王子は一目惚れし、父である大武神王には何の話もせず、こっそり婚姻を約束します。二人の蜜月は過ぎ、ホドン王子はあと何日かで高句麗に戻らなくてはならなくなりました。ホドン王子はナクラン姫に約束します。「父上に婚姻を許してもらい、迎えに来るから待っていてください」……。


しかし、高句麗に戻ったホドン王子は、婚姻の話を父に切り出せませんでした。なぜなら、大武神王が「楽浪を侵略し、高句麗の領土にしよう」と王子に話したからです。そして大武神王は、自鳴鼓(ジャミョンゴ)さえ鳴らなければ、戦に勝つのは時間の問題だと語りました。楽浪には、自ら鳴って敵の侵入を知らせてくれる不思議な「自鳴鼓」という太鼓があり、高句麗の侵略から国を守ってくれていたのです。


それを聞いたホドン王子は、姫に手紙を書きます。「愛する姫よ。あなたが自鳴鼓を破ってくれれば、父上も姫との婚姻を許すでしょう」。


手紙をもらった姫は悩みます。家族と国を裏切り、愛を選ぶべきなのか……。姫は「自鳴鼓を破るのは父と楽浪を裏切ることだが、私とホドン王子が婚姻すれば、楽浪も高句麗もひとつの国になる。夫になる王子の言うことに従うべきなのでは?」。そして姫は自鳴鼓を破り、このことをホドン王子に知らせます。


大武神王15年(32年)、ホドン王子は軍を導いて楽浪を攻撃します。自鳴鼓は鳴りませんでした。高句麗軍が攻めてくると、楽浪の王は慌てました。自鳴鼓が鳴らなかったのに敵が攻めてきたからです。自鳴鼓が破かれているのを見た王は、犯人が姫であると直感します。王は涙を流しながら国を裏切った姫を殺します。楽浪は高句麗に負け、領土を占領されてしまいました。戦には勝ちましたが、ナクラン姫が死んだという知らせに、ホドン王子は自分のせいだと後悔し、悲嘆に暮れました。


一方、大武神王の一番目の王妃が、ついに男の子を産みました。王妃は自分の子息を跡継ぎにするため、ホドン王子を追い出そうとします。王妃は大武神王に「私がいくら年齢の割に若くて美しいといっても、ホドン王子が義理の母である私に、特別な感情を抱くのはおかしいではありませんか」と嘘をつきました。


大武神王は「そんなはずはない、王子を自分の子供だと思って愛してくれ」と王妃に頼みました。しかし、王妃はさらに嘘をつきました。ホドン王子が自分の手を握った、これが嘘というなら自決すると言い、王を脅したのです。王はついにホドン王子を叱りつけました。ホドン王子は考えました。言い訳をすると王妃の嘘がばれてしまい、父と王妃の仲が悪くなる、自分が犠牲になれば父も王妃も弟も幸せになるのではないだろうか……。そう考えたホドン王子は、ナクラン姫を想いながら自ら命を絶ちました。





ドラマやアニメにもなった「ホドン王子とナクラン姫」



ナクラン姫が住んでいたのは、今の中国と北朝鮮の境界あたりです。大武神王は領土拡張に熱心な王様で、高句麗の南にある小さな国々を攻めました。その中のひとつが、楽浪国だったのです。ホドン王子が姫に会いに行くには鴨綠江(アプログガン)を渡らなくてはなりません。王子が自決した場所も、鴨綠江上流あたりだと言われています。鴨綠江は中国と北朝鮮の間を流れる大きな川で、長さは803kmにも及びます。水の流れが激しく、真冬でも凍らないほどだそうです。敵の動きを監視して自ら鳴り出すという「自鳴鼓」は不思議ですが、今から2000年近くも前の古代には、そういう太鼓があったのかもしれませんね。


「ホドン王子とナクラン姫」は、韓国ではミュージカルになったり、60年代にはドラマ化もされています。有名なのは1990年に北朝鮮で制作された長編アニメです。北朝鮮を代表するアニメ作品として、海外でも研究対象になっているほどの話題作です。大人も楽しめるアニメだと評判が高いので、日本でも観られるチャンスがあるといいですね。


ドラマ『太王四神記』も、とても切ないラブストーリーだそうです。ナクラン姫になった気持ちで、ペ・ヨンジュン演じる太王・ダムドク王子様の活躍を見守りましょうね!

   – BY  趙章恩

Original column
http://ni-korea.jp/entertainment/essay/index.php?id=12