第19回:『太王四神記』のストーリーがわからない人のために 8

【第十八回】

『太王四神記』のストーリーがわからない人のために 7



自分の運命に気付いたスジニ



我らの「ペハ」ことヨン様は、ニューヨークでひとり暮らしを満喫? かと思いきや、「LAのコリアンタウンで目撃しました!」という情報がどんどんネットに投稿されていました。「美容院にいた(?)」、「皮膚科にいた(?)」などの出没情報が寄せられていますが、LAにいる知人と会ったり、楽しい時間をお過ごしになったのは確かなようです。またもや妄想モードですが、異国の地でヨン様とバッタリ! なんてことになったら、あ~私は自信がありません。間違いなく、その場で何も言えず失神です。^^


今日はスジニ役で今や韓国で最も輝いている期待の星となった、イ・ジアさんのニュースから。


『太王四神記』で女優デビューしたなんて信じられないほど安定した演技を見せてくれた、ジアさん。もうキム監督ったら、どこからこんなすごい新人を見つけたのかしらと、生意気にも感嘆するばかりです。グラフィックデザインを勉強していた学生だったのに、初のドラマ出演でいきなり準主役を勝ち得たシンデレラガールと見られがちですが、30回のオーディションを勝ち抜いてきただけに、タフな面もあります。厳冬の中、セオを演じるため薄い衣装一枚で山を走り回り、馬に蹴られ、蜂に刺され、それでも撮影を休むことのなかった根性の持ち主ですよ。そのタフさは、2008年秋公開予定の作品でも活かされています。


次回作はイ・ジアさんにとっては2度目のドラマ出演で、もちろん主役。日本の『のだめカンタービレ』とよく似たオーケストラと音楽を軸にしたドラマで、その名も『ベートーベンバイラス(ベートーベンウィルス)』。イ・ジアさんは天才的なバイオリニストの役なのですが、このドラマの出演が決まるまで、バイオリンに触ったことすらなかったといいます。なのに!! なんと!! 最初の撮影で、プロ並の腕前でベートーベンの「ロマンス」を淡々と弾き、監督とスタッフなど、その場にいた人全員の度肝を抜かせたそうです。プレミアムイベントで大阪に来ているあいだも、バイオリンを離さず練習を続けていたそうで、一度やると決めたことは、何がなんでもやってみせるという精神の持ち主。やっぱり凡人ではないのですね・・・。


さてさて、ついに今回のストーリー紹介はあの名場面! イ・ジアさんが感情を抑えきれず涙を流しすぎてNGになってしまったという、19話のあのシーンをご紹介します。


スジニがチョロと一緒にキハを訪ね、キハがチョロに火を放ち、苦しむチョロを目にしたスジニがチョロの胸に手を当てると火が消えました。スジニは正気を失い、刀に火をつけてキハを攻撃しました。その瞬間、キハのお腹の中にいた赤ん坊の力で、スジニは吹き飛ばされ、気を失ってしまいます。その衝撃でキハは火天会に操られるようになる前の記憶が蘇り、スジニが妹であることを自覚しましたね。


そのあいだタムドクは、ホゲが目の色を変えて神物を探すあまり、善良な村人を次々に虐殺した契丹の地(ゴラン、高句麗とはまた違う民族が住む中国寄りの場所)へ行き、兄弟国になるためのプレゼントを渡すべく遠征に出かけようとします。ホゲの父であるヨン・ガリョは、タムドクが契丹と手を結べば、ホゲも彼について行った4万人の兵士も見殺しにされるかもしれないと手紙を送ります(でも本当はホゲを助けるためなのに……)。


ところで、スジニはその後ずっと気を失ったままでした。セオがそうだったように、怒りのため自分を抑えきれなくなったのです。眠りから覚めたスジニは言います。


「覚えてはいるんです。私が何をしたのか。でも自分で自分を抑えることができなかったんです。ただ、自分の意思とは無関係に怒り狂い、火の玉を消して、人を殴って・・・そして殺そうと襲いかかって。こういうことでしょ? 朱雀の主人が正気を失うって、こういうことなのでしょ?つまりは・・私が朱雀の主人だっていうことだよね。参ったな、もう。これ、やらなくちゃいけないのかな? 私、こんなのやりたくないって言ったらダメなのかな?」。


「昔の記録によると、朱雀の主人が正気を失ってチュシンの王を殺そうとしたんだってね。だから、私がいつまた正気を失うかわからないし、この世を燃やしてしまうかもしれないし、それで王様の手で殺されるかもしれないんだよね」。


「最後に一度だけ会わせて。本当にもう一度だけ。一度だけならいいでしょう?師匠が私を殺すことなんてできないじゃない。だって師匠が自分の手で私を殺せば、師匠は一生泣いて暮らすから。私を赤ちゃんの頃から育てて、汚いおむつも取り替えてくれたのに、今、私が知っていることもすべて師匠が教えてくれたことなのに・・・恩をあだで返すわけにはいかないよ。師匠、私、どうも師匠に負った借金、返せそうにないよ。許してね」……。






あの名場面をじっくり噛みしめましょう!



涙を浮かべたスジニの白い顔、小さい肩、強がっているけど心細くて、すがりつきたいような気持ちをかろうじて押し殺しているあの表情を見ると、「なんでスジニが黒朱雀なの!!」と、こっちが暴走したくなります。スジニなら、黒朱雀だとしても運命を変えられるはずですよね。


火を使ったことは覚えているものの、怒りでそれを抑えることができなかったということは、やはりスジニは黒朱雀だったのです。いつ爆発して、この世を火の海にしてしまうかわからない。そうなったら王様の手で殺されるかもしれない・・・その前に黒朱雀になったら、父のような師匠であるヒョンゴが自分を殺すことになっている。そんな一生立ち直れない傷を師匠に負わせたくない。だから自分の足でここを出て行く。好きで好きでしょうがないタムドクの手で殺されるしかない運命だなんて……その時スジニは、どういう思いだったのでしょう。


スジニはコムル村の元老達に、ひとりで遠くへ立ち去ると申し出ます。最後の頼みとして、自分を助けるためにケガをしたチョロを必ず生き返らせてくださいとお願いします。面倒見がいいのも大地の母、朱雀の性格なのです。


チンダルレ(韓国の山でしか咲かないツツジの一種。春になると、葉より先に花が咲きます)のようなきれいなピンク色の服を着たスジニは、最後にタムドクに会いに行きます。あ~もう、このシーンを思い出すだけで涙が・・・。


恥ずかしそうに、そ~っと部屋に入るスジニ。鎧を着ようとしているタムドクに、もじもじと話しかけます。


「私がやっちゃいけません?」、「何だ、お前」、「何がですか?」、「何をひろって着てるんだ。どこ行くんだ。今度はちゃんとやれよ。前みたいに穴一個抜けたまま縛ったりするな。それに、どこをそんなにほっつき歩いているんだ。うしろにピッタリくっついているのが見えないから、気になるじゃないか。コムル村に何かあったのか? 先生たちが昨日の夜、急いで出て行ったけど。喋れよ」、「何をですか?」、「怪しいだろう。お前が静かだからさ。何かしでかしたのか?」、「ちょっと待って。ちょっとだけ、このままいてください。考えごとしているんです」、「お前泣いているのか? 王様のうしろから抱きつくヤツがいるか? 顔を見せろ」、「私まだ酔いがさめなくて。今度の酒は飲むと泣くって言ってたけど、本当だ・・・。これ(タムドクが託した母の遺品、香水)を返しに来たんです。いつか貸してくださったもの。返せっておっしゃらないから、ずっと持ってました。戦でも傷が付かないようにすっごく気を使ったんですよ。きれいなままでしょう? ・・・私も一度はこういうことが聞きたかったんです。お前もちょっとはきれいなところがあるんだねって。それでこんな服を着てきたんです。私もこういう服を着れば、少しはきれいに見えるんじゃないかって。どうせなら、こういう姿で覚えていてもらいたくて。あ~恥ずかしい。じゃ、これで」、「何を覚えてもらいたいんだ。話したいことがあるならちゃんと言え」、「酔っぱらいがどうやってちゃんと話せますか」、「お前は元々きれいだ。こんな服と関係なく、お前がきれいなんだ。気がすんだか?」、「あとで変なこと言わないでくださいよ」、「こんなことは二度言えない」、「それじゃ。行かせてください」、「早く酔いをさまして遅れずに来い。すぐ訓練が始まる。弓手部隊員がみんなお前を待っているぞ」、「わかりました・・・イムグムニム(王様)、イムグムニムの背中から、すっごくいい匂いがするんです。知らなかったでしょう?」。


冗談っぽく、泣き笑いをしながら部屋を出てきたところに、ヒョンゴが立っていました。顔をぐちゃぐちゃにして、涙をこらえてヒョンゴは言います。「ノ、ウッキョ」(お前、笑えるぞ、おかしいぞ、という意味)。


きれいな姿を見せたかった。酔っ払ったふりをして、タムドクをぎゅっと抱きしめて、息をいっぱい吸い込んで、自分の全身全霊をかけてタムドクの匂いを吹き込んで、その思い出だけで一生、生きていける……スジニはそう覚悟したのですね。男勝りでツンツンしているように見えて、実は誰よりも繊細だったんだ、スジニ。それを忠実に演じてくれたイ・ジアさんもすごい!






今後は変化する衣装にも注目!



私はこのシーンが大好きで、何度も何度も繰り返し観ては泣いて、観ては泣いて・・・みなさんも、ぜひDVDで観てじっくり噛みしめてくださいね。思いっきり泣くのもストレス解消にはいいそうですよ。DVDはニッコリアストアでも販売中です。


この場面では「きれい」という表現として「イェプダ」、「アルムダプダ」ではなく、古風な「ゴプダ」という言葉が使われています。「ノド チョグムン ゴプグナ(お前も、ちょっとはきれいなところがあるんだ)」、「ノン ウォンレ ゴワ(お前は元々きれいだ)」という感じで使われました。


「ゴプダ」はなんというか、ずば抜けて美しいというよりは、柔らかくてやさしくて、清楚で清潔感があって澄んでいて……といったいろんな意味が込められた「きれい」なんです。だから、とても心にぐっと来るセリフなんです。スジニと会えるのがこれで最後なんて夢にも思っていないタムドク。いつも手を伸ばせば届く場所……。昔キハに、「振り返ったら見える場所にいてほしい」と頼んだときのように、今はスジニが視界の中にいないと気になってしまうのに、それが愛だとまだ気付かないのか、それとも気付かないふりをしているのか・・・。


一方、「もうどうなっちゃたの~~~」と突っ込まずにはいられないホゲは、ついにパソンの兄の居場所を突き止め、神物を手に入れます。


タムドクと太王軍は、契丹の村から村へとゆっくり移動します。ホゲが無残に殺した村人の死体を火葬し(中には赤ん坊も・・・)、生き残った家畜の世話をしながら、契丹軍に見せつけるかのように無防備な姿をさらしながら移動します。


しかし偵察隊が契丹軍に襲撃され全滅、かろうじて生き残ったひとりが、タムドクに契丹軍がどんどん勢力を増やしているという知らせをもたらしました。戦争だけはしたくなかったのに、太王軍と契丹軍の戦争が始まるのでしょうか! またもや、どうなるの~~。


ストーリーからは外れますが、ひとつ気になることが……。国内城に戻ったころからでしょうか、タムドクの衣装の雰囲気が変わっていませんか? 太子から王になったので当然といえば当然ですが、前はしなやかな印象のデザインやカラーだったのに、チョロと一緒に国内城に戻り王様になってからは、すごくしっかりした仕立ての衣装で登場します。


契丹に向かい、出発してからは鎧のデザインも変化がありました。胸の辺りに王の象徴であるボンファン(鳳凰)が描かれた鎧を着ています。コ・ウチュン将軍の胸にあった「井」マークもなくなっていますし。これにも何か深い意味があるのでしょうか? それとも考えすぎ?


次回もお楽しみに!



          BY  趙章恩

Original column


          http://ni-korea.jp/entertainment/essay2/index.php?id=19