親会社は時価総額30兆ウォン突破、LINE・ヤフー経営統合が韓国で好意的に受け止められる理由

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 2019年12月23日、Zホールディングス(ZHD、旧ヤフー)とLINEは両社の経営統合について、それぞれの親会社であるソフトバンクと韓国最大の検索ポータルサイトを運営するNAVERを含めた4社間で最終合意の締結に合意したと発表した。ZHDとLINEは、2019年11月18日に都内で記者会見を開き、経営統合の基本合意を発表していた。「統合して世界をリードするAI(人工知能)のテックカンパニーを目指す」「(GAFAなどに次ぐ)世界の第三極になるということだ」「互いの手を取り合ってさらなる高みを目指そうという大きな決断をした」といった両社社長の発言は韓国でも大いに話題になった(日本経済新聞 電子版の関連記事)。

 2019年11月28日にはNAVERも報道資料を発表した(同社のプレスリリース)。「LINE・Yahoo! JAPANの経営統合に関してお知らせします」というタイトルで、「LINEはフィンテック領域で緊密な連携を構築することでキャッシュレス時代の新しいユーザーエクスペリエンスを提供し、技術を基にした新規事業に進出して未来の成長に向けた相乗効果を図るため、Yahoo! JAPANや金融持ち株会社などを子会社とするZホールディングスと経営統合(business integration)することを決定しました。経営統合の結果、LINEとZホールディングスの親会社であるNAVERとソフトバンクが50:50でジョイントベンチャーを設立し、Zホールディングスの共同筆頭株主になります」「(経営統合により)日本及びアジア最大のユーザー基盤を確保できると期待しています」「グローバルプラットフォーム事業者と競争できる、AI基盤の新しいテック企業に位置づけられるものと期待しています」といった内容だった。

 LINEは親会社のNAVERと連携してメッセンジャーやモバイルコンテンツ、フィンテック、AI分野でグローバルビジネスを展開してはいるものの、LINEへの大規模投資によりNAVERの営業利益は減少していた。こうした分野はこの先もまだまだ投資が必要だ。韓国の証券業界では、経営統合によってNAVERの負担はより軽くなりLINEはより強力な資金源を確保できるとして、LINEの親会社であるNAVERの企業価値も上がったと評価されている。経営統合の発表以降NAVERの株価は上昇し、2019年12月20日時点で同社の時価総額は30兆ウォン(約2兆8000億円)を突破した。時価総額規模は韓国サムスン電子(Samsung Electronics)、SKハイニックス(SK hynix)に続き3位になった。

 NAVERが検索ポータルサイトとして正式にサービスを始めたのは1999年のこと。韓国の調査会社オープンサーベイによる2019年2月の調査では、韓国の10~50代のインターネットユーザーのうち74.4%が検索する際にNAVERを利用すると答えたほどである。AIを駆使した検索結果表示やショッピングレコメンドは好評で、広告も増えている。今ではサムスン電子や韓国LG電子(LG Electronics)と並ぶ大手企業であり、人々の生活に欠かせないあらゆる取引をネットであっせんするプラットフォームに成長した。韓国の就職情報サイトを運営するインクルートが2019年6月に国内の大学生を対象に調査した「最も就職したい企業」では1位にも選ばれている。ちなみに2位は有料放送向けコンテンツ制作会社の韓国CJ ENM、3位はサムスン電子だった。

 NAVERは最先端IT企業らしく、AIやロボット研究にも力を入れている。フランスにもAIの研究拠点を設けるなど、世界中の人材を集めている。2019年10月に行われた開発者向けカンファレンスでは、現在建設中の第2自社ビルをロボットと人間が共存する建物にしていると発表した。ビルへの入退出は顔認証で管理し、社員用無人店舗を配置し、人の移動を把握して空調を制御したり、自動運転ロボットが掃除や物品の運搬などを担ったりする、世界初の“ロボットフレンドリービル”になるとしている。

 NAVERのモバイルサービスも充実しているが、韓国内ではKakaoというライバルがいる。NAVERは検索ポータルサイトやパソコン向けサービスは韓国トップであるが、モバイルサービスとしてメッセンジャーアプリである「KakaoTalk」、モバイル決済の「Kakaopay」、モバイルバンキングの「kakaobank」などを提供するKakaoの営業利益は急速に伸びている。メッセンジャーアプリとしてLINEは日本では大流行したが、韓国ではすでに“国民アプリ”と呼ばれるKakao Talkがあり、囲い込み効果(ロックイン効果)によりLINEはほとんど普及しなかった。

 NAVERはKakaoのように銀行事業を保有していないが、LINEと連携して「NAVER Pay」を日本のLINE Pay加盟店でも利用できるようにし、銀行に比べ破格的に安い手数料で日韓国際送金ができるようにした。海外でも使えることから、NAVER PayはKakaopayより遅れてサービスを始めたものの2019年11月末時点で、韓国で最も利用者が多いモバイル決済サービスになった。

 2019年11月1日には、韓国の証券会社、未来アセット大宇より8000億ウォン(約750億円)の投資を受けて「NAVER FINANCIAL」という子会社を立ち上げた。NAVERのモバイル決済を担当する企業だ。同社とLINEが協力し、2020年からは台湾、タイなどにあるLINE Pay加盟店でもNAVER Payを利用できるようにするという。当分の間、NAVERの成功はLINE Payの成功にかかっている、というような状況が続くかもしれない。

 韓国では、経営統合によってLINEはGAFAと競争できるAIテック企業を目指し、まずフィンテックで日本市場のトップになり、それからアジア市場シェアを広げるのではないかとみられている。というのも、NAVER FINANCIALが設立されてすぐLINEの経営統合が発表されたからだ。経営統合により、最大のライバルだったソフトバンクグループのPayPayとの競争がなくなり、日本でのマーケティング費用を減らせる。既にGAFAが市場を掌握したといっても過言ではないコンテンツサービス分野に比べて、モバイル決済のようなフィンテック分野はこれから普及する領域であり、成長の余地が残っている。決済を中心にオンラインとオフラインをつなげる、中国の「Alipay(支付宝)」や「Wechat Pay(微信支付)」のような“スーパーアプリ”になれる可能性がまだある。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2019. 12.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00950/00014/