<寄稿>「スマート」だね韓国社会(上)
ITジャーナリスト 趙章恩
2010年に続いて11年も、韓国を象徴するキーワードは「スマート」である。韓国の10年のヒット商品はなんといっても「スマートフォン」。09年11月、韓国でiPhoneが発売されてから、三星、LG、パンテックなど韓国メーカーも次々にスマートフォンを発売し、スマート革命が起きた。流行を先取りしたがるアーリーアダプター(新機種や新規サービスを誰よりも早く試す人)が多い韓国らしく、スマートフォン、タブレットPC、3DスマートTV(インターネットとアプリケーションを利用できるTV)といった新しいデバイスは、予想を超えるスピードで普及した。
◆三星スマートTV◆ 三星の3DスマートTVを購入すると無料で3D動画を利用できる
◆スマートスクール◆ 韓国では14年から小・中学校、15年から高校でデジタル教科書が導入される。写真は三星電子と大邱高校が行っているスマートスクール実証実験で、タブレットPCを使って授業を行うだけでなく、出席確認、先生と保護者とのメッセージ送受信などを行う
◆Nスクリーン◆ 一度購入したアプリケーションはスマートフォン、タブレットPC、スマートTVから途切れることなく利用できる。写真はSKテレコムが提供するNスクリーンサービスHOPPIN
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あっという間の普及
◇変わる生活様式…テレビや新聞これひとつで
09年11月末に発売されたスマートフォンの加入者数が今年3月には1000万人、6月には1535万人を突破した。09年時点での予測は11年末1000~1200万台普及だったが、9カ月も前倒しで普及された。
さらに、人口約5000万人に対して携帯電話加入者数が今年6月、約5200万人と、人口より多くなった。韓国インターネット振興院や通信キャリアは、スマートフォン加入者が今年末には2000万を超え、携帯電話加入者の4割がスマートフォンユーザーになると予測している。
韓国は、98年のブロードバンド革命以上のスピードで、人々のライフスタイルはスマートフォンとソーシャルネットワークサイトを中心に変わり始めている。
98年のブロードバンド革命以来、1年でインターネット利用者数が1000万人を超え世界を驚かせた。IT先進事例を学ぶため、世界各国の公務員やビジネスマンが押し寄せた。
02年には世界初の電子政府がオープンし、10年には国連の世界電子政府評価で1位に選ばれた。また世界に先駆けてオンラインゲーム、市民記者が参加するインターネット新聞、アバター(着せ替え)、同窓会サイト、個人HOMPY(元祖ソーシャルネットワークサイトで知人だけに写真や書き込みを見せることができる)、テレビ番組のVODサービス(見たいときに見たいビデオが見られるサービス)、ライブベル(着うた)、カラリング(待ちうた)などのサービスを開発した。
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ニーズに応えた
時代の変化に敏感で新しいことが大好き、好奇心旺盛でチャレンジ精神のある韓国のユーザーを満足させたコンテンツは世界でヒットすると言われた。この勢いはそのままスマートフォン革命へと引き継がれている。
韓国の放送通信政策を担当する省庁である放送通信委員会が実施した「2010年放送メディア利用調査」では、日常生活で最も重要な媒体として58・2%がテレビを、34・2%がインターネットを選択している。新聞は3・3%、ラジオは2・0%に過ぎなかった。
インターネットさえつながれば、テレビ番組も観られて、新聞も読めて、音楽も聴けて、情報も検索できて、どの店よりも安く買えて、当日内に配達してくれるショッピングサイトも利用できる。
さらに、スマートフォンからインターネットが使えるようになってから、無料で音声通話もでき、メッセージも送信できるようになった。無料でチャットができる「カカオトーク」は、韓国のスマートフォンユーザーなら誰もが利用しているというほどの人気だ。
今年3月の東日本大震災の際、電話をはじめとする通信の不通状態が続いたが、日本に滞在していた韓国人らが家族や会社と連絡を取るために「カカオトーク」を活用し、安否確認が簡単にできたことから、さらに有名になった。
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新韓流も相乗効果
◇サイトが呼び込み観光客ふえる
韓国中が高速モバイルインターネットスポットになり、スマートフォンでつぶやき、すぐ反応できるようになってからTwitter、Facebook、Youtubeを経由して韓国のあらゆることが海外にも知れ渡り、K‐POPや韓国ドラマは日本や中国だけでなく欧州でもヒットするようになった。米国の動画サイトHuku.comでもTVドラマのカテゴリーから韓国ドラマが配信されるようになった。
韓国はすでに96年頃からテレビ番組をネットで配信するVODサービスが活性化していたことから、ドラマはもちろん全てのテレビ番組はVODサービスを前提に契約が交わされる。権利処理が難しくネット配信できる番組が少ない国では、そこそこ知名度のある韓国ドラマが目玉コンテンツになる。
K‐POPや韓国ドラマは当初、違法コピーされネット経由で世界へ広がったが、今ではアーティストごとにYouTubeオフィシャルチャンネルが開設され、あらゆる言語で作られたファンサイトが数えきれないほどある。
K‐POPや韓国ドラマが人気を得ると、韓国の文化や企業に対する関心も高まり、韓国への観光客も増えている。海外で人気のK‐POPアイドルは三星やLGなどIT企業のイメージモデルも務めている。
韓国貿易振興公社の調べによると、K‐POPや韓国ドラマが人気の国ほど韓国製品の輸入も伸びているという。Twitterの威力はK‐POPだけでなく、韓国社会問題を解決したり、災害時にはニュース速報よりも早く情報を伝播する役割も果たしている。
昨年9月の集中豪雨時や今年7月の集中豪雨の時も、被害状況をリアルタイムでつぶやき、避難を呼びかけたTwitterユーザーのおかげで命が助かった人は数えきれないほどいる。
既存のマスコミでは取り上げてくれない財閥と労働組合の対立や、大学の高すぎる授業料問題も、Twitterのつぶやきをきっかけにインターネット新聞で取り上げられ、テレビのニュースでも取り上げられ、全国民に知れ渡るようになった。
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教科書もデジタルで
小学校100校で実験…参考書、辞書など盛り込む
スマートフォンだけでなく、タブレットPCの普及も進んでいる。
韓国の教育科学技術部(日本の文科省)は14年から全国の小・中学校で、15年からは高校でもタブレットPCを使ったデジタル教科書を導入する「スマート教育推進戦略」を発表している。教室と家庭のインターネット環境もADSLより100倍速い4Gネットワークにし、法律も改定して紙に印刷されたものが教科書であるという規定をなくし、デジタル教科書に「教科書」としての法的地位を与える。
元々、韓国は13年には全国の小学校にデジタル教科書を導入する計画だった。そのために、1996年からデジタル教科書開発を進めてきた。07年からは小中学校でデジタル教科書実証実験が始まり、11年も全国の小学校100校以上でデジタル教科書を使った授業が行われている。
スマート教育のためのデジタル教科書は教科内容、学習参考書、学習辞典、問題集、ノート、マルチメディア資料などのコンテンツが盛り込まれる。モバイルクラウドコンピューティングをベースに、インターネットさえつながれば、パソコン、スマートフォン、タブレットPC、スマートTVなど、どんなデバイスからも自分の教科書を使えるようにする。
09年度OECD学習到達度調査(PISA=Programme for International Student Assessment)によると、デジタル読解力では韓国が世界1位となっている。既にデジタル社会に慣れている学生の未来のためにもデジタル教科書は必要である。教育熱の高い韓国では、学校に入る前からデジタル教科書に慣れさせるため、幼児向けのデジタル絵本やデジタル参考書もよく売れるようになった。
もう一つ、国民の健康寿命(病気をしないで健康な状態)を延ばし高血圧や糖尿病といった慢性疾患を予防するためスマートヘルスケアの試験サービスも、全国各地で積極的に行われている。
これらのサービスにはセンサーとスマートフォン、タブレットPCが使われている。カメラで街を映すと広告や位置情報など、現実にはない情報が画面に映る拡張現実や、ホログラムを使って医者が遠隔で診療を行う技術も開発している。
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次はスマートTV
サービス多様に…メーカーがコンテンツ提供
最近のスマートフォンは薄くて軽いは当たり前。専用メガネなしで3D画面が観られ、画面も5インチと大きくなり、太陽の下でも画面が反射することなく見やすいなど、機能がアップグレードされている。
スマートTVは発売されたばかりであるが、知識経済部(IT産業の政策を担当する省庁)は、13年にはテレビ受像機の半分がスマートTVになると予測している。
スマートフォン、タブレットPC、スマートTVの特徴は、メーカーがコンテンツまで一括して提供することだ。三星やLGは端末を作るメーカーでありながら、アプリケーションストアを運営し、コンテンツの版権を買い取り、直接ユーザーに提供もしている。
一度購入したアプリケーションは、どのデバイスからも再度購入しないで利用できるだけでなく、地下鉄の中で映画を観ていて、途中で家に着いた場合はその続きをスマートTVから観ることもできる。こういった途切れることのないコンテンツサービスを「Nスクリーン」という。
韓国のキャリアと三星、LGなどのメーカーはどこもNスクリーンサービスを提供している。Nスクリーンはクラウドコンピューティングという技術をベースにしている。
クラウド(雲)コンピューティングはネット上にアプリケーションやデータを入れておいて、いつでもどこでもどんな端末からも引っ張り出して使えるデータ保存サービスで、これをより安く提供できるようになったことから、コンテンツサービスの利用法もより便利になった。
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「ギガコリア」計画も
高速ネット商用化…個人アプリケーションも支援
韓国政府もこのスマートフォンブームにのって韓国を「ITコリア」から「スマートコリア」にレベルアップするための国家政策を発表した。12年まで固定では1Gbps、移動しながら100Mbpsの速度で利用できる高速インターネットを商用化し、15年にはさらにネットワークの速度を10倍速くする「ギガコリア」計画も始まった。
就職難や失業対策の一つとして個人のアプリケーション開発を支援している。交通・観光・福祉などの公共DBを公開して、誰もが国のDBを応用してアプリケーションを作れるようにもした。
面白い企画を持ち込むと、無料でアプリを開発してくれる支援センターもオープンした。大学でも政府支援によるアプリケーション開発講座が始まり、一昔前に流行った大学生のベンチャー起業ブームのように「アプリ長者」を夢見る若者が増えている。
世界市場を舞台にしたアプリケーションマーケットで韓国のデベロッパーが開発したアプリケーションが競争力を持ち、海外の人気アプリケーションが韓国でもサービスされるよう、住民登録番号を使った本人確認、コンテンツ年齢制限審議など韓国独自の規制といわれている制度を改善することにした。
拡張現実や仮想現実などの技術を導入して制作されたスポーツ疑似体験、ヘルスケア、旅行体験、3D映像といったモバイルコンテンツ制作も支援している。
趙章恩氏
(2011.8.15 民団新聞)
Orginal link
http://www.mindan.org/front/newsDetail.php?category=1&newsid=14762