ついこの間、釜山で中学3年生の男の子がパソコンゲームをやめるよう注意する母親を殺して自殺し、小学生の妹が遺体と遺書を発見するという痛ましい事件が起きた。家族の証言によると自殺した中学生は学校に行く、食事をする、トイレに行く以外はゲーム漬けの生活で、深夜2~3時までオンラインゲームを続けるほどの中毒状態であり、母親とトラブルが絶えなかったという。しかもこの中学生は専門機関よりオンラインゲーム中毒治療カウンセリングを受けていたにもかかわらず、ゲームをやめることができなかったという。
ちょっと前にはオンラインゲームに夢中になって新生児を放置し死に至らせた親もいた。子どもがゲーム中毒になり、パソコンを使わないようにする親ともめて暴力をふるったり、殺人事件にまでなったり、自殺をしたりする。このような事件は毎年どころか毎月のように起きている。
韓国の中央省庁である女性家族部は、夜12時以降、青少年がオンラインゲームをプレーできなくする強制的シャットアウトの内容が含まれた青少年保護法改定案を提案した。これが、事業者が選択的にシャットアウトするのはいいが強制して過剰な取り締まりはしない、というゲーム産業振興を担当する文化体育観光部の方針と衝突。国会で係留中である。
ゲームを長時間すると面白くなくするシステムも導入されたが(関連記事)、多人数がアクセスして一緒にロールプレイングしてミッションをクリアしていくゲームだけに適用され、シューティングや一人でもできる戦争ゲームには適用されない。ほとんどのユーザーはオンラインゲームを種類別に利用しているので、このシステムが作動するとほかのゲームに移り、また次のゲームへ移るといった具合に1日中オンラインゲームを渡り歩くので、大きな効果が得られなかったという。
韓国内では本当にゲームだけが悪いのか?という意見も少なくない。もうすぐ年に一度の大規模なゲーム展示会が開催されるだけに、年間1兆5000億ウォン(約1050億円)規模の輸出産業としてゲームをもっと評価してほしいという業界の主張もある。オンラインゲームといえばアジアでも欧米でも中近東でも、韓国産ゲームが人気上位にランクされているほどである。
すべて悪いのは子どもを中毒状態にさせる「オンラインゲーム」と片付けるわけにはいかない教育問題、家族問題も潜んでいる。子どもがなぜゲームに溺れてしまうのか。それは家庭がしっかりしていないから、という分析にもつながるのだ。
韓国の今年の大学受験試験日は11月18日。受験生のために会社員の出勤時間が1時間遅くなるこの日の試験成績で、その後の運命が決まる。いいところに就職するためいい大学に行くのではない。いい大学を卒業しても「就職」そのものが難しい。無職になれば、無所得の状態になってしまう。食べていくためにはいい大学、名門大学に入らなくてはならない。だから必死なのだ。
こんな受験戦争の中、学校と塾だけを往復する子ども達の唯一の息抜きがオンラインゲームなのだ。こっそり塾をサボって行けるような場所なんてPCバン(ネットカフェ)ぐらいしかない。インターネットにつながったパソコンはどの家にもあるので、勉強以外のことがしたくても一人でできることといえばオンラインゲームぐらいだ。最近はインターネット経由で受験用の動画を見ないといけないからとスマートフォンを買ってもらい、ゲームばかりしている子どもが増え親を悩ませている。
親がしっかり子どもの生活に関心を持って会話をし、パソコンを部屋におかないといった工夫をした家庭ではオンラインゲーム中毒がほとんど発生しなかったという研究もある。オンラインゲーム中毒になるのはゲームの問題ではなく生活の問題の方だとしたら、その方が深刻なのではないだろうか。
失業率も高く働きづめで子どもと一緒にいる時間がない親も増えている。家族のために働いているはずが、子どもは毎日一人でゲームしかすることがない家庭を生み出している。大学に行かなくても就職できる社会、最低限の生活ができる給料、自分の才能を見つけられるクラブ活動が楽しめる学校生活、そういう環境が整えば少しはよくなるのでは?
韓国でネットのリテラシーを高めるということは、使い方を教えるというより中毒にならないための健全な使い方を身につけさせるということである。小中高校では年中、ネット上のエチケットを守ろう、著作権を守ろう、違法ダウンロードはやめよう、ネット中毒にならないため1時間以上連続してパソコンを使うのはやめようなど、外部講師を招いて特別授業を行っている。ゲーム中毒予防教室やゲーム中毒を改善するためのカウンセリングもいろんな市民団体や自治体が開催しているが、それでもゲーム中毒による殺人事件や自殺は後を絶たない。韓国情報化振興院が2009年実施した、9~39歳を対象にした調査結果では、ネットユーザーの8.5%がネットにつながっていなかったりオンラインゲームをしていないと心理的に不安になって落ち着かない状態になる中毒症状を見せていることが分かった。オンラインゲーム中毒カウンセリングを受けた青少年も2007年の3440人から2009年の4万5476人へ13倍以上増えている。
省庁の行政安全部は「インターネット及びゲーム過多使用に対する危険性を知らせ、健康なインターネット文化を醸成する」のを目的に「インターネット中毒克服手記公募」なんていうのまで開催している。最優秀賞には100万ウォン(約8万円)の賞金が出る。専門家のカウンセリングも効果がないのなら、感動的な手記でやる気を出してもらうのもいいアイデアかもしれない。
趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2010年11月17日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101117/1028599/