日本で一時期問題になった「ワン切リ」が韓国で今、大問題となっている。
知らない方はいないと思うが、ワン切りとは、一度だけ電話をかけておいて着信履歴を残し、その電話番号に電話をかけ直させてアダルト番組などを流すというもの。韓国ではワン切りを「ワンリングスパム」という。
韓国の携帯電話の場合、以前は発信者番号通知(CID)が有料で提供されていたので、営業マンや芸能関係者など一部の人しかCIDを利用する人がいなかった。当然、悪者がどんなにワン切りの電話をかけたとしても、電話をかけ直してくれない状態なので悪者にしたらワンギリは無意味だった。しかし、新規料金制度の導入後からCIDを無料で利用できるようになったことを皮切りに、着信履歴の残る携帯電話を使うユーザーが増え、それに伴って、ここ2年の間にワン切りが物凄いスピードで増加している。
韓国スパム対応センターによると、2007年は携帯電話加入者の約7割がワン切りを悪用したスパム電話を経験しているという。しかも最近のワン切りは、固定電話の番号からではなく携帯電話番号からかけてくるので、騙される人がまた増え始めている。固定電話だとさすがに知人の電話番号かどうかを判別できるのだが、初めて見る履歴に残っている電話番号が携帯電話のものだと、つい「友達かな?新しい携帯電話を買ったのかな?」と思って、うきうきした気分でかけ直してみてしまうというような人間の心理を悪用しているわけだ。
着信記録があるので誰かなと思って電話をかけ直してみると、いきなり消費者ローンの広告が始まったり、風俗関係の広告が始まったり、うんざりしてしまう。無差別に電話をかけるので子供の携帯にもかかってくるし、1分おきに続けて電話がかかってくるので日常生活に支障を来たし、携帯電話の番号を変えざるをえなかったという人もいる。長引く不景気でなんとか財布の紐を縛り付けたいところ、ワン切りのせいで無駄な通話料がどんどん増えるからむかついてしょうがないとキャリア側に対策を求めるユーザーの声も後を絶えない。
日本のようなキャリア側のワン切り対策はまだ発表されておらず、ユーザーはどんどんワン切りの電話番号をブラックリストとして遮断していくか、騙され続けるしかない状況である。そこでユーザーが自ら対策を立て始めた。ワン切りスパム電話に悩まされたある大学院生が立ち上げたというWebサイトにはワン切り業者の電話番号を検索できるデータベースがあり、電話をかけ直す前にデータベースを検索して確認できる。このデータベースには自由に電話番号を登録できるので、自分にかかってきたワン切りに使われた電話番号を追加できる。2008年3月末時点でデータベースには11万件以上のワン切り業者の電話番号が登録されており、データベースの照会回数も44万回を突破している。
ワン切り業者のほとんどが使っているのが、プリペイド型携帯電話だ。外国人の名義を悪用してプリペイド型携帯電話を購入し、発信元を追跡できないようにしている。
韓国のプリペイド型携帯電話も日本と同じように通話専用で、加入費や基本料金がなく通話料だけを払えばよい。携帯電話をあまり使わないお年寄りや低所得者、外国人が主な顧客である。プリペイド型携帯電話を購入する際には、本人であることを証明する身分証明になるものを見せるのだが、それを代理店やキャリアがデータとして保存するわけではないので、店頭で身分を詐称できさえすればあとは使い放題。このため、プリペイド型携帯電話は、オークションやショッピングモールの詐欺によく使われる道具として問題となっている。
こうした問題を受け、2008年からは犯罪予防として、外国人の場合は、3カ月ごとにビザの有効期限を確認し、韓国に滞在できるビザが切れると同時に携帯電話も職権で解約できるようにもした。ワン切り業者が外国人の名義を悪用してプリペイド携帯を使っていることを知っていながらも業者を捕まえるのは難しいので、外国人名義の携帯電話の購入を規制したというわけである。ほかにも、一人3台まで購入できたのだが、一人1台までに制限された。
ワン切りの場合、電話番号の持ち主は探せなくても、広告主である消費者ローンや風俗関係のお店は簡単に突き止められるだろうに、ワン切り業者と共犯であるということを立証するのが難しいので警察も積極的には動けないのだという。
これにより、善良な外国人までも取締りの対象になり不便を感じている。銀行の口座も同じように、以前はパスポートさえ見せれば観光客でもその場で簡単に口座を作れたのだが、この頃はさらに詳しい審査をするようになった。ワン切りが原因で、外国人に閉鎖的な態度を取る嫌な国になってしまうのではないか心配だ。
アメリカでは同じ名義で加入された携帯電話が3回以上スパムの送信やワン切りに使われた場合、その人にペナルティーを与える。韓国ではそのようなスパム関連情報をキャリア同士が共有していないため、一人で550回も加入と解約を繰り返し、ワン切りとスパムSMSを送信していた悪質なスパマーもいたほどだ。
韓国のキャリアは、スパムを送信するユーザーであっても財産権の問題になってしまう恐れがあるので、携帯電話の加入を止められないとしている。スパマーが自らワン切りをやめない限りどうすることもできないというが、日本のように電話を受けて一定時間を過ぎてから着信音が鳴るようにするだけでも予防効果があるのではないだろうか。問題を放置したまま難しく考え込まずに、できる範囲内からこつこつと小さく予防を積み重ねていけばより良い対策が見つかるはずなのだが残念だ。
日本で大ブレイクしたニンテンドーDSの脳年齢を測定するゲームが韓国にも輸入されブームを巻き起こしているが、ワン切りまで輸入することはなかったのにね。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2008年4月2日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20080401/297697/