韓国の携帯通信キャリア3社の中で最下位のLGテレコムのパケット定額が話題になっている。「OZ」というブランド名のこのサービスは韓国で初めて月6000ウォン(約600円)の定額で携帯電話からインターネットへ自由にアクセスできるようにした料金プランである。
これまでも、携帯電話からインターネットに自由にアクセスできる方法としてはもう1つ「Wibro(モバイルWimax)」があった。携帯電話やノートパソコンを使って高速で移動しながらも途切れることなくブロードバンドでアクセスできることから「携帯インターネット」とも呼ばれている通信サービスだ。KTが主導していて、KTの子会社であるキャリアKTFの携帯電話から利用できる。2008年上半期まで加入すれば月々約2000円で使い放題だ。Wibroはまだソウルと首都圏の一部でしか利用できないエリアの狭さから加入者が伸びなやんでいるが、需要が増えることは間違いないとされてきた。
しかし、ここにWibroよりも安くて手軽な「OZ」が登場することによって、Wibroに投資する意味がなくなるのではないかという声も出てきた。フルブラウザー搭載でパソコンと代わらない画面を提供できるようになっただけに、わざわざWibroに加入することもないということになる。
これまで、韓国の携帯電話を経由したモバイルインターネットアクセスはキャリアのネットワークを経由しなくてはならなかったため、勝手サイトにはアクセスできないように遮断されていた。例えれば、NTTドコモのiモード経由でしかポータルサイトやメールにアクセスできなかったため、ドコモと契約しているサイトでないと他キャリアの携帯電話からはアクセスができないという状態だったわけである。データ通信料も高く、パケット定額は期限限定のプランしかなかったため、携帯電話で何か検索でもしようとするとあっという間に4~500円はかかってしまっていた。
「OZ」はプロモーション料金として加入から6カ月間は容量の制限なく利用できる。さらに基本料と音声通話の利用料に応じて毎月の携帯電話端末月賦金を無料にしてくれるプランも始めた。7カ月目からは同じ料金で月1GB分利用できるようになる。1GB分というとそれほど多くないように感じるが、一般的なWebページでいうと2千~3千ページほどの分量になるので携帯電話から利用する分には十分。先行するWibroに対しても、「OZ」は通信料が破格的に安い上にどんなサイトにもアクセスできるという点で韓国のモバイルインターネット利用環境を大きく変えることになるだろう。
携帯電話からインターネットに自由にアクセスできるようにネットワークを開放することに対してシェア1位のキャリアSKテレコムは慎重な立場を示しているが、前述の通り、残りの2社は市場拡大のため積極的になっている。ネットワーク開放は2001年から実現するといわれながらも、データ通信料や公式サイトの情報料収入が減ることを恐れたキャリアは反対してきた。SKテレコムの場合、データサービスの売上は年約1400億円、全売上高の15%を占めている。KTFとLGテレコムの場合はデータサービスの売上がそれぞれ500億円と150億円と、SKテレコムとは比較にならないほど少ない。SKテレコムは加入者数が韓国の人口の約半分にあたる2300万人ということに加え、ビジネスユーザーが多いのもデータサービスの利用が大きい理由のようだ。しかし2007年末、SKテレコムがブロードバンド通信会社のHanaroTelecomを買収する条件としてネットワーク開放を約束している。2008年内にはSKテレコムも開放するしかない見込みだ。
ただし、念のため触れておくと、SKテレコムやKTFは一応2007年からネットワークを開放したことになっている。しかし、両社は、携帯電話経由で特定のサイトにアクセスできるようにする際に、そのサイトに課すネットワーク利用料をものすごく高くして、事実上、サービスの提供をあきらめさせていた。ところが、LGテレコムのOZの登場で、日本のように携帯電話からもパソコンと同じく自由にインターネットへアクセスしたいというユーザーのニーズがあることははっきりしてしまった。
ポータル業界はモバイルから簡単にアクセスできるようになったことで、広告チャンネルが増えると喜んでいるが、キャリアは公式サイトではない勝手サイトにアクセスさせることで情報料の収入は減ってしまうのではないかと懸念の方が現時点では大きい。
韓国の携帯電話加入者は人口の9割近い4400万人である。「OZ」のようなサービスが全キャリアから提供されるようになれば、4400万人を対象にした新しいメディアが生まれることになる。そのためポータルサイトの「NAVER」や「DAUM」などはこぞってより使いやすくしたモバイル専用サイトの構築を急いでいる。モバイルネットワーク開放はキャリアにとっては収益減少につながるかもしれないが、ネット利用者増加と広告増加につながり、インターネット産業全体は潤ってくる。3Gで「より高速になりました」といってもデータ通信が高すぎて使えないままでは宝の持ち腐れというものではないだろうか。もう少し懐を大きくして3社ともに「OZ」のようなサービスを出してくれるといいんだが。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2008年6月4日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080603/1003917/