<BCN REPORT>「韓国」のSaaSはいま 3年余で利用企業は3倍に膨張
中小企業庁、きめ細かな支援を展開
政府が運営する無料体験サイトも
ソフトウェアをサービスとして使うSaaSは、韓国でも大きなテーマとなっている。WEBを通じて多様なソフトウェアを利用することができ、料金体系も月額で支払う形なのでパッケージソフトに比べて初期投資の負担が少なくてすむ。このような特性から、資金力に乏しい中小企業が情報化を進めるうえで有力な手段となっている。韓国政府もそのメリットに着目し、中小企業へのSaaS導入を積極的に支援する姿勢をみせている。最近の動向をレポートする。(趙章恩●取材/文)
韓国におけるSaaSは、いわゆる中小企業よりもさらに規模の小さい企業の情報化という側面から政府主導で広がっているようにみえる。中小企業労働組合中央会のデータによると、2005年末時点での韓国の事業体数は常時勤務者数300人以上の大手企業が4160社、300人未満の中小企業が300万1893社と全体の99.9%が中小企業と区分されている。企業の情報化では、従業員250人以上の企業すべてが全社員にパソコンを支給している。しかし、初期費用の負担や投資対比効果が疑問であるとして、インターネットとeメールといった基礎的な用途以外での情報化については消極的な姿勢をみせる企業が多いのが実情だ。今後、SaaSを利用してより多くのソフトウェアを少ない費用で利用できるようになれば、少額投資で中小企業の情報化が進められることになる。
■費用援助やコンサルの支援
韓国政府は00年から「中小企業情報化促進政策」に力を入れてきた。中小企業庁は生産や経営管理の情報化とその手段としてのASP導入を積極的に支援している。つまり、SaaSの前身であるASPの時代から、政府の支援体制が組まれてきたわけである。
支援策の内容を紹介しよう。
生産現場のネットワークシステムを構築して生産情報をリアルタイムに把握し効率化を図るための費用を50%支援するという「生産情報化事業(e─Manufacturing)」がその一例だ。さらには、何から手をつければいいのかわからない中小企業のために専門家を現場に派遣して、情報化の方向性と課題を分析しオーダーメイド型の情報システムを構築できるようにコンサルティングする「ITコーディネータ派遣」もある。また、政府の支援で情報化を図った企業を対象に経営改善と効率化を促進できるようシステムを有効に活用しているかどうかを情報化計画・活用・経営コンサルティングの3段階に分けて認証審査し、情報化を他の分野に拡大できるように支援する「情報化経営体制認証(IMS=Information Management System)」制度も設けられている。そのほか、社内のネットワークを構成し業種別の同業組合とネットワークをつなげることで電子商取引の基盤を活性化させ技術情報も共有できるように支援する「情報化革新クラスター」や「情報化のための訪問教育」、中小企業が保有している基盤技術の流出を防止するための対策と関連ソリューションを支援する「不法技術流出防止事業」などに年間約30億円ほどの予算を投じて支援してきた。
このように、中小企業庁は現場とかけ離れた理論的なことを押し付けるようなことをせず、中小企業の立場で情報化のステップを一つ一つ踏みながら進展できるよう指導してきたのだ。
■税制上の優遇措置も
興味深いのは、情報化のためにASPを導入した中小企業を優遇する具体的な措置もある点だ。生産性向上のための情報化としてERP(統合基幹業務システム)、SCM(サプライチェーンマネジメント)、EC(電子商取引)、CRM(顧客情報管理)などをASPで利用する場合、09年末まで利用料金の7%を所得税または法人税から控除してくれるというのだ。一定の条件を満たした企業が優遇対象となるが、ERPの導入でお金の出入りが透明になりすぎることを恐れる中小企業があるかもしれないという配慮からだそうだ。
ASPからSaaSに進化した場合の支援も継続的に実施されている。韓国政府はASPとSaaSを包括するものとして「Rent IT」という用語を使っている。Rent ITとは何で、どんなサービスがあるのかといった説明資料と利用方法の動画講義などを掲載したASP/SaaS導入支援ポータルサイト「IT DOUMI(ITお手伝いさん)」(http://www.itdoumi.or.kr)も運営している。通話無料の電話相談窓口もあり、困ったことや疑問があれば気軽に質問できる。
今年解体されてしまったが、韓国のIT政策を担当していた中央省庁である情報通信部は04年、「ITレンタル方式で100万中小企業の情報化達成宣言」を表明した。ASPを利用した中小企業の情報化支援、中小企業向けASP開発支援などが骨子となっている。マスコミを通じての大々的な広報も効果があったのか、韓国情報社会振興院の白書によるとASP/SaaSを利用している中小企業の数は04年8月時点で28万2000社だったのが07年10月には90万社へと3年2か月で3倍以上も増加している。
市場規模も05年末には1891億ウォン(約210億円)だったのが06年には2366億ウォン、07年には2961億ウォン、08年3308億ウォン(推定)と着実に増えている。ITレンタル産業協議会の調査によると、07年3月時点でASP/SaaSで利用できるサービスは308項目、サービスを提供する企業の数は同じく07年3月時点で161社となっている。
ソフトをコピーされることなく安定的な収入が見込めるSaaSを事業化しようという、ソフトウェア業者の立場からキャンペーンの一つとして「Online Software Service」(http://www.onss4u.net)も運営している。ここでは誰でも無料でSaaSを体験できるようなっている。OSをWindows用とLinux用に分け、Office(文書作成)、マルチメディア、翻訳ソフトなど60項目を会員登録するだけで利用できる。
■SaaSは一般ユーザーにも浸透
中小企業のために政府の支援で構築され、08年末まで無料で利用できるCRMのSaaSサイト(http://www.esaleskorea.co.kr)もある。09年以降は1社当たりのユーザー数に応じて実費のみ請求される。このeセールスからは顧客管理、製品・サービスの問い合わせ、修理受付、携帯電話SMS(ショートメッセージサービス)やeメールを利用したキャンペーン機能も利用できる。
昨年12月には政府機関とソフトウェア企業30社余りが参加する「SaaS Koreaフォーラム」が発足した。さらに今年からはSaaS活性化のために国が10億ウォン、民間が5億ウォンを投資してWEB基盤ソフトウェアの開発を支援する。ポータルサイトも文書作成ツールや保存スペースを無料で提供している。
企業だけでなく、一般ユーザーの間でもOfficeソフトウェアを購入しないで、SaaSによって利用する動きがみられる。このように、SaaSは韓国社会に着実に浸透してきている様子がうかがえる。