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韓国のICT政策を担当する省庁の未来創造科学部は2014年7月7日、「勤労福祉公団病院対象医療システム革新実証実験」に着手したと発表した。これは病院間で医療データを交流(シェア)できるプラットフォームを構築する実証実験である。
例えば、A病院で治療していた患者が急に症状が悪化して近隣のB病院に駆け込んだ場合、B病院は同プラットフォーム経由でA病院にある診療記録を閲覧し、素早く対処できるようにする。
経営が違う病院間でもデータシェア
韓国では既に2000年代初めから、大学病院や大型病院を中心にグループ病院間の電子的医療データ交流は行っていた。しかし経営が違う病院間でプラットフォームを作り医療データを交流するのは初めてのことである。
今までは、患者が病院を変えようとすると、前の病院にお願いして手数料を支払い診療記録のコピーをもらって持参するか、初診扱いで検査をし直すしかなかった。今回のプラットフォームを使うことで、患者がいつもとは違う病院に行っても、病院側がすぐ患者の診療記録や処方箋を閲覧して治療を続けられる。
未来創造科学部は今回の医療データ交流実証実験により、慢性疾患患者のケアをしやすくなると見ている。糖尿や高血圧といった慢性疾患の高齢者が自宅を離れて子供の家を訪問している間、一時的に違う病院に通う場合や、慢性疾患患者が急に意識を失って倒れた場合、どの病院に行っても医療データ交流でその人の診療記録を確認できれば、二重に検査することがないので患者は医療費を節約でき、病院側は追加で必要な検査だけすればいいのですぐ治療を行える。
未来創造科学部は、まず勤労福祉公団が経営する「勤労福祉公団病院」2カ所と、産業災害(日本でいう労働災害)指定病院6カ所を対象に実証実験を行うことにした。勤労福祉公団は、雇用労働部(部は省)の傘下にある政府機関で、企業が加入する産業災害保険や雇用保険業務を担当している。勤労者が業務上の災害で治療やリハビリが必要となった時は、勤労福祉公団病院または産業災害指定病院を利用する。
勤労福祉公団は2012年から統合医療情報システムを構築していて、病院の情報化や電子記録に関しては最先端の技術を導入済みである。実証実験はまず8カ所の病院で医療データ交流プラットフォームの技術効果と経済性を分析してから、全国に5500カ所ある産業災害指定病院に拡大する。実証実験の期間は2014年7月から2015年3月までで、政府予算15億ウォン(約1.5億円)を投資する。
既存のシステムを変えないように…
医療データ交流実証実験に当たり未来創造科学部が強調したのは、「医療機関が負担を感じないプラットフォームを作る」という点だ。
つまり、既に病院ごとに構築された情報化システムと、それぞれ使っている医療記録の様式や微妙に違う書式・用語を変えることなく、医療データを交流できるようにする。病院側が新しいプラットフォームに合わせて情報化システムを変えるとか、書式や用語を一新するとか、そういう面倒なことをしなくてもプラットフォーム上で解決し、病院間で相互利用できるようにする。それができるかどうか、やってみたら効果があったのか、といったことを確認する実証実験である。
また、医療データを交流する全過程において高度なセキュリティーシステムを適用する。患者が自ら自分の医療データを見てもいい人を指定する仕組みにする。xx地域のyy科の医療関係者、またはxx病院yy科の医療関係者だけ閲覧可能、という具合に自分のデータをどこまで公開するかを決め、誰がいつ閲覧したのかも全て記録を残す。
データ活用で患者に還元
未来創造科学部は、医療データプラットフォーム上の情報を分析して患者に提供する、スマートケア実証実験にも取り組む。産業災害によりリハビリが必要な患者を対象に、ウエアラブル端末とスマートフォンを利用して家庭でもリハビリができるようするものだ。ウエアラブル端末で患者の生活全般の動きを記録し、プラットフォーム上の診療記録や処方箋のデータと合わせてスマートフォンから運動や服薬の指示を出す。患者はスマートフォンから自分の診療記録や検査結果などを閲覧することもできる。
韓国では医療+ICTで社会問題を解決し、医療産業の競争力を上げるため、2009年から全省庁が連携して積極的に実証実験に取り組んでいる。今回の医療データ交流実証実験も、代表窓口は未来創造科学部になるが、雇用労働部、保健福祉部(保健医療政策を担当する省庁)、産業通商資源部(日本の経産省のような省庁)も参加している。世界各国で「データ」ビジネスが重要視されているだけに、医療データの分析や相互利用に関する実証実験は今後も増える見込みだ。