「韓国スマートヘルスケア最前線」「ヘルスケアアプリ=医療機器」にあらず、規制緩和で開発や特許出願が加速 [2014年03月03]

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韓国では、朴槿恵大統領が2014年の新年政府会議でヘルスケア産業に力を入れるよう強調したことから、関連企業の株価が一斉に上がるほど盛り上がっている。

事前審議なしで販売できるアプリを分類

 朴大統領が注文したのは、ヘルスケア産業拡大の壁になっている規制をなくすこと。「海外では遠隔健康管理市場の潜在力を高く評価し、一歩先に市場を開拓しようと動いている。潜在力の大きい世界市場で韓国企業が活躍するためには、先に韓国内の市場を活性化させ、世界市場に進出できるよう備えるべき」(同氏)。

 早速、IT政策を担当する未来科学創造部は、ヘルスケア向けアプリケーションソフトウエア(以下、アプリ)をより多くの会社が開発して普及させられるように動いた。食品医薬品安全処と共同で、2014年1月に「モバイル医療用アプリケーション安全管理ガイドライン」を発表した。

 これまで韓国では、ヘルスケアアプリは医療機器と同じだとして、食品医薬品安全処の事前審議と販売許可が必要だった。今回発表したモバイル医療用アプリケーション安全管理ガイドラインでは、事前審議なしで販売できるアプリとそうでないアプリを分類する判断基準、販売許可審査と品質管理などについて細かく明記した。

これによって、医療機器ではなく普通のアプリとして販売できるようになったのは、例えば次のようなアプリだ。すなわち、一般的な医療情報提供アプリ、患者の医療情報記録アプリ、自己診断型アプリ、遠隔診療のためのテレビ電話アプリ、である。さらに、食品医薬品安全処が持っている公共情報を開放して、民間企業がヘルスケアアプリ開発のために使えるようにもした。

Samsung Electronics社のアプリケーションマーケット「Samsung Apps」には、800件を超えるGalaxy向けヘルスケア・フィットネス・アプリが登録してある

 未来科学創造部は、ITと医療機器の融合に関しても規制を緩和するという。現在はスマートフォンやウエアラブル端末を使ったスマートヘルスケアも医療機器と同じく厳格に審査をしているため、優れたアイデアがあってもビジネスにするには難しい点が多すぎるからだ。

遠隔医療分野の特許出願が急増

 大統領の発言を起点に、ヘルスケア分野の規制がどんどん緩和され、市場を大きくするための支援策も発表されている中、ヘルスケア関連特許出願も増えている。

韓国特許庁医療技術審査チームによると、ICTと医療を融合したヘルスケア関連特許の出願は毎年増えているが、最近は特に遠隔医療分野の特許出願が増えているという。韓国では医療法の改訂により、2015年から医師が自宅にいる患者を遠隔診療できるようになったからだ。

 遠隔医療分野の特許は、医療機器に関する特許で、医師の臨床的判断を必要としない方法だけ特許を出願できる。患者にセンサーを装着してモニタリングし、異常があった場合は遠隔地にある病院に知らせるといったビジネスモデルや、緊急事態に陥る前に患者の状態を予測して病院に知らせる診断サーバーの技術などが目立つ。

 韓国特許庁は、「スマートヘルスケアは韓国の次世代成長分野なので、市場が活性化すれば特許紛争や知的財産権争いになる可能性がある。特許動向を把握して前もって知的財産権を確保する努力が必要だ」として、特許にも気を使うよう注意した。

医療観光地区を指定した大邱市

 自治体もより積極的に動き始めた。ヘルスケア産業育成に力を入れている大邱(テグ)市は、ヘルスケア関連企業が入居している先端医療複合団地に続き、2017年末の完成を目標に医療観光地区を指定した

医療観光地区にはヘルスケアリゾート施設を建てる。外国人観光客が3カ月以上滞在しながら治療に専念できる長期滞在型病院、高級ホテル、テンプルステイ(お寺での修行体験)・韓方エステ(韓国の漢方)といったヒーリング施設、医療観光客向けのショッピングセンターが含まれる。

 大邱市は医療観光地区に韓国の病院だけでなく海外の有名病院も誘致する計画だ。システム半導体・スマートセンサー・ソフトウエア融合といった、スマートヘルスケア産業の発展には欠かせない技術開発を支援するための施設も建てる。

産業拡大への動きが続々

 医療政策を担当する省庁の保健福祉部は、「2020 HEALTH Korea 健康な国民、幸せな社会」をキャッチフレーズに、「2014年保健医療技術研究開発事業投資方向」をまとめた。2020年には健康寿命75歳(75歳までは病気をしないで健康で過ごすこと)の達成を目標に、国民の健康維持とヘルスケア市場拡大という二つの側面から投資を進める。産・学・病院が連携して、研究結果を企業が生かせるよう、国の支援で研究インフラを構築することに力を入れる方針だ。

 韓国産業通商資源部(経済産業省に当たる省庁)は2014年2月17日、「スマートヘルスケア政策諮問団」を新設した。諮問団は病院、大学、研究所など多様な分野の専門家が参加していて、ソウル大学病院長が諮問団委員長を務める。諮問団は、スマートヘルスケア関連実証実験企画とヘルスケア産業標準化のための細部政策立案、保健医療分野の投資活性化戦略について意見を提示する役割を担う。

 この他、Samsung Electronics社やLG Electronics社、通信キャリアも新しいヘルスケアサービスを手掛けようとしている。中堅医療機器メーカーとIT企業の提携も増えている。2014年は、韓国のヘルスケア市場に大きな変化がありそうだ。



By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
 2014年3月3
-Original column

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