「韓国スマートヘルスケア最前線」朴大統領の肝いり、韓国医療機関の中国進出が本格化

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韓国大統領の朴槿恵(パク・クネ)氏は2015年9月2~4日、中国の戦勝節(抗日戦争勝利記念行事)に出席するため訪中した。韓国の企業人や保健医療分野の関係者が同行し、9月4日に上海で開催された、中国の企業人との商談会「韓中ビジネスフォーラム」に参加した。

 同フォーラムは中国国際貿易促進委員会、大韓商工会議所、大韓貿易投資振興公社が主管したもの。朴氏の訪中に同行したのは、病院や医療機器、製薬、化粧品、研究所など保健医療関連44社を含む韓国企業155社からの計156人である。

「韓中ビジネスフォーラム」の様子(写真提供:大韓商工会議所)
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 韓国保健福祉部によれば、この場で韓国の医療機関・医療機器の中国進出に関する15件のMOU(覚書)が締結された。MOUの主な内容は、ヘルスケアや遠隔診療、中国人患者の韓国医療観光商品開発、韓国医療機関の中国輸出、医薬品供給および製薬合弁会社設立、韓国医療機器の中国進出および合弁会社設立などに関するものである。

 「ヘルスケア」に関しては、韓国カトリック大学ソウル聖母病院と中国上海の瑞金病院が協力し、韓国が長年進めてきた「スマートヘルスケアシステム」を使った慢性疾患患者管理モデルを中国で構築することに合意した。中国はOECD加盟国の平均に比べて医師数が少ない。2012年における1000人当たり医師数のOECD加盟国平均が3.1人であるのに対し、中国は1.5人にとどまる。そして中国の医療機関は都市部に集中している。そのため、スマートフォンなどを使った慢性疾患のヘルスケアや遠隔診療を、どの国よりも早く本格的に導入する可能性が高い。

 韓国政府は2015年から、個人健康記録の基盤となるヘルスケアシステムの海外輸出に積極的な姿勢を見せている。韓国の病院とヘルスケアシステム、医療機器をセットで輸出できるよう、政府関係者が“営業マン”としてイベントに参加したり、韓国企業が海外の展示会に参加できるよう費用を補助したりしている。


医療ツーリズムで協力

 「医療観光」に関しては、政府系シンクタンクの韓国保健産業振興院と中国最大規模の旅行代理店である中国旅行社総社(China National Travel Service (HK) Group Corporation)がMOUを締結。中国人患者の誘致と安定した医療サービス提供に関して協力する。

 2012~2013年に韓国を訪問した医療観光客のうち、もっとも大きな割合を占めたのが中国人である。韓国保健産業振興院は、中国旅行社総社との協力を通じ、韓国医療サービスに対する信頼を向上させる狙いだ。韓国で治療を受けた患者が中国に帰国した後もケアを続けられるよう、「遠隔医療中国センター」を設立することも検討するという。

 ソウル大学病院は中国湖南省岳阳市とMOUを結んだ。2015年7月から既に、同市が建設するがん治療・美容整形・リハビリ・健康診断を専門とする1000床規模の病院を「国際ソウル大学病院」として運営するための事業妥当性調査を行っている。ソウル大学病院は病院の基礎設計から診療計画策定、病院情報システム構築、医療機器選定に至るまでのすべてについてアドバイスし、運営も担当する旨、岳阳市と議論を進めている。

 ソウル大学病院と岳阳市は開院準備に向けて、人材確保と教育訓練を目的に100床規模の現地病院を買収し、運営するトライアルに着手した。ソウル大学病院の説明によれば、岳阳市の関係者が韓国を訪問した際にソウル大学病院を見学。その医療サービスの質の高さに満足し、岳阳市の病院の運営を任せたいと依頼したことが今回のMOU締結につながったという。ソウル大学病院は2014年に、アラブ首長国連邦の王立病院の運営を受託した実績がある。


医療機器許認可の壁を超える

 「医療機器」分野では、韓国医療機器工業協同組合が、山東省の食品医薬品安全局と商務局、および江西省南昌市産業団地とMOUを締結した。韓国医療機器メーカーの中国進出を支援することが目的だ。中国との協力関係を強化し、より効果的な中国進出策を模索する。

 同組合によれば、従来は中国政府の自国企業保護政策により、外国メーカーの医療機器許認可がなかなか下りないという課題があった。認許可を受けやすくするために、韓国の医療機器メーカーと中国企業が合弁会社を設立。中国国内の産業団地で生産し、中国製品として同国内で販売するといった戦略も構想にあるようだ。

 空圧応用医療機器や高周波機器の製造開発を手掛ける韓国テソンマリフ社は中国Luye Medicals Groupに医療機器を輸出し、山東省威海市に工場を設立する。ハンリム医療器社は山東省烟台市に新設された烟台山病院に医療機器を納品する。この他、韓国の医療機器の中国への輸出に関する4件のMOUも締結された。

 「製薬」分野では、韓国トンアST社と中国HIGH HOPE INTERNATIONAL GROUPが不妊治療剤の中国輸出関連でMOUを締結。韓国ヒューオンス社と中国Northland Bio社はバイオ新薬開発関連で、韓国エップコンテック社と中国Sinomab社は抗体医薬品開発のための投資誘致と合弁会社設立に関して、それぞれMOUを締結した。

 韓国保健福祉部は「中国保健医療市場は年平均10%の成長を見せており、2020年には1兆米ドル規模になると見込まれる。韓国保健医療産業にとって中国はとても大切な市場。韓中FTAをきっかけに中国という巨大市場を占有し、保健医療産業分野の協力を拡大するためには官民の協力が欠かせない」とし、今後も韓国の病院や医療機器メーカーなどの中国進出をサポートする姿勢を示している。



[2015年09月24日]

By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス

 -Original column

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