「韓国スマートヘルスケア最前線」病院が主導する医療機器開発へ、韓国政府が5年間で約16.5億円投資 [2014年10月08日]

.

韓国の経済産業省ともいえる産業通商資源部は2014年9月25日、首都圏にある3つの大学病院(分唐ソウル大学病院、高麗大学安岩病院、カトリック大学聖母病院)を「医療機器事業化研究開発病院」に指定、2014年から5年間で150億ウォン(約16.5億円)を投資すると発表した。

 産業通商資源部は医療機器を国家重点戦略技術の一つに指定し、2013年から投資を惜しまないでいる。韓国政府の科学技術審議会は、「国家重点戦略技術とは、景気復興と国民の生活の質を向上するために国レベルで戦略的に確保する必要がある技術で、重点投資が必要な技術」と定義している。産業通商資源部は、医療機器の中でも特に3つの分野、すなわち(1)人体映像機器技術、(2)健康管理サービス技術、(3)疾病診断バイオチップ技術、に投資する考えだ。

Samsung以外の企業は難しい状況に

 医療機器の開発には企業と病院の協力が欠かせない。Samsung Electronics社は傘下にサムスン病院や、医学部があるソンギュングァン大学を持っているため、企業と病院の共同研究が比較的容易であるが、その他の企業にとっては病院と緊密な関係を築くのはとても難しいという。

 産業通商資源部は、「韓国の医療機器メーカーは中小企業が多い。中小企業が個別に医師や病院と接点を作り、臨床試験までつなげるのは大変難しいため、以前から企業と病院をつなげる場を作ってほしいという医療機器業界の要望があった」と説明する。そのため、産業通商資源部は、医療機器の研究開発初期段階から臨床試験、製品化、販売に至るまで企業と大学病院が緊密に協力できるように指定したのが、今回の「医療機器事業化研究開発病院」というわけだ。

異なる専門分野を持つ3つの大学病院

 医療機器を開発している企業は、専門分野に応じてそれぞれの病院に研究開発参加申請書を提出、病院に協力してもらいながら研究開発から製品化、認許可、生産、マーケティングを行う。指定病院は、臨床の視点から「こんな医療機器があったらいいのに」というアイデア、医療機器を研究開発できるインフラ、臨床試験、企業が開発した医療機器を実際に使ってみて評価しフィードバックするコンサルティングの役割を担う。企業と病院が研究開発に必要な設備を共有するという面でもシナジー効果が得られそうだ。

 3つの指定大学病院は、以前から医療機器の研究開発に積極的な姿勢を見せていた病院で、それぞれ専門分野がある。分唐ソウル大学病院は人体映像機器技術として放射線・非電離放射線機器を専門とする。高麗大学安岩病院は健康管理サービス技術として超音波や内視鏡といった生体現象測定機器、カトリック大学聖母病院は疾病診断バイオチップ技術として血液分析機器といった体外診断用機器を専門としている。

 指定大学病院は企業と協力するため、2014年9月25日から病院内に「病院・企業常時協力研究開発室」を新たに設け、企業が病院内で一緒に共同研究できる場所を提供している。同研究室には医師、研究開発経験の豊富な博士クラスの研究員、臨床工学技士、臨床検査技師、研究行政業務をサポートする職員などが常駐し、共同研究を依頼した企業ごとにチームを組んで研究を進める。同年9月から2015年の2月まで同研究室の準備を整え、2015年3月から本格的に研究に着手する計画だ。

診療中心からの脱却へ

 分唐ソウル大学病院は韓国の東大病院のような存在で、2012年3月から院内に臨床試験や研究実験を行う組織をまとめた「医生命研究院」を運営している。この中に医療機器臨床試験組織があり、委託研究を行っていた。

 高麗大学安岩病院は2014年7月、病院としては初めて医療機器と製薬・バイオ産業のベンチャーに投資する「医療技術持株会社」を設立した。同病院は、「研究だけで終わらず、医療技術を商用化できる病院にするのが目標」、「医療機器開発で病院の収益を増やし、利益を研究に再投資する」と説明した。

 病院とキャリアが合弁会社を設立してヘルスケアサービスを提供した事例はいくつもあるが、大学病院が自ら医療技術持株会社を設立したのはこれが初めて。高麗大学病院は首都圏に3カ所あるが、その中でも高麗大学から最も近い安岩病院は、高麗大学の理工学部と連携し、学生の医療機器開発ベンチャー起業も支援している。高麗大学安岩病は、産・学・病院の連携でベンチャーを育成する大規模な「メディカルベンチャークラスター」の形成も推進している。

 カトリック大学聖母病院も2014年1月から病院内に「先端融合・複合医療機器研究院」を、同年6月には「医療機器開発センター」をオープンし、医療機器の研究開発に力を入れてきた。同センターでは、医療関係者が必要とする医療機器を開発することを目標に、医療現場からの提案をまとめて企業と共同開発するといった、医療機器の完成度を高めるための病院―企業間の緊密な協力関係構築を進めている。

 診療中心だった韓国の大学病院が収益拡大のため医療機器開発にも関心を持ち始めていることから、今後は病院が主導する医療機器開発も増えそうだ。産業通商資源部は、病院と企業が常時共同研究できる環境を作ることで医療機器開発の試行錯誤を減らし、韓国ならではのICT融合医療機器の開発促進を期待している。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス

-Original column

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *