「韓国スマートヘルスケア最前線」 医療観光に注力する韓国、2020年に50万人の誘致目指す

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韓国の仁川空港到着ロビーには、医療観光案内カウンターがある。韓国は国策事業の一つとして、海外の患者を韓国で治療する医療観光に力を入れている。米国や中国、ロシア、中央アジアの富裕層がターゲットで、心臓手術や整形手術、不妊治療などのために韓国を訪問する患者は年々増えている。

2011年は12万2297人

 韓国観光公社と文化体育観光部(部は省に当たる)は、2011年12月に韓国の医療観光推進戦略と実績をまとめた「韓国医療観光総覧」を発行した。この総覧によると、2011年に韓国で受診した外国人患者は12万2297人で、2010年の8万1789人に比べて49%増加した。内訳は、外来患者が9万5810人、健康検診患者が1万4542人、入院患者が1万1945人だった。

 国籍別には米国27.0%、日本22.1%、中国18.9%、ロシア9.5%、モンゴル3.2%の順だった。外国人が主に受診した診療科目は、内科15.3%、皮膚科・整形外科12.7%、家庭医学科8.7%、健康検診センター8.3%、産婦人科7.7%の順だった。

 海外から韓国に観光目的で入国する外国人は年間1000万人近いので、医療観光の12万2297人というのはまだ観光客のごく一部に過ぎない。2020年には外国人の医療観光として50万人の誘致を目標とする。

 韓国が国をあげて医療観光事業を拡大しようとするのは、医療は高付加価値産業で経済効果が大きいからである。医療観光客は一般的な観光客より滞在時間が長く、一人よりも家族が一緒に訪問するケースが多いため、治療費や滞在費として使う金額も大きいのが特徴だという。2011年の医療観光客による収入は3558億ウォン、2015年には1兆2740億ウォン、2020年には5兆5101億ウォンに達する見込みだという。

通訳やコーディネーターの雇用効果も

 医療観光活性化により、2011年は韓国を訪問する外国人患者の入国から出国まですべてをサポートする医療コーディネーターや通訳など6545人の雇用増加効果があった。医療観光後の継続的な患者ケアのため、韓国総合病院の海外進出も活発になり、生産誘発効果は1兆ウォンに及ぶと見込んでいる。大韓病院協会は、医療観光活性化のためには、全患者の5%までに制限されている総合病院の外国人患者数を10%に拡大する規制緩和が必要だと主張する。

 保健福祉部だけでなく韓国観光公社と文化体育観光部も、医療観光産業を育成するための支援を行っている。医療通訳や、医療観光コーディネーター養成のための教育プログラムを運営していて、教育費の6割を国家補助金で負担している。

観光資源に乏しい自治体の活性化にも

 医療観光は観光資源に乏しい自治体でも医療技術で観光客を誘致できることから、地域経済の活性化にもつながる。

 国土海洋部は、韓国の内陸地域の地域経済発展のため、休養型医療観光事業を企画している。内陸には高麗人参や薬草などを栽培する農家が多いので、韓国の伝統漢方である「韓方」を取り入れたヘルスケアで健康を維持し、ゆっくり休むヒーリングの旅を提案するというもの。外国人専用の医療観光バスを運航することで自治体間の移動を便利にし、内陸地域をすべて回れるようにした。韓国のドラマやK-POPが人気の東南アジアの国々を対象に宣伝活動をしている。韓国保健福祉部は、外国人患者誘致のために大邱、仁川、済州などの六つの自治体に10億ウォンの国費を支援している。

 仁川医療観光財団と仁川市の総合病院は、2013年5月1日に中国の労働節連休に合わせて仁川港と中国の天津港を往復する定期クルーズ便が就航することを記念し、「クルーズ医療観光」を企画した。クルーズは観光客2000人と乗務員700人が乗船できる5万トン・クラスの旅客船で、年間22回往復する。クルーズに乗って仁川港に到着する中国人観光客を対象に採血をする健康診断、X線CT装置やPET、MRIを利用した早期がん診断サービスなどを提供する。このクルーズ医療観光のために仁川市と中国のハイナングループは2012年12月にMOUを結んだ。

国際遠隔診療を導入

 韓国の自治体の中で最もヘルスケア産業に力を入れている大邱市では、大学病院が積極的に医療観光を誘致している。

 大邱市の医療機関で受診した外国人患者数は2009年の2816人、2010年の4493人から2011年には5494人と22.3%増加した。大邱市の場合は、2011年の世界陸上大会の影響で外国人観光客が増えたことで、自然に病院を訪問した外国人も増えたともみられるが、大邱市が世界陸上大会に参加する選手団や観光客を対象に積極的に医療観光をアピールしたことで、大邱市の医療機関を信頼して訪問したともいえる。大邱市は市内中心部に「医療観光総合案内所」を運営していて、日本語・中国語・ロシア語などで相談できるようになっている。

 大邱市にあるケミョン大学病院は2012年10月、カザフスタンにユビキタスヘルスケアセンターを設立した。医療観光で大邱市を訪問し、手術を受けた患者の事後ケアを遠隔診療で行うためである。「カザフスタンより医療レベルの高い韓国の病院で手術したいが、術後もちゃんと診療してもらえるかが心配」というカザフスタンの患者のために、国際遠隔診療を導入したのだ。

 カザフスタンには1996年にケミョン大学病院が支援して設立した総合病院があり、その中にユビキタスヘルスセンターを置いた。手術を担当した医者は同センターから送られてくるレントゲンやデータを見ながら、手術を受けた患者とテレビ電話で会話し、術後の健康状態を観察する。

 韓国保険産業振興院の調査によると、海外に進出した韓国の医療機関は、2011年に17カ国74センター、2012年に16カ国90センターある。保健福祉部は2013年に医療機関海外進出200センターを目標としている。

海外進出をサポート

 保健福祉部は2013年1月、医療機関の海外進出をサポートするグローバルヘルスケアファンドを造成し、海外進出プロジェクト受注と投資家募集を担当する専門会社を設立すると発表した。

 外国政府が発注するヘルスケア関連プロジェクトを保健福祉部の専門会社が受注し、韓国の医療機関を参加させる。医療機関が海外に進出するためには、現地の医療制度や医療法に沿って許可をもらわないといけないが、この手続きはとても複雑で時間もかかる。保健福祉部は、プロジェクトを通じて医療技術を認めてもらい、現地政府や企業が病院設立に投資し、韓国は技術と医療専門家を輸出する形で海外進出することを目指す。

 この取り組みのモデルとしているのは、オーストリアの医療機関である「VAMED」。同機関は、医療観光誘致を進める一方、世界各国でヘルスケア・プロジェクトを推進している。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス

 2014年11月6

-Original column

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