【海外メディア最新事情】韓国での動画配信と放送の見られ方 OTTとドラマ競争の末、地上波民放の利益増

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OECD Digital Economy Outlookによると、韓国は加盟国中FTTH普及率が最も高く、モバイルデータ使用量も1位。世界初のスマートフォン向け5Gサービスを開始するなどICT利活用が進んでいる。放送分野も世界に先駆け、1990年代後半から”オンエア”(同時配信)や”ダシボギ”(番組の見逃し配信)を開始。テレビ受像機を保有しない傾向が強まった”ゼロテレビ”危機を乗り越え、ネットフリックス、Disney+、AppleTV+といったグローバルOTTと競争しつつ成長してきた。

韓国放送通信委員会の「2021放送媒体利用調査」によると、全世帯の約95%が地上波放送を再送信するセットトップボックス経由有料放送(ケーブルTV、IPTV、衛星放送など)に加入。OTT(動画配信サービス)利用率は約70%となっている。個人のスマートフォン保有率は全世代で93.4%、60代は91.7%、70代以上は60.1%であり、週5日以上スマートフォンを利用する人は91.6%で、テレビ受像機の73.4%より多かった。このような流れから韓国人にとって日常に欠かせない媒体は15年からテレビとスマートフォンの位置が入れ替わり、21年にはスマートフォン70.3%、テレビ27.1%の割合で必需媒体と認識されるようになった。22年の韓国放送産業の特徴は、民放の営業利益が大幅増益に返り咲いたことである。地上波放送局の放送事業による売上はここ10年で減り続けていた。韓国での動画配信サービスと放送の見られ方から、その秘訣を探る。

世界上位に入る作品群

韓国では1995年、公共放送のKBSを皮切りに地上波放送局がプラットフォームを開設。インターネットサービスを専門とする子会社を設立し、オンエアとダシボギ、見えるラジオ(スタジオ生中継)、クリップ動画サービスなどを積極的に提供していた。98年からは家庭でも安い費用でブロードバンドとパソコンを利用できるようになり、見たいときに見たい番組を有料で楽しむ文化がいち早く根づいた。好きな番組を見るための支出に躊躇しない視聴者が多いことから、地上波放送局対OTT、ネットフリックス対韓国勢OTTのオリジナルドラマ競争も激しい。ネットフリックスは2016年に韓国へ進出してから、韓国ドラマ制作に20年までに7,700億ウォン、21年5,500億ウォン、22年は1兆ウォンを投資すると発表。「韓国ドラマは米国ドラマの4分の1程度の制作費なのに世界中のランキングで上位に入る」として投資を増やし続けている。

韓国勢OTTも”打倒ネットフリックス”とばかりに年間1兆ウォン以上を投資してオリジナルドラマを制作し続けている。韓国だけでなく世界の視聴者に受け入れられる作品を目指しており、作品のジャンルも豊富で特殊効果や映像美もレベルアップしている。

トラフィック負担めぐる論争も

地上波民放は多額の制作費を投入するOTTに負けないため、ドラマの制作本数を減らす代わりに一つの作品にかける制作費を、外部投資を誘致し大幅増額した。また、テレビ放映開始と同時に自社プラットフォームでダシボギを提供し、どのタイミングでどのハイライト場面をSNSに投稿し盛り上げるか工夫。映像配信もOTTとユーチューブを使い分け、韓国だけでなく海外ファンも獲得した。韓国地上波3社(KBS・MBC・SBS)のユーチューブチャンネル登録者数は22年5月時点で1.4億人超。地上波放送局でありながら、ユーチューブでしか視聴できないオリジナルバラエティ番組も多数制作するようになった。

こうした成果が反映され、MBCとSBSの21年営業利益は大幅黒字となった。テレビ広告は減少しても、OTT経由の売上は順調に伸びているからだ。競争から生まれた「イカゲーム」「愛の不時着」「梨泰院クラス」「社内お見合い」などのドラマは海外でも記録的なヒットとなった。韓国のWEBTOON(紙ではなくネットで連載するマンガ)などの映像化も活発で、K-POPアイドルを起用する1話10分程度のウェブドラマもヒット作が増えている。韓国のOTTが海外に進出し現地でドラマを制作する流れも出てきた。

22年末にはアマゾン・プライム・ビデオとHBO MAXが韓国に進出するのではないかと言われている。海外OTTと韓国OTTのさらなるコンテンツ競争で、韓国視聴者を楽しませてくれそうだ。ただし、韓国ではOTTとISP(インターネットサービスプロバイダ)の間でトラフィック負担をめぐる論争も起きている。大量のトラフィックを誘発するコンテンツプロバイダーもネットワークインフラ投資に責任を持つべきという考えが広がっており、国会で電気通信事業法の改定議論が行われている。韓国の事例が、また海外にも影響を与えそうだ。

2022/06/13

ITジャーナリスト/KDDI総合研究所特別研究員

趙 章恩(チョウ・チャンウン)

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