ソウル市内ではWibro携帯またはスマートフォンと無線LANを利用してSkypeにアクセスし、料金の安いモバイルVoIPを利用したり、ノートパソコンを持ち歩かずスマートフォンでメールやファイルを確認したりする人をよく見かけるようになった。有線ブロードバンドに集中していたネットサービスも、この秋からは一斉に「スマートフォン」をテーマに動き出している。
韓国政府が力を入れているモバイルインターネット活性化戦略は、まずもっともユーザーの不満の大きい、モバイルインターネット利用料金から手を入れようとしている。そのために選んだ競争戦略の一つがiPhoneの韓国内発売である。iPhoneがヒットすれば、スマートフォン向けサービスも活性化され、自然とモバイルインターネット料金値下げ競争につながるため、さらにモバイルインターネット利用者が増加すると見ているのだ。
韓国でiPhoneが発売されなかった理由の一つはWIPIという韓国だけのミドルウェアを全ての携帯電話に搭載しなくてはならないという規定問題。これは2009年の4月に解決された。
その次は位置情報法の適用問題。放送通信委員会はiPhoneを韓国で発売するには、アップルが位置情報事業者として許可を受けなくてはならないとした。紛失端末探しやマップなど位置情報を収集してサービスを提供する場合は、プライバシー保護と個人情報に関する法的責任所在を明確にするため、放送通信委員会より許可を受けなければならない。これも2009年9月に解決した。
iPhoneを発売するKTが位置情報事業者及び位置基盤サービス事業者として認可を受けているので、iPhoneの位置情報サービスをKTのサービスとして約款に含める場合、アップルは許可を受けなくても位置情報サービスを提供できると判断した。KTが責任を取ることで、個人を識別できない方向案内や地図サービスはiPhoneから利用できるようになった。その代わり、個人情報を必要とする紛失端末探し(Find my iPhone)サービスは韓国で提供されない。
放送通信委員会はこれから、個人のプライバシーを侵害する恐れがないサービスに対しては規制を緩和する方針である。位置情報法も改定し、個人を識別できない位置情報を収集する場合は事業者許可対象から除外する。
海外企業の韓国進出を妨げ、モバイルインターネットサービスを井の中の蛙にさせていた各種規制がiPhoneをきっかけに一つ一つ解決され始めている。2008年から「今度こそは大丈夫」「春には発売される」「夏には発売される」と期待を集めてきたiPhone。紆余曲折の末に、やっと韓国でもiPhoneが利用できるようになったのだ。
韓国のiPhoneは、電話・ブロードバンドサービスの最大手でもあるKTより発売される。KTは移動通信キャリアで子会社のKTFと2009年6月に合併している。移動通信キャリア最大手のSKテレコムもiPhoneを逃すまいと交渉を進めている。
これからはキャリアとアップルの交渉次第であるが、あまりにも韓国のキャリアが熱心なため、アップルが無理な要求を次々に投げかけていて、その負担は結局ユーザーに回るという報道もあった。
KTの場合、11月に発売を予定していて、端末価格はKTがユーザーに端末購入補助金を支払う形で「iPhone 3G」が12万~13万ウォン(約1万円前後)、「iPhone 3GS」が24万ウォン(約1万8000円)と、サムスン電子やLG電子のスマートフォンに比べ3分の1ほどの値段を予定している。米国や日本と同じくモバイルインターネット使い放題料金制が適用され、2年縛りを条件に安く買えるようになるが、iPhoneの端末価格は韓国の携帯電話市場に大きな影響を与えること間違いない。
月々の支払額は、KTの場合2年縛りで月4万~5万ウォン(約3000~4000円)の料金を予定している。KTの携帯電話ARPUが平均3万2000ウォンなので、これよりは1万ウォン以上高くなる。KTはiPhoneに限らず、スマートフォン向けの料金制度を新しく導入し、モバイルインターネットの活性化を促進していくとしている。
ユーザーの間では激安料金(月約750円)で勝負しているシェア最下位のキャリアであるLGテレコムのモバイルインターネット使い放題料金制度が好評である。高くても話題性のあるiPhoneを使うか、実利を選ぶか。新しい物好きで自慢したがりの国民性からすると、iPhoneがヒットすること間違いないように見える。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2009年9月25日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090925/1018898/