つぶやき効果、いつまで? 政府も国民もTwitterにはまりすぎ

韓国がワールドカップ2010のベスト16に進出した。朝3時からの試合中継だというのに街角応援の熱気は相変わらずすごかった。次の日は学生も先生も会社員も主婦も、みんな朦朧としながらサッカーの話で盛り上がっていた。何かに夢中になると瞬時に、一気に盛り上がる熱血民族らしい光景としか言いようがない。

 ベスト16進出をさらに盛り上げてくれたのはブブゼラではなくTwitter。南アフリカ現地入りしたサポーターから街角応援している人、海外に住んでいる留学生、会社で残業している人、有名芸能人や政治家に至るまで、全世界の韓国人がTwitterを通じて一心に応援した。


 パク・チソンをはじめ代表選手らも、サムスンが運営している2010ワールドカップキャンペーンTwitterに「ベスト16の奇跡のために、必ず勝利します」と意気込みをつぶやいていた。試合を見ながら、応援しながら、つぶやきながら、フォローしながら、夜食を食べながら、本当に忙しい観戦となった。街角応援に参加できなくても、Twitterのつぶやきと写真を見ているだけで一緒に熱くなれる。マスコミのニュースより、スマートフォンを使ってリアルタイムで伝わる生々しいつぶやきの方が断然効果があった。そのせいか、スポーツ新聞社はこぞってTwitterのアカウントを持つようになっている。




サムスンのワールドカップキャンペーンTwitterにはパク・チソン選手もつぶやいている


韓国のTwitter利用者は約60万人、Twitterを訪問した人は5月だけで281万人といわれている。実名制のない海外サイトなので正確な利用者数は把握できていないが、スマートフォン普及との相乗効果で、実際には全国民がTwitterにはまっているような盛り上がりようである。


 韓国は1998年からブロードバンドが広く普及し始めた。ネット普及が7割を超えたあたりから、海外のサイトではなく国内企業のサイトが根強く人気を集めてきた。GoogleよりNAVER、FacebookよりもCyworldと、海外サイトは韓国では全くといっていいほどシェアが取れなかった。なのに、Twitterだけは例外である。同じようなつぶやきサイトは韓国にもたくさんある。しかしユーザーのほとんどはTwitterに集まる。既にみんながそこにいるからだ。


 手術中に輸血する血液が足りなくなった患者のために、家族が助けを求めてTwitterでつぶやいたところ、見ず知らずの人が次から次へと献血にやってきたり、白血病の子供がある俳優のファンだとつぶやいたら、1日でその俳優から連絡が来たり、「友達の友達はみんな友達」という公式がTwitterの中で成立している。

Twitterは6月2日に行われた地方選挙でも効果を発揮した。Twitterを利用した選挙運動は禁止されていたが、20代を中心に投票しに行く姿を撮影した写真をTwitterに載せて「投票認証」するのが流行り、投票率がなんと歴代2位の54.5%を記録したのだ。


 この後から政治家はもちろん、大統領官邸やソウル市など中央政府機関もTwitterに公式アカウントを持つようになった。


 ソウル市は市と市民が気軽に意見を言い合える場にしたいとし、文化、交通、生活情報など9つのIDに分けてTwitterを運営している。日本では行政が地域SNSを立ち上げて住民の意見をくみ取ろうとするが結局人が集まらず失敗したという話をよく聞く。それに比べ韓国の中央政府や行政機関は、時代の流れを上手くキャッチして、お金をかけず行政と国民が近づくきっかけを作っているようにみえる。国民ともっと気軽に意見を言い合える関係にしたいと、大統領官邸は、Twitterをはじめ韓国企業が運営する、シンプルで誰でもすぐ利用できるつぶやきサイトに参加している。こういうつぶやきサイトを利用して、ソウル市も、市民と気軽に長期的にコミュニケーションするのを目標としている。


 当然のことながら、企業はTwitter活用に積極的だ。ブログの対応に遅れて辛酸をなめた大手企業ほどTwitterに熱を上げる傾向があるようにみえる。去年までブログを中心に行われていた体験モニターや懸賞イベントが、今はほとんどがTwitterに移行し、スマートフォンからリアルタイムで参加することを前提にしている。Twitterはブログよりも口コミが広がるのが速く、携帯電話のショートメッセージやメッセンジャーよりも広範囲に伝わる効果があるからだ。


 それにしてもブログからTwitterへ移り変わるのが早すぎて、ついていけそうにない。何か一つブームになるとあっという間に燃え上がり、またあっという間に炎が消える。熱しやすくて冷めやすい韓国で、このTwitterブームも寿命がそんな長くはないと思うが、今のところはとにかくすごいとしかいいようがない。


 大手企業の社長も自分の日常をつぶやき、新製品の発表もTwitter中心だ。フォロワーと直接会って食事をしたりする政治家や芸能人もいる。何でもかんでもTwitterでつぶやくのがかっこよくて、ちょっとしたつぶやきに敏感に、いや過剰に反応する政府と企業の姿に「やりすぎじゃない?」と感じるのは私だけのようだ。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年6月24日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100623/1025698/



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