なんでもやってみよう精神で突き進む韓国「スマート」道

2010年韓国のIT輸出実績は好調だった。輸出が経済を支える韓国だけに、IT輸出の好調は景気を直接左右する。携帯電話、ディスプレイ、半導体の3大品目が柱となり、史上初の1500億ドルを突破。国家輸出総額の約3分の1をITが占めた。2011年はスマートフォンの輸出増加、FTA、新興国の経済成長によるIT製品需要増で10%ほど輸出が伸びると予想される。

 課題となっているのはソフトパワーである。世界のIT市場規模をみると、ITサービス、ソフトウエアが市場の8割ほどを占め、ハードウエアは2割程度。一方、韓国はハードウエアの輸出がほとんどを占め、ソフトウエアは0.7%しかない(IT輸出1500億ドルのうち、ソフトウエアは10億ドル規模)。世界に逆行するIT輸出の内訳を立て直すためにも、ソフトパワーによる「IT融合」で新しい成長分野をつくりださないといけない。


 2011年、韓国政府のキャッチフレーズは「スマート強国コリア建設」となった。大統領も出席した放送通信産業のCEOらが集まった新年会で、政府と業界が一致団結して「IT強国を超えてスマート強国へ」成長していこうという「スマートコリア生態構築」を2011年の戦略として発表した。


 新年会で大統領は、「2011年はスマート時代、若者が中心となる新しい跳躍を期待する」とコメントした。スマートというのはいいが、若者が中心か…。「38度線」(韓国語で、「38歳で部長クラスに昇進できないとリストラされる」という意味)ではなく、「35度線」ぐらいになってしまうのかな。怖い。


 「スマート」で雇用拡大、「スマート」で成長への原動力発掘、「スマート」で中小企業と大手企業の共生、などなど、韓国では政府も研究所もマスコミも「スマート革命」とうたうほど「スマート」を強調して盛り上がっている。ところで、スマートフォンやタブレットPCが普及することで雇用が増えるのだろうか? スマートに効率よくして人を削るのではなく、新しい事業を立ち上げてその分を回す、というのだといいけど。年中リストラが当たり前の韓国だけに、「スマート革命」なんて聞くとまたクビ切りか、とビクッとしてしまう。


韓国政府のシンクタンクでIT戦略や市場動向を調査する韓国情報化振興院は、「2011年ITトレンド展望」として、以下のキーワードを選定した。スマートフォン、モバイルアプリケーション、タブレットPC、ソーシャルビジネス、モバイルオフィス、3D、クラウドコンピューティング、モバイルインターネット、個人情報、グリーンITである。


 海外市場で戦う韓国メーカーに目を向ければ、韓国IT業界の戦略は世界の流れと同じで、CESの影響を大きく受ける。CESで話題になったように、韓国も2011年はタブレットPC、スマートTV、4G、そして2010年に引き続きスマートフォンが中心になると見込まれている。


 スマートにつながる端末とネットワークとコンテンツ配信、というのが2011年のITトレンドということなのだろう。パソコンからスマートフォン、さらにはタブレットPCへと端末利用形態が移行し、各種ネットサービスはアプリケーションとソーシャルメディア、クラウドコンピューティングを経由したものに変わり、どこにいても仕事ができるモバイルオフィスに変わる、といった生活の変化も予想される。


 韓国の携帯電話出荷台数は年間2500万台ほどである。通信事業者の予測を見ると、2011年はその6割の1500万台がスマートフォンになると言うほどまだまだ伸び続ける。2010年が導入期だったとすると、2011年は活用期とも言える。政府のクラウドコンピューティング導入は2010年4月から準備していた統合電算センターが12月にオープンし、グリーンデータセンター、情報公開、情報管理先進化、といった国家戦略が実用段階に入った。


 IT専門紙である『電子新聞』が117社を対象に実施した「2011年CIOサーベイ」でも「スマートフォンとタブレットPCを社内で活用していく」、「目まぐるしく変化するビジネス環境に柔軟に対応するにはスマート技術を使った業務生産性向上が競争力となる」、といった答えが多かった。世界的不況で2010年まではIT技術を使ってとにかく費用を切り詰めることだけに焦点が絞られていたとすると、2011年からは、見通しのきかない時代ではあるものの事業拡大のためにITを活用したい、という雰囲気に変わってきたことが感じられる。

韓国IDCが発表した「2011 Top 10 Predictions」も面白い。


 韓国IT市場は2010年に前年比9.2%の成長率で高成長したが、2011年は4.1%と約半分に落ち込むと予測する。しかしソフトウエア分野の成長と新興国への輸出好調から安定した成長が見込まれるという。


 またクラウドコンピューティングが導入されてから、ビジネスのプロセスをどう統合していくかという部分をサービス化して提供するBusiness Process as a Serviceが注目されると予測した。スマート端末ユーザーの急増によってモバイルブロードバンドネットワークへの投資も増える。個人のスマート端末から企業のネットワークにアクセスして業務を行うことが増えているので、より安全なモバイルネットワーク構築に投資することになる。








ほとんどの企業がノートPC、スマートフォン、タブレットPCに適した顧客センターやアプリケーションを提供する

最も興味深いのは韓国がこれから「Intelligent Economy」 になるという予測である、ITと他産業の融合、融合された技術同士がさらに融合して新しい技術を生み出す。その結果、全産業にITが内在するIntelligent Economyへ進化するという。


 韓国では「Dream society」も注目のキーワードで、「夢を見てもらうことがビジネスになる」としきりに言われている。ITも同じで、顧客が求めているのは世界最先端の技術がなんたらではなくて、自分にとって価値のあるもの、ライフスタイルを豊かにできるかどうかだという分析である。必要だから買うというより、持っているだけで幸せになるから買うという消費で、アイドルグッズを買い占めるファンの気持ちをビジネスに生かすとも言える。


 似たり寄ったりの製品が増えている中、韓国企業が世界市場で力を発揮できているのは、グローバル企業が「ついていけない、無理」と首をふるほど新しいもの好きで文句の多い韓国人を国内で日々相手にしているからかもしれない。最新IT技術で生活を便利にして、夢も与えて、価値のある商品と納得させて、そこそこ値段も安く、じゃないと売れないからね。ま、その文句、クレームが結局企業の製品やサービスを磨き上げてくれるのだけど。


 韓国も日本も、力を入れている分野はほぼ同じ。でも韓国の方が「なんでもやってみよう」精神が強いせいか、はたまた熱血ユーザーが多いせいか、スマートフォンやクラウドコンピューティングによって生活が便利になった、仕事がしやすくなった、と身をもって体験できるような気がする。政府が持つデータベースが次々にオープンAPIで公開され、誰でも自由にそれを使ってアプリケーションを開発できるようにもなった。これからはアプリケーションなのかWebなのかという論争も面白い。








「スマートビル」は企業の売り上げ・税金管理ができるアプリケーション。国税庁ともつながる

というわけで、2011年も韓国IT業界は楽ありゃ苦もある、いつでも夢を持って「まずはなんでもやってみよう」で突き進んでいくだろう。今年も日本のマスコミに「韓国企業に学べ」と持ち上げられるほど元気にがんばってもらいたいものだ。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年2月3日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110203/1029992/

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