日本でも韓国でも、どこにでもありそうでいざとなれば見当たらないもの、それは公衆電話ではないだろうか。韓国でも携帯電話の普及から公衆電話を再編が問題になっている。12月18日新しい10ウォン玉の発行をきっかけに、ついに公衆電話が全面的に見直されることになった。今年から全く新しい公衆電話が登場する。
苦境の公衆電話事業、損失補填額は2年で倍以上に
KT(旧韓国通信)の公衆電話の売上は2001年の3606億ウォンから2006年は854億ウォンにまで落ち、今年は550億ウォンにまで下がる見通しだ。2001年238億ウォンだった損失補填金は2006年507億ウォンと2倍を超える規模に膨れ上がっている。
新規発行された10ウォン玉は18mmと現在の10ウォンより4.86mm小さく、重さも4.06gから1.2gととても軽くなった。赤みのあるアルミニュームなのでゲームコインのようでまだなじめない。
10ウォン玉は物価の上昇とクレジットカード使用の普及から、一般的な生活ではほぼ使われなくなり、公衆電話ぐらいでしか必要とされない。公衆電話の市内通話は3分70ウォンなので10ウォン玉か50ウォン玉が必要だが、10ウォン玉の流通が少ないのでみんな100ウォン玉を使い30ウォンは次の人に譲る。
日本では公衆電話で100円玉を入れるとおつりは出ない。韓国もおつりは返してもらえないが、残高30ウォンが表示され、受話器を切らず電話の上に置いておくと、次の人は40ウォン追加するだけで電話が使えるという人情ある機能がついている。おつり30ウォンと表示された公衆電話に70ウォンを入れると100ウォン玉が戻ってくるという裏技もある。
でもKTによると公衆電話ですら10ウォン玉を使う人の割合は2.2%にすぎないので、今すぐ新しい10ウォン玉に対応した公衆電話に変える必要はないという。その代わりKTはコイン認識部分を取り替える程度ではなく、公衆電話そのものを取り替える方針を発表した。
プリペイド式交通カードも使える公衆電話投入へ
KTの新しい公衆電話は今年から2010年まで1年に1万台ずつ駅、公共機関など利用客が多い地域から順次に設置される予定だ。新型公衆電話は音声通話だけでなく、携帯電話にSMSも送信できるようになる。またテレホンカードの代わりにプリペイド式の交通カードも利用できる。交通カードは地下鉄・バス・タクシーなど乗り物や自動販売機、コンビ二、書店、インターネットショッピングなどで使え、首都圏共通なのでとても便利なカードだ。
だが問題は、韓国公衆電話の76%を占めるレストランや住宅街にある個人が設置運営する自給制公衆電話(日本のピンク電話)だ。韓国の公衆電話約27万台のうちコイン専用が18万5千台あまり、この内KTが直接運営する電話機は4万千台あまりにすぎない。コイン式の電話14万台、76%もの公衆電話が今回の計画と全く縁がないということ。
KTは自給制電話については業者がKTの回線をレンタルしているだけで電話機は業者の財産なので関係がないため、コイン認識部品を変える事もSMSや交通カードが使える新しい電話機にする計画も一切ないと発表した。100ウォンで通話し、おつり30ウォンをあきらめるか、設置者に旧10ウォン玉に変えてもらうしかない。
韓国の公衆電話は「コレクトコール」用に使われることが多い。緑の緊急電話ボタンを押すと信号音が聞こえる。その状態で「1541」+電話番号で市内・外、携帯電話へコレクトコールがかけられる。このサービスの主なユーザーは携帯電話を持たない小学生と徴兵制で軍に入った兵士達。徴兵制で軍の中にいる間は携帯電話は使えないので、コレクトコールで家族や彼女に電話をかける。コレクトコールで、携帯電話にかけたときは90秒250ウォンと通常の2倍近い料金になってしまい、軍にいながら毎晩電話をかける彼氏のせいで破産しそうだと嘆く女子大生もいたりする。
KTは新型公衆電話の普及に伴い公衆電話ブースも地方自治体及び専門家の意見を反映して、環境親和的なデザインを開発・普及する一方、悪化している公衆電話事業を正常化するために利用量に応じて電話機を再配置して行く予定だ。ただしKTは、公衆電話は全国民が緊急時に利用できる普遍的サービスであるという点を考慮し、数を急激に減らすことはなく適正水準を維持するとしている。
ネットでは「公衆電話を利用する人が減っているのは確かだけど、3分70ウォンを2分50ウォン、4分100ウォンにすれば10ウォン問題はなくなるはず。KTは利益だけを考えず国民の利便性も考えろ」と熱い議論が繰り広げられている。
前門の携帯電話、後門のIP電話
KTはPCのメッセンジャーと固定電話をつなげた「U2」、170万台が売れ1300億ウォンのヒットを記録した携帯電話のようなデザインと機能を持つ固定電話「Ann」、固定電話用のメロディコールや着うた、公衆電話から利用できる市内・外・携帯電話へのコレクトコールで、固定電話事業の収益をぎりぎりに保っているが、商用サービスが始まったインターネット電話と料金が安くなっている携帯電話の動向次第ではその収益の確保も厳しくなるかもしれない。薄氷を履(ふ)むような状況を、あの手この手のアイデアで乗り切っているのが現状だ。
注:100ウォンは約13円
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070116/258744/