アップルで終わらないサムスン電子の特許訴訟

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サムスン電子とアップルの特許侵害訴訟に進展が見られたと思われた矢先、今度は中国のファーウェイがサムスン電子を特許侵害で訴えるという事態が。韓国政府は海外進出企業の知的財産権保護に乗り出したが、「なぜ、国がそこまで?」という策を講じざるを得ない独自の事情について紹介してみたい。

アップルだけで収まらない
サムスン電子の訴訟合戦



 2011年4月から5年も続いているサムスン電子とアップルの特許侵害訴訟が、今年の秋口から来年早々にかけて、一つのヤマ場を迎える。

 アメリカ、韓国ではもちろん、欧州各国や日本でも両社の特許侵害をめぐる訴訟合戦が続いているわけだが、韓国メディアによると、今年10月11日にアメリカでサムスン電子側の上告審が開かれることになったという。判決は2017年1月に言い渡される見込みだ。

 アップルは、サムスン電子が2011年発売した「GalaxyS」と「Galaxy Tab」のデザインが、「iPhone」と「iPad」の丸い角やアイコンの配置構成といった特許を侵害したとして訴訟を起こし、その結果、アップル側が勝訴。2015年12月に、サムスン電子はアップルに5億4800万ドルの損害賠償金を支払った。このうち、デザイン特許の賠償額は3億9900万ドルである。

 サムスン電子が上告したのはこの損害賠償額の算定方式に関する内容で、韓国では、支払った損害賠償金を取り戻せるかどうかに注目が集まっている。

 合衆国最高裁判所は、年間7000件余りの上告を受け付け、その99%を棄却するという。よって、サムスン電子の上告が受け入られただけで「この上告審は、サムスン電子に有利」と報道する韓国メディアまで出るほどだ。

 ところがそんな矢先のこと。サムスン電子は、またも新たな特許訴訟を抱えることになってしまった。

 今度は、中国のファーウェイ(華為技術、HUAWEI)が、サムスン電子が同社の特許を侵害したとして訴訟を起こしたのだ。

訴えられる側だった
中国が訴えた真相は?

 ファーウェイは今年5月、7月と、立て続けにサムスン電子を相手に特許訴訟を起こした。4G移動通信やディスプレイなどについて、ファーウェイが持つ11件の特許技術をサムスン電子がライセンス料を支払わずに使ったので損害賠償をせよ、というのだ。

 サムスン電子が特許を侵害して製造したとファーウェイが主張する機種は、「Galaxy S7」をはじめとする16機種におよび、同社が求める賠償金の金額は、7月に起こした訴訟で8100万元(約1220万ドル)となっている。

 韓国メディアは、「特許侵害で訴えられる側だった中国企業が韓国企業を相手に訴訟を起こした」として大々的にこれを報道した。

「中国技術の逆襲、ファーウェイがサムスンに特許戦争宣布」(朝鮮日報)
「後発走者の中ファーウェイ、サムスンを狙い撃ち」(東亜日報)
「サムスンを標的にしたファーウェイ、米国での技術力アピール狙い」(キョンヒャン新聞)
「ファーウェイの本音はコピー会社の汚名脱皮する意図」(SBS)

 韓国メディアは総じて、「ファーウェイはサムスン電子との訴訟で知名度を上げようとしている。サムスン電子を訴えることができるほど特許も技術もある、というイメージ作りを狙ったノイズマーケティングではないか」と分析する報道を行った。

 また、「先に特許訴訟を起こして注目を集め、それからの交渉でサムスン電子とお互いの特許を共有するクロスライセンスを申し込んだり、技術提携を提案したりする可能性もある」と分析したメディアもあった。

 これに対してサムスン電子は7月22日、反撃を行った。ファーウェイとファーウェイのモバイル端末流通業者を相手取り、中国北京の知的財産権裁判所に、ファーウェイが求めた賠償金の2倍にあたる1億6100万元(約2400万ドル)の損害賠償を求める訴訟を起こしたのだ。

 サムスン電子側は、ファーウェイが自社のデジタルカメラ特許や移動通信技術、画像保存方式など6件の特許を侵害したと主張している。

なぜ政府がそこまでの
知財保護策を講じるのか

 この訴訟に関して、韓国のIT政策を担当する未来創造科学部のチェ・ヤンヒ長官は、「企業の知的財産権、IT分野の標準特許取得と保護を政府が手助けしなければならない」という趣旨の発言を行った。

 じっさい、韓国ではサムスン電子とアップルの特許訴訟が始まってから、各企業で特許訴訟対策が始まっている。その根底には、韓国の産業構造独自の事情が横たわる。

 韓国の人口は5000万人程度であるため、必然的に内需よりも輸出重視の産業構造が成り立っている。企業は、裁判をしてでも海外マーケットを死守する必要があるのだ。これは、スタートアップベンチャーだろうが、財閥企業だろうが事情は同じである。

 グローバルマーケットで生き残るためには、国際的な知財訴訟に勝ち抜いてブランド価値を保つ必要もある。だが、難しいのは、韓国国内では問題なくても、海外では特許侵害となってしまうケースや、その逆のパターンだ。

 7月19日、韓国特許庁は、海外進出を目指す中小企業の知的財産権を守るため、アジア・オセアニア専用の知的財産権訴訟保険加入費の7割を補助すると発表した。

 保険でカバーできるのは、知的財産を侵害された場合の警告状作成、鑑定費用、訴訟手数料、代理人費用など、因果関係が明確で算定可能な費用である。損害賠償金や和解金、罰金などは保険でカバーできない。

 さらに特許庁は、知的財産権訴訟保険に加入した中小企業を対象に、輸出しようとしている製品が海外の特許を侵害していないか事前に調べたり、海外で似たような製品があるときの対応方案を分析したり、企業別にコンサルティングも提供することにした。

 もちろん、日本企業も数々の国家間での知財訴訟を抱えているだろう。しかし、韓国が国を挙げ、知財に関するここまでの企業保護策を進める背景には、日本はじめ、各国よりもはるかに内需が少なく、有無を言わず海外と勝負しなくては、国の産業自体の死活問題につながりかねないという痛烈な事情が存在するのだ。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

ダイヤモンド online

「コリア・ITが暮らしと経済をつくる国」

2016.8.

 

-Original column

http://diamond.jp/articles/-/97389

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