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ロシアによるウクライナ侵攻で韓国経済が揺れている。韓国Samsung Electronics(サムスン電子)や韓国LG Electronics(LGエレクトロニクス)、韓国Hyundai Motor(現代自動車)はロシアに生産工場を持つほか、韓国企業は家電やスマートフォン、自動車などでロシア市場においてトップシェアを占めているからだ。原材料の供給難によって、韓国の主力産業である半導体産業への影響も懸念される。韓国内では官民で混乱回避に向けた努力が続けられている。
半導体生産に欠かせない希ガスの輸入をロシア、ウクライナに頼る
韓国経済にとって、ロシアによるウクライナ侵攻の最大の懸念は、主力産業である半導体への影響だ。
半導体生産に欠かせない希ガスの主要生産国はロシアとウクライナである。ロシアによるウクライナ侵攻後、半導体生産への懸念からサムスン電子と韓国SK Hynix(SKハイニックス)の株価が大幅下落した。両社は常に3カ月分の原材料を確保しているため、今のところ生産に支障はないとしている。
とはいえ韓国半導体業界は、半導体工程に欠かせないネオン(Ne)やクリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などの希ガスについて輸入に頼っている。韓国関税庁の21年輸出入貿易統計によると、ネオンの輸入はロシアからが5.2%、ウクライナからが23%である。クリプトンはロシアからが17.5%、ウクライナからが30.7%、キセノンはロシアからが31.1%、ウクライナからが17.8%だ。希ガスの多くをロシアとウクライナに依存していることが分かる。
ネオンは、シリコンウエハーに微細回路を刻むためのDUV(Deep UV)露光工程で使われる。DRAMでは約90%、NAND型フラッシュメモリーはほぼ100%を、DUV露光工程によって生産しているという。
韓国最大の鉄鋼メーカーであるPOSCOは22年1月、製鉄所の酸素工場内の空気分離装置を活用してネオンガスを抽出する「ネオン生産設備」を完成したと発表した。ただPOSCOの設備でも、韓国内の需要の約16%に相当する分しか生産できないという。
半導体のエッチング加工工程に必要なクリプトンとキセノンは、ロシアとウクライナからの輸入の割合が非常に大きい。POSCOは半導体工場に納品できる程度のクリプトンとキセノンの生産も進めているが、いつ量産できるかは未定という。
韓国半導体業界は、原材料供給網の強靭化を図っているとする。しかし半導体製造に不可欠な希ガスは、ロシアとウクライナを除くと中国や米国、フランスくらいしか供給元がないようだ。希ガスはロシアとウクライナが緊張状態だった22年1月から、既に値上がりが止まらない状況だ。
ウクライナ侵攻による半導体生産の先行き懸念から、今後、世界で半導体不足に拍車がかかる恐れもある。韓国メディアの報道によると現在、世界中からサムスン電子とSKハイニックスへの注文が殺到しているという。22年2月にはキオクシアと米Western Digital(ウエスタンデジタル)が共同で運営する半導体製造工場で、フラッシュメモリーの製造に不純物が混入していたことが明らかになった。さらに米Intel(インテル)は22年3月からデータセンター向けの新CPUを発売することを受けて、DRAMの買い替え需要によるメモリー半導体の価格上昇が見られることも、半導体不足に追い打ちをかけている。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
(NIKKEI TECH)
2022. 3.
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