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ロシアによるウクライナ侵攻の長期化によって、電気自動車(EV)向けのバッテリー原材料価格が高騰している。ロシアはEV向けバッテリーに使われる原材料であるニッケルの保有量が世界3位であり、世界供給の約1割を占めているからだ。米Tesla(テスラ)や中国比亜迪(BYD)をはじめとしたEVメーカーは、バッテリー原材料高騰を理由にEVの値上げを発表するなど影響が出始めた。バッテリーを半導体に次ぐ産業に育てたい韓国にとっても、対策が急務になっている。
高騰するニッケルの代りに浮上する「LFPバッテリー」
2022年3月17日から19日まで、韓国ソウルにある複合施設「COEX」にて、韓国産業通商資源部(「部」は日本の省に当たる)などが主催する二次電池産業展示会「InterBattery 2022」が開催された。198社が展示に参加し、4万人以上が来場するなど、韓国の国を挙げてのバッテリー産業後押しを示すかのように盛り上がりを見せた。
そんなInterBattery 2022に水を差す格好になったのが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響だ。特にEV向けバッテリーに使われるニッケルの価格が高騰していることが、韓国のバッテリー業界に影を落としている。
EV向けバッテリーに使われる純度99.8%以上のニッケルは、ロシア産のシェアが世界で最も高いという。韓国はロシアのほか、インドネシアやオーストラリア、南米からニッケルを輸入しているため供給が止まることはない。問題は価格高騰である。EV普及拡大でバッテリー原材料価格は上がり続けていたが、ウクライナ侵攻により一気に価格が跳ね上がった。
InterBattery 2022では、産業通商資源部のムン・スンオク長官、韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)と韓国SK On(SKオン)、韓国Samsung SDI(サムスンSDI)という韓国バッテリー3社の代表、韓国電池産業協会会長も出席。原材料供給網問題についてコメントした。
出席者からは「原材料価格と連動してバッテリー価格も上げるように完成車メーカーと契約をしているが、長期的に不確実性が続く場合はバッテリー側にも影響が生じる可能性がある」「合弁会社の設立などで安定した供給確保と価格競争力確保に力を入れている」「企業が原材料供給先を多様化しても限界がある。原材料供給は外交問題や資源を巡る覇権争いもあるため政府レベルでの長期対策が必要。いつどこでどのような制裁が飛び出るか分からない」といった声が上がった。ムン長官は「バッテリー供給網問題は政府の重大事項と認識している。世界ニッケル供給の24%を占めているインドネシアをはじめ、世界の供給網を確認する。省庁間で意見を共有している」と説明した。
韓国バッテリー3社は主に、ニッケルの配合量が高いNCM(ニッケル、コバルト、マンガン)系、NCA(ニッケル、コバルト、アルミニウム)系のバッテリーを生産している。今後の事業への影響を避けるため3社は、価格が高騰したニッケルなどの原材料を含まないLFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリーにも目を向けている。
LGエナジーソリューションとSKオンは21年10月、ESS(Energy Storage System)向けのLFPバッテリーを開発すると発表した。ただ発表時点では、原材料高騰が理由というよりはバッテリー事業の多角化のためという説明だった。SK onは「需要があれば(EV向けLFPも)準備する」という立場だ。サムスンSDIは今のところ、LFPバッテリーについての発表はない。
EVメーカー側も、LFPバッテリーの採用を増やす動きがある。テスラや独Volkswagen(フォルクスワーゲン)、米Rivian(リビアン)らがLFPバッテリーを採用することを明らかにしている。韓国メディアによると、韓国Hyundai Motor(現代自動車)も25年以降、新興国向けのEVにLFPを搭載する計画があるという。LFPバッテリーはこれまで、中国メーカーが生産する価格は安いが走行距離が短いEVに搭載されるものといったイメージがあった。だがここにきて、技術進展によってエネルギー密度が高くなり、多くのEVメーカーの選択肢になりつつある。
韓国のバッテリー原材料を扱う企業も、原材料の安定供給のため海外投資を増やしている。韓国POSCOグループは24年上半期に、アルゼンチンのリチウム工場の稼働を開始する。年間2万5000トン規模から始め、28年には年間10万トン生産を目指す。POSCOグループは18年に、アルゼンチンのオンブレ・ムエルト塩湖のリチウム採掘権を買収し投資を続けてきた。
現代自動車やLG エナジーソリューション、SKオンは、バッテリー原材料確保の負担を軽減するため、廃バッテリーのリユースとリサイクルにも力を入れる。韓国政府は廃バッテリー関連法を整備し、企業をサポートする方針である。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
(NIKKEI TECH)
2022.3 .
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