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韓国銀行が2024年9月11日に公表した「2024年4~6月企業経営分析結果」によると、機械・電気電子分野の売上高は前年同期比で20.7%増加した。クラウドサービスの利用増加によるAI(人工知能)サーバー向け半導体の需要好調、汎用メモリーの需要回復、さらに在庫調整によるメモリーの価格上昇がその理由だ。
米国半導体工業会(SIA:Semiconductor Industry Association)によると、2024年7月の世界半導体販売額は前年同月比18.7%増の513億2000万米ドル(約7兆2870億円)、9カ月連続で前年を上回った。半導体は韓国の全輸出の20%以上を占めているだけに、世界の半導体販売は韓国経済にも大きな影響を与える。
米国では生成AIの需要増によって半導体の販売が伸びているが、韓国も似たような状況である。最近では「AI半導体バブル説」も出ているが、AI時代が本格的に到来したことで広帯域メモリー(HBM:High Bandwidth Memory)†はもちろん、AIの開発・運用に向けたサーバーの投資も拡大している。こうしたことから、データセンター向けSSD(Solid State Drive)の需要が伸び続けている。
韓国では2024年7~9月もHBMとSSDを中心に半導体輸出が増加し、企業の利益も拡大すると見られている。ただし、米国の対中規制によってHBMの輸出戦略を調整しないといけなくなる可能性もあり、前向きな予測ばかりではない。
†DRAMチップ(ダイ)を垂直に積み上げて全体のデータ転送速度を高速・広帯域化するメモリー技術。
NANDフラッシュの記録密度を86%向上
韓国のSamsung Electronics(サムスン電子)とSK hynix(SKハイニックス)は、HBMだけでなくエンタープライズ向けSSDでも「業界初」を強調した技術競争を繰り広げている。
台湾の調査会社TrendForce(トレンドフォース)によると、AI関連サーバー向けSSDの需要は増加しており、2024年4~6月におけるNAND型フラッシュメモリーの売上高は前期比14.2%、平均販売単価は同約15%上昇した。NAND型フラッシュメモリーの世界シェアはサムスン電子が36.9%で首位、それにSKグループが22.1%、キオクシアが13.8%、米Micron(マイクロン)が11.8%で続く。なお、SKグループのシェアは、SKハイニックスと米Intel(インテル)のSSD部門がSKハイニックスに譲渡されて誕生した米Solidigm(ソリダイム)の合計値である。
個人向けPC(パソコン)やモバイル向けSSDの需要は依然として低迷しているが、エンタープライズ向けSSD市場は、巨大テック企業とクラウド事業者のAIデータセンター構築競争によって同7~9月も順調とみられる。言語モデルの学習には、莫大な容量のテキスト・画像・映像を保存する必要がある。さらに、AIで推論した結果も保存してサービスを提供する必要があるため、大容量で高速なストレージが必要になる。
こうした中、サムスン電子は同9月12日、業界初とする容量1Tビットに到達したQLC(Quad Level Cell)タイプの「第9世代V-NAND」の量産を開始したと発表した(図1)。QLCは、1つのセルに4ビットのデータを記録できる構造である。
図1 業界初の1Tビットに到達
サムスン電子が量産を開始した、容量1TビットのQLC(Quad Level Cell)タイプの「第9世代V-NAND」(出所:Samsung Electronics)
第9世代QLC V-NANDは、セルの状態変化を予測して不要な動作を最小限に抑える予測プログラムによって、第8世代と比べビット記録密度(単位面積当たりに保存できるビット数)を約86%向上した。そして、書き込み性能は2倍、データ入出力速度は60%向上しているという。低電力設計技術によって、データ書き込み・読み込みの際の消費電力もそれぞれ約30%、約50%減少した。
サムスン電子は2024年4月に、第9世代のTLC(Triple Level Cell)タイプ V-NANDも量産化している。TLCは1つのセルに3ビットのデータを記録できる構造である。韓国内では同社が高容量・高性能SSDのラインアップを充実させ、NAND型フラッシュメモリーで世界トップの座を守り抜いたと評価されている。
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趙 章恩=(ITジャーナリスト)
(NIKKEI TECH)
2024. 9.
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