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2023年6月12日、韓国大法院(日本の最高裁判所に相当)量刑委員会は同特許庁と同大検察庁が2023年4月に大法院に提出した「技術流出犯罪量刑基準整備提案書」を採択して、営業秘密国外漏洩をはじめ技術流出犯罪の量刑基準を見直すと発表した。
韓国・全国経済人連合会(全経連)も6月8日、大法院に「技術流出犯罪量刑基準改善に関する意見書」を提出した。意見書は「半導体・二次電池・自律走行車など主力産業を中心に海外への技術流出が持続的に発生し、企業生存はもちろん国家競争力まで脅かしているが、処罰は低い水準にとどまっている」「米国は被害額に応じて最大33年9カ月の懲役刑、台湾は5年以上12年以下の懲役になるのに対し韓国は処罰が軽い」として技術流出犯罪をより厳しく処罰することを求めている。全経連の調査によると、2017~2021年に「産業技術の流出防止及び保護に関する法」の違反で起訴された81件の内、一審判決で有罪になったのは44件、さらにこの内執行猶予付きが32件、財産刑7件、実刑5件だった。
産業技術保護法には国家核心技術を海外に流出させる目的で営業秘密を国外に漏洩した場合は3年以上の懲役と15億ウォン以下の罰金を併科するという条項があるものの、実際に実刑になる事例は非常に少なく抑止力がないというのが全経連の主張である。検察も産業界が受けた被害を考えるとより厳しく処罰すべきだという意見だった。大検察庁の調べによると2019~2022年に「不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律」(不正競争防止法)、産業技術保護法を違反した技術流出事件の一審判決445件の内、実刑が宣告されたのは47件で、営業秘密海外流出犯罪の平均の量刑(懲役)は2018年が12.7カ月、2019年が14.3カ月、2020年が18カ月、2021年が16カ月、2022年が14.9カ月だった。
韓国の技術を海外に流出させる事件は後を絶たない状況である。韓国・国家情報院が公開した資料によると、2018~2022年に摘発された産業開発技術の流出事件は93件、被害規模は約25兆ウォンに上る。摘発した事件だけの被害額のため、実際はもっと多いとみられている。
最近の事例としては、2023年4月、海外企業に転職するため韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の半導体超微細工程技術を流出させたとして産業技術保護法の違反、不正競争防止法違反で起訴されたエンジニアの一審判決があり、当該エンジニアは懲役1年6カ月、執行猶予2年、罰金1000万ウォンとなった。ソウル中央地方検察庁はサムスン電子の被害を考えると量刑が軽すぎるとして懲役5年に罰金1億ウォンを求めて控訴した。
2023年2月にはサムスン電子の子会社SEMESの機密情報を不正に入手して半導体製造装置を製作、中国に輸出したことで産業技術保護法の違反、不正競争防止法違反で起訴された元研究員らの一審判決があり、主犯格の元研究員は懲役4年、元研究員が設立した法人は10億ウォンの罰金となった。産業界は「数百億ウォンの利益を上げたのに対し罰金は10億ウォン。リスクより利益が大きいままでは技術流出を抑制できない」と反発した。一方で、技術流出の裁判ではほとんどが初犯で技術が海外に渡る前に身柄を拘束されるなど、未遂で終わるケースが多いため刑が軽いという分析もある。
半導体生産拠点を自国に誘致しようと世界各国が競争する中、産業界に限らず韓国メディアも「処罰が厳しくないから繰り返し流出事件が起きる」と厳しく報じている。サムスン電子半導体工場の設計図をコピーして中国に半導体工場を建てようとした技術流出未遂事件も起こった。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
(NIKKEI TECH)
2023. .6
-Original column