スマホによるトラフィック激増で苦悩深まるキャリア

 2011年10月15日、韓国の通信キャリア3社は、ユーザーの年齢に関係なくスマートフォンとタブレットPCからアダルトサイトにアクセスすることを全面シャットアウトする方針を発表した。しかしこれは青少年保護のためではなく、激増する「トラフィック」を抑えるための対策だということから問題になった。キャリアがトラフィックの負荷を抑えるために、政府が決めた違法サイトでもないのに、特定のサイトにアクセスできないようにすることをめぐり、「ネットワークの中立性」を守らなくていいのかと指摘するユーザーが後を絶たない。


 通信政策を担当する省庁の放送通信委員会によると、2011年7月時点でキャリア3社のモバイルデータ通信トラフィックは1万1761TBで、2011年1月の4985TBの約2倍になった。このトラフィックの9割をスマートフォンユーザーが占めている。


 全ユーザーのモバイルインターネット利用が伸びている傾向ではあるが、実は5%のユーザーがトラフィックの93%を占めているほど、一部の超過多利用者がトラフィック増加を誘発していたという。トラフィックが激増するとネットワークの速度が遅くなり、途中でアクセスが途切れてしまうこともある。ひどくなれば音声通話まで影響を受け、通話中の途切れ現象が頻発するという。


 最大手移動通信キャリアのSKテレコムは、95%のユーザーが5%のユーザーのネットワーク利用料を負担しているようなデータ使い放題料金制度を中止。他のキャリアもこれに同調している。しかしこれでは、スマートフォンから従量制でネットを使うなんて、スマートフォンを使う意味がない。


 データトラフィックを誘発しているコンテンツプロバイダーもネットワーク投資に参加すべき、ネットワーク中立性を守るためには彼らもネットワーク費用を負担しないといけない、とキャリア側は主張する。一時はキャリアがメッセンジャーアプリケーションのようにトラフィックを大量に発生させるアプリの利用を禁止させようとしているという報道もあり(関連記事)、スマートフォンユーザーが猛反対したこともあった。


 しかしキャリア側は、どんなサイトにもアクセスできるようにするという「中立性」の負担が、ネットワーク事業者にだけのしかかるのは問題としている。中立性という単語のせいで、キャリアは悪者で、トラフィックを大量に誘発させ少数のユーザーが大量のトラフィックを誘発してもコンテンツプロバイダーは弱者という先入観を持つユーザーが多いのが悩みという。


 韓国では3Gより速度の速いLTE(long-term evolution、次世代無線データ通信の規格)の時代になればトラフィック激増の問題は解消するのではないかと期待されているが、スマートフォンの次は高画質動画中心のスマートTVがトラフィックを爆発させる主人公になるという予測もある。LTEが登場してもまた振り出しに戻り、キャリアはネットワーク品質の維持について悩み続けるだろう。


 スマートフォンが売れて、ネットにさえつながれば音声通話もメールも無料で送れるようになった。ネットワークからコンテンツまで提供する垂直統合で収益を上げてきたキャリアの旗色は悪くなっている。






スマートフォンからネット利用が急増している中、5%のユーザーが93%のトラフィックを占めていることが問題になっている。LGU+を始め、キャリア各社は次世代通信LTEを推進する。LTEで大量のデータを迅速に処理できるとしている




 だからといってネットワーク品質、トラフィックの安定化を理由にキャリアの基準で選んだサイトにアクセスできないようにすることは今後もっと大きな差別問題(モバイルインターネットを閉鎖し、キャリアの子会社サイトだけアクセスできるようにした過去のように)を起こすかもしれない。ネットワークの中立性とキャリアのネットワーク品質維持、両方を守れる方法はないのだろうか。






趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年10月28日]

-Original column

http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20111028/1038066/

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