スマートスクール最前線 from 韓国 ; 第3回:デジタル教科書の次は教室のスマート化

スマートスクール最前線 from 韓国

第3回:デジタル教科書の次は教室のスマート化


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2012/08/08 00:00

趙章恩(チョウ・チャンウン)=ITジャーナリスト


韓国の国家情報化戦略委員会と教育科学部(日本の文部科学省に相当)が、2011年6月に「スマート教育推進戦略」を発表してから1年が経過した。2015年を目標に、全国の小・中・高校でデジタル教科書を導入し、学習ツール、教育方式、教育課程のすべてを刷新するというこの構想は、着実に進んでいる。

 スマート教育推進戦略において、2012年の課題は5つある。(1)デジタル教科書の開発と教育現場での適用、(2)スマート教育研究学校の運営と教授学習モデルの開発、(3)教員のスマート教育実践力量強化のための研修、(4)クラウド教育サービス基盤の造成、(5)教育統合プラットフォームを運営するとともに教育コンテンツの安全で自由な利用環境を醸成する、ことだ。


 2007年からデジタル教科書研究学校を指定して本格的に実証実験を進めてきたデジタル教科書は、改良に改良を重ねて、現在バージョン3.0のテストが行われている。


 バージョン3.0は、教科書のPDFファイルをベースに、現場の教師が子供の学習達成度に応じて参考資料を追加できるようになった。教科過程や教えるべき教科書の基本内容は忠実に守りながら、子供たちが理解しやすいよう、教師が画像やアニメーション、ハイパーリンクを貼り付ける。教科書を楽に編集できるオーソリングツールも一緒に配布する。デジタル教科書のビューアとオーソリングツールは公募し、標準を決めるための作業が行われている。このデジタル教科書3.0の開発には、教育科学部の先導教師(自治体ごとにリーダー役の教師を選抜)120人が参加している。


 韓国ではデジタル教科書の開発がある程度進んだところで、教室のスマート化作業が始まった。ソウル市教育庁は、2011年に新規に開校した小学校、中学校、高校の1校ずつを、「スマートラーニング研究学校」に指定し、学校の中にスマート教室を作った。仁川市では既存のデジタル教科書研究学校を、「スマート研究学校」にアップグレードしている。


 今回筆者が取材したスマートラーニング研究学校は、ソウル市のモクウン中学校とシンド高校である。両校とも建物自体が「スマート」を意識した作りになっていた。韓国の一般的な学校とは違い、商業ビルのようなおしゃれな校舎で、学内の無線LANや電子図書館、グループ活動に使える教室がたくさんあった。学生は必要に応じてスマート教室に異動し、授業を受ける仕組みになっている。学校内はどこでも無線LANが使えるようになっており、教室の正面には3D表示に対応したテレビと電子黒板が設置されている。この「スマート教室」は、韓国の通信事業者であるLG U+社が協賛している。







モクウン中学校のスマート教室での授業の様子。「技術」の授業で、各自タブレット端末やスマートフォンを使って先生が送信した資料を見ている。


 学生には1人一台、韓国Samsung Electronics社製のタブレット端末「Galaxy Tab 10.1」が配布されている。タブレット端末は学校に置いたまま、スマート教室にいる時だけ使うシステムになっている。2015年以降は、低所得層の学生には政府が端末を購入して配布し、その他の学生は自分で端末を購入して持参するというのが、現在の方針である。


 韓国では2012年5月時点で、既に国民の約5割がスマートフォンを所有している。2014~2015年になれば家庭に1台以上はスマートフォンかタブレット端末、もしくはノート・パソコンが普及すると見られている。韓国の教育庁は、政府の予算で国民全員に端末を配布しなくても、各家庭にある端末を使えばいいという方針である。


 スマート教室には、学生たちがタブレット端末や電子ペーパーに書き込んだ学習履歴を保存するサーバーも設置されている。今は学校の中にサーバーがあるが、2015年からは学習履歴をすべて政府が管理する教育クラウドに保存し、いつでもどんなデバイスからも呼び出して使えるようにする。

スマート教室の壁には、大型スクリーンが2つずつ、左右合わせて4台が設置されている。机は4グループに分けられており、学生たちがグループで一緒に資料を作成してスクリーンを作って発表し、みんなで討論するようになっている。

 スマートラーニング研究学校のスマート教室が他の教室と違うところは、タブレット端末や3D対応テレビなどを使うところである。しかし、スマート教室の狙いはモバイル端末の利用を促進することではない。


 真の目的は、先生が一方的に説明する授業ではなく、子供達一人ひとりの状態を把握しやすくすること、子供達が参考資料を検索して自ら探求し幅広く学ぶ授業にすること、グループで協力し発表・討論させることでコミュニケーション能力や協業する能力を高めることにある。そのために一人1台端末を使いながらも、机を4つのグループに分け、壁にスクリーンを埋めたのだ。


 モクウン中学校のスマート教室では、ちょうど「技術」の授業が行われていた。技術用語を先生が口頭で説明するのではなく、まずは3D対応テレビの鑑賞から始まった。概念を理解してから、タブレット端末と電子黒板を連動させて、デジタル教科書を見始めた。デジタル教科書の参考資料を見ながら先生の説明を聞く。


今日の授業をちゃんと理解しているかどうか、デジタル教科書の中にあるテスト問題を解く。この日は学生たちが製作したミニチュア自動車の制作過程と特徴についてパワーポイントで資料を作り、教室の壁にあるスクリーンを使って発表した。

 スマート教室では電子ペーパーと電子ペンも使う。電子ペーパーに先生がテスト問題をプリントして学生に配る。電子ペンで答えを書くと電子黒板からリアルタイムで書いている内容を確認できる。この日は「スマートフォンが登場してから不要になったもの」について書き込む時間があり、誰が何を書いたのか電子黒板に映して討論した。スマートフォンが登場してからデジカメ、MP3プレーヤー、時計といったものがいらなくなったと書いた学生が多かった。

タブレット端末でデジタル教科書を使う授業は難しくないか、と聞くと、「何が難しいの。なんで難しいと思うの?」と逆に質問されてしまった。韓国では中学生でもスマートフォンを使っている子供が多いので、学校でタブレット端末やデジタル教材を使うことに何の違和感もないという。3D対応テレビやデジタル教材を使った授業の方が、従来の紙の教科書よりも理解しやすく集中できるので、「他の科目も全部スマート教室で授業すればいいのに!」というのが子供達の反応だった。





モクウン中学校のスマート教室に設置された3D対応テレビと電子黒板。授業の冒頭で3D対応テレビを使い、その日に学ぶ内容の概要や概念を理解する。




モクウン中学校のスマート教室に設置された3D対応テレビと電子黒板。授業の冒頭で3D対応テレビを使い、その日に学ぶ内容の概要や概念を理解する。







出典:日経エレクトロニクス


Original link
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20120808/232951/

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