スマートフォンがうながす韓国ゲーム業界の変動

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「リネージュ」、「The Tower of AION」などのMMORPG(ネット上で複数のユーザーが同時に参加するロールプレイングゲーム)で日本でも有名なNCソフトの最大株主が、同じゲーム会社で日本に拠点を置くネクソンになった。ネクソンは「メイプルストーリー」をはじめ、かわいいキャラクターが登場するオンラインゲームで有名だ。

 ネクソンは2012年6月8日、NCソフトのキム・テクジン代表が保有していた321万8091株を約8045億ウォン(約560億円)で購入した。キム代表の持ち分は24.7%から10%に減ったが、代表としての経営権は維持する。


 韓国のオンラインゲーム業界では、ネクソンがNCソフトの最大株主になったことを、「サムスン電子がLG電子の株主になったようなもの」と表現するほど衝撃を受けている。ゲーム業界1位が、2位の企業の最大株主になったからだ。ネクソンは日本法人がグループの本社であるため、韓国、日本、中国で大ヒットしたリネージュを日本に売られた、と驚くネットの掲示板や記事のコメント欄への書き込みもあった。


 ネクソンとNCソフトは90年代後半にベンチャーから始まったオンラインゲーム会社である。両社ともに韓国だけでなく、日本、中国でも有名なゲーム会社に成長した。ネクソン持株会社であるNXCのキム・ジョンジュ会長とNCソフトのキム・テクジン代表は、IT企業長者番付でも1位、2位になるほど有名人だ。


 この2大ゲーム会社が手を組むことで、最近、世界市場を席巻する米国生まれの「Diablo III」(関連記事)や中国系オンラインゲームのタイトルに押され気味だった韓国産オンラインゲームが再び活性化するのではないか、何かすごいものが生まれるのではないか、という期待もある。


 というのも、スマートフォンが登場してから、韓国のオンラインゲーム市場はデスクトップパソコンでプレイするMMORPGから、スマートフォンやタブレットPCでプレイするモバイルゲームが主流となったからだ。ゲーム会社もモバイルゲームに方向転換し、MMORPGの新作はぱったり出なくなった。ゲームサイトにアクセスしてプレイする、という利用法からアプリに切り替わったのである。


 モバイルゲームへのシフトを印象付ける出来事が2012年2月、ポータルサイト「DAUM」とディー・エヌ・エー(DeNA)が提携して、「Daum Mobage」という名前でサービスを始めたことだ。韓国で有名なモバイルゲームもDeNAを通して日本のMobageでサービスされるようになった(韓国ではゲームは無料、アイテムは有料が当たり前だが、日本では青少年のアイテム課金を規制している(関連記事)ので、制度に違いに気を付けてゲーム内容を調整することもあるようだ)。


 SNSと連動するソーシャルゲームは韓国でもすごい人気で、例えば、Facebookと連動する「Rule the Sky」は、メッセンジャーアプリの「カカオトーク」と並んで、スマートフォンを買ったら真っ先にインストールするアプリの一つになったほどである。友だちと町を作り上げていく育成型のゲームで、日本では「浮島ふわりん」という名前でネクソンが2012年6月、配信開始した。

韓国のゲームは韓国で成功するとすぐ日本、中国へ進出してきた。ハンゲーム、ネクソン、NCソフトなど、韓国で有名なゲームサイトは日本のネットカフェでもプレイできる。最近はモバイルゲームの日本進出が盛んである。スマートフォン普及率は韓国の方が高いが、ユーザー数でみると圧倒的に日本の方が多く、また日本の方がモバイルゲームに慣れているユーザーが多いためお金になるからだ。


 デスクトップからスマートフォンへ、ゲーム市場のトレンドが変わる中、NCソフトはネクソンに株を売却し、MMORPGを専門的に開発するゲーム会社に生まれ変わろうとしている。もちろん、スマートフォンからもプレイできるMMORPGは登場しているが、NCソフトが得意とするのはデスクトップから楽しむ、ビジュアルに注力したMMORPGである。


 2012年6月21日には、NCソフトが6年かけて開発したMMORPGの新作、「Blade&Soul」が公開された。16時にオープンベータテストが始まってから2時間で同時接続者数15万人を突破したとNCソフトが明かした。Twitterでも同新作について、「キャラクターをはじめビジュアル完成度が高すぎてびっくりした」というつぶやきや、「デスクトップPCはもういらないと思ったのに、部品アップグレードしたくてたまらない!」というつぶやきも後を絶たない。早速Diablo IIIとBlade&Soul、どちらが勝つかと注目されている。






Blade&Soulのポスター。同ゲームはNCソフトが6年かけて開発した。ビジュアル完成度の高さが話題になっている

NCソフトのMMORPGは日本と中国でもサービスされているので、Blade&Soulも正式にサービスが始まれば、日本語版もすぐ公開されるだろう。最近はスマートフォンもタブレットPCも性能がどんどん進化しているので、デスクトップでプレイするのと変わらない感覚で利用できる日も近いだろう。そうなればまたMMORPG全盛期が来るかもしれない。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年6月25日]

-Original column

http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120625/1053742/

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