スマートラーニング時代の差別化ポイントは「学習管理システム」

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スマートラーニング時代を反映し、韓国のeラーニング市場は拡大している。Eラーニング産業白書によると、2011年の韓国eラーニング産業の売り上げは前年比9.2%増の2兆4500億ウォン(約1700億円)だった。内訳はコンテンツが5300億ウォン(約368億円)、ソリューションが2300億ウォン(約160億円)、サービスが1兆6700億ウォン(約1160億円)の規模となっている。


 売り上げに占める割合は、企業向けeラーニングサービスが28.4%と最も多い。しかし、幼児向け3.1%、小学生向け6.2%、中学生向け4.6%、高校生向け4.5%と、幼児から高校生までの市場を合わせると18.4%と企業向けの次に大きい市場である。


 eラーニング利用率は3~7歳が38.5%、8~19歳が74.5%、20代が67.9%、30代が44.9%、40代が41.6%、50代以上が25.9%だった。3~7歳の未就学児童のeラーニング利用率は2007年に28.7%だったのが4年間で10ポイントも伸びている。もちろん家庭にインターネットが普及した影響もあるが、学校でデジタル教科書やオンラインベースの評価制度(紙のテストではなくインターネットベースのテストに変える)が導入されることが決まってから、幼児のときからeラーニングに慣れさせようとする親が増えているのも確かだ。


 スマートラーニング時代を迎え、eラーニング業界が最も力を入れているのは学習管理システム、LMS(Learning Management System)である。


 代表的なのはソウル市教育庁が無料で全国の小学生に提供する「サイバー家庭学習」。学校以外の場所でもインターネットさえつながれば、学校で学ぶ内容を予習・復習できるようにしたeラーニングで、ユーザーである子どもがテストを受け、自分の学習レベルを自ら把握して、学習難易度を選択できるようになっている。さらに、どの科目を何時間勉強したのか、“サイバー担任”である先生との質疑応答など学習管理も残せる。サイバー担任が子どもの学習レベルに応じて「こういうところをもっと勉強してみたら?」とアドバイスもしてくれるので、一人で黙々とがんばるイメージが強い既存のeラーニングとはちょっと違う。


 





ソウル市教育庁が2004年から無料で提供しているサイバー家庭学習の画面。教科書の内容を予習・復習できるeラーニングで、現役の小学校の先生がサイバー担任先生になり質問に答えたり学習アドバイスをしたりしている。先生と一緒にがんばる仕組みにしたことで子どものモチベーションを高めた




 





サイバー家庭学習の学力テストの画面。子どもたちが自ら学力テストをして、レベルにあった教材を選べるようにしている

 


いつでもどこでも子どもの学習状態を把握


 民間の教育会社も学習管理システムを差別化のポイントにしている。韓国の小学生なら誰もが知っているほど有名な「ヌンノピ先生」(子どもの自宅へ訪問する先生。日本では郵便でやりとりするのが一般的な通信学習を、韓国では全国1万3000人の「訪問先生」が家に学習誌を届け、毎週15~30分ほど訪問して採点と指導をする)は、スマートフォンを使って子どもの学習レベル評価、学習履歴管理を行う。


 ヌンノピ先生が家庭に届ける紙の学習誌を子どもが解くと、先生が採点してどの問題を間違えたのかスマートフォンに入力する。するとスマートフォンに学習評価の画面がグラフで現れ、子どもの補うべき学習項目が一目で分かるようになっている。この画面は親にも送信できるので、親もスマートフォンから子どもの学習状況を確認し、訪問先生へメッセンジャーを使って気軽に質問できるようになった。今までは訪問先生が採点をして手帳に記録し、自身の経験で子どもを評価していた。


 ヌンノピ先生の本社であるテキョのキム・ボンファン企画広報チーム課長によると、スマートフォンを取り入れた、ヌンノピ先生独自の学習評価システムを使った学習管理を行うことで、保護者の信頼度が以前よりも高まったという。


 同じく訪問先生6000人を抱える教育会社ウンジンシンクビックは、スマートフォンからもタブレットPCからも使える「アイチューター」という学習管理システムを利用する。子どもがeラーニングプログラムを利用して学習すると、先生の端末に学習履歴と採点結果が届き、それを元に今後の学習方法について相談できるようになった。いつでもどこでも子どもの学習を管理できるので、いつ保護者からの質問や相談をされても、的確に答えられるということから、他社との差別化につながっている。


 クラウドコンピューティングとビッグデータ(インターネット上に書き込まれる膨大なデータを分析して、社会問題を解決するための答えを導き出すといったことが期待されている)が全産業において流行語のようになっている。教育の分野も同じである。eラーニングやスマートラーニングで学習コンテンツが素晴らしく、分かりやすいUI、かわいいキャラクターで子どもの視線を釘付けにするといったことは当たり前。これからはその裏のソリューションの精密度が勝負となる。


 デジタル教科書、eラーニング、学習アプリで学んだことを総合的に分析して、子どもの学習能力を伸ばせるシステムを目指して、韓国は教育庁も民間企業も最新ICT技術導入を急いでいる。







趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年8月10日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120810/1059542/

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