映画「実尾島(シルミド)」が韓国を騒がせている。韓国映画史上初の観客動員数1000万人を目前にしているこの映画は、1968年から71年まで実在した空軍の秘密部隊で北派工作員だった684部隊31人の過酷な運命と、南北平和ムードにより自爆死するしかなかった71年8月の暴動事件をベースにしたフィクションだ。
訓練兵達は映画では全員死刑囚となっているが、本当は就職先があると騙されて連れて来られた貧しい青年達だったそうだ。何人も死んだ過酷な訓練を3年も我慢してきたのに、もう使い途がなくなったと判断された684部隊の兵士達は、小隊長や監視兵に銃を乱射し実尾島を脱出、7人は銃撃戦で死亡、24人はバスを乗っ取り仁川から高速道路を経てソウルの入り口である「デバンドン」まで向かう。そこで軍と対峙、20人は自爆、生き残った4人は死刑になった。
今となっては真相を知るものは誰もいない実尾島の歴史が映画のヒットと共によみがえり、観光名所になった。仁川空港から近い無人島の実尾島、残念ながらそこにはもう何も残っていない。暴動で軍の施設も消え去り、映画のセットも昨年不法建築物として仁川市が撤去してしまったからだ。
この映画が韓国経済に与える波及効果は340億円という経済界の計算が発表されてから、撤去を進めた担当公務員が飛ばされた。映画の撮影地になっただけで観光地として世界各国から人が集まり、地域経済が急上昇する効果がある。なのに、その公務員は映画の力を無視し、法律や自分の責任になることだけを恐れたのである。
韓国では今、映画やドラマの撮影地になるため、自治体は広報と撮影協力に支援を惜しまないところが多い。全羅南道の木浦市では「木浦は港だ」という新作映画の撮影を全面支援し、タイトルにまで地名を入れた。市民をエキストラに動員したり、公共施設を貸したり、映画のヒットに自治体の運命を賭けるかのように積極的だ。
スキー場と山が多い江原道は「冬のソナタ」の撮影地として日本や東南アジアからの観光客が絶えず、道の海外広報担当女性3人は政府から賞までもらった。インドネシアのバリ島でも、韓国人が運営する旅行代理店や企業がドラマの誘致に成功した。バリ島で出会った4人の男女が繰り広げる、ありがちな貧しい娘と御曹司の愛と嫉妬のシンデレラ物語は「バリでの出来事」というタイトルで週末お茶の間の人気を独占している。
映画やドラマの撮影を誘致するため、公務員は今日も走る!
[BCN This Week 2004年2月16日 vol.1027 掲載] Link