デジタル教科書の次は……「教室」を変えよう!

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 前回紹介したケソン小学校は、サムスン電子のスマートスクールモデル学校だった。これとは別に、ソウル市教育庁が支援するスマートラーニング研究学校がある。


 ソウル市の場合、2008年から実施しているデジタル教科書研究学校に追加して、2011年末にスマートラーニング研究学校を新たに3校指定した。2011年に開校したばかりの小学校、中学校、高校1校ずつで、キャリアのLGU+が学校内どこでもWi-Fiが使えるようにネットワークを、サムスンがタブレットのGalaxy Tab10.1を、LGが電子黒板と大型3DTVを提供する。教室の壁には子どもたちがグループごとに資料を作成して発表するときに使う大型スクリーンが4つある。教室の中には学習履歴を保存するサーバーもある。


 筆者が訪問したスマートラーニング研究学校は、モクウン中学とシンド高校である。両方とも「スマート教室」という特別室が学校の中にあり、教師が必要に応じてスマート教室を使って授業をする仕組みになっている。ここに入ってびっくりしたのは、壁全部にスクリーンがあり、それを授業中全部使いこなすということだった。


 






シンド高校のスマート教室。このように教室の壁全部がスクリーンになっている。子どもたちはグループごとに資料を作成して、スクリーン上に映して発表する



 スマート教室は教室の3面が40型以上の電子黒板になっていて、正面には3DTVも設置してある。教室にはタブレットPC、電子ペン、電子ペーパー(普通の紙だが特殊なプリントをする)、3D用メガネが置いてあり、これら道具を使って授業を行う。子どもたちがタブレットPCの電源を入れて出席ボタンをクリックすると、電子黒板に映し出された出席簿の名前の色が変わり、学習履歴や端末に書き込んだ内容などがすべてサーバーに記録される。


 電子ペーパーに電子ペンで書き込むと、何を書き込んでいるのかリアルタイムで一人ひとりのペーパーを電子黒板に映して確認できる。教師はクイズ問題を電子ペーパーに印刷して、授業が終わるころ、子どもたちがちゃんと理解しているかどうか確認するためテスト用紙を配る。子どもたちが電子ペンで電子ペーパーに答えを書き込むと自動で採点が終わり、クラスの平均や成績トップは誰かといったこともすぐ電子黒板に表示できる。
 







シンド高校のスマート教室にある電子黒板に、生徒が手元で電子ペーパーに書き込んだ内容を映しているところ。電子ペンで書き込むと同時にリアルタイム表示する。採点も自動的に行われる。画面左側、縦に並ぶのは配られた電子ペーパーのテスト用紙。右にあるリストは出席簿。タブレットPCから生徒が授業参加をクリックすると出席チェックを行う




「グループで話し合う・発表する」は“必須”


 スマート教室では、紙の教科書ではなく電子ペーパーをはじめデジタル教材を使う。デジタル教材は教科書のPDFファイルを元に、教師がリンクを貼り付けたり、アニメや写真を追加したりして、オリジナルの教材を作る。教育庁のデジタル教材サイトは教科内容に合わせた動画やアニメ、写真を大量に提供しているので、素材に困ることはない。ただし、最新の話題を取り上げて説明したい場合は、民間のコンテンツ事業者が提供する教師向け有料デジタル教材サイトを使うこともあるという。また、教育的に効果があると教師が判断した場合、授業中に学習アプリケーションを使うこともある。タブレットPCがAndroid OSなので、アプリストアであるGoogle PlayやSamsungappsからダウンロードする。


 子どもたちは授業中必ず、グループごとに自分たちが理解したことをパワーポイントでまとめて、大型スクリーンを使って発表する。グループの宿題として出されることもある。グループで一緒に考えて意見をまとめ、みんなの前で発表してディスカッションする、というのもスマートラーニングの重要な目的だからだ。


 






モクウン中学校のスマート教室で。子どもたちが「技術」の授業中、グループで一緒に小さい自動車を作り、その制作過程を発表している。グループで意見をまとめてみんなの前で発表、ディスカッションするのもスマートラーニングの重要な目的の1つである



 スマートラーニング研究学校の中学生たちに、スマート教室で授業すると何がいいか聞いた。「発表とディスカッションがあるから予習していこうかなって気になる」、「先生がずっと説明するより、3D動画を見たり、他の子の発表を聞いたりする方が記憶に残るから、全科目スマート教室で授業すればいいのに」、「紙の教科書だと苦手な科目はぼうっとしてしまったけど、スマート教室ではデジタル教科書をクリックして参考資料を見ればいいので授業についていける」など、授業を楽しんでいる雰囲気が伝わってきた。


 デジタル教科書研究学校の場合は、国が主導してデジタル教科書を制作した、国語、英語、数学、社会、科学といった主な科目の中から学校ごとに2~3科目を選択して、研究クラスに選ばれたクラスだけ、教室の中でノートパソコンを使ってデジタル教科書を立ち上げて授業をしていた。


 スマートラーニング研究学校の場合は、デジタル教科書研究学校と違ってスマート教室で授業をすべき科目を特に指定していない。教師がスマート教室を使った方が教えやすいと判断すれば、教室を移動して使えるようにしている。


 「リテラシー教育」というのが要らないほど、子どもたちは直感で端末とデジタル教科書を使いこなしている。教師たちも電子黒板を使ったり、子どもたちの端末をフリーズしたり、データを送信したりといった制御方法を30分聞いただけで十分使いこなせているという。


 韓国の文部省にあたる教育科学部と各自治体の教育庁は、スマートラーニングの目的は「平均的な教育ではなく、子どもたちの一人ひとりのレベルに合わせた教育をすることである」として、「スマートラーニングは教室改造ではない。IT技術が教育現場に溶け込まないといけない」という問題意識をしっかり持っていた。韓国のデジタル教科書やスマートラーニングは、教師らの積極的なフィードバッグを反映しながら、改良に改良を重ねている。


 次回は一足先に「スマート教科書」を開発し始めた老舗教科書会社を紹介する。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年7月27日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120727/1057624/

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