ネットワーク接続遮断まで起こしたKTとサムスンの大激突

通信事業者最大手のKTが2月10日から14日まで、サムスンのスマートTVからKTのネットワークを経由してアプリケーションや動画が観られないよう、接続を遮断した。サムスンのスマートTVによってトラフィックに負荷がかかりすぎているため、接続を制限するしかないというのがKTの立場である。

 KTによると、「スマートTVのトラフィックは20~25Mbps。スマートTV15万台を同時に視聴する場合、KTのネットワークに緊急事態が発生する恐れがある」と主張する。これに対しサムスンは、「スマートTVのトラフィックはIPTVよりも少なく、せいぜい1.5~8Mbpsしかない。スマートTVでも、地上波テレビの視聴は普通のテレビと同じく電波を利用している。動画やアプリケーションだけネットを経由して利用するので、ネットワークに負荷をかけるほどではない」と反論する。


 韓国ではKTとサムスンの戦いが連日トップニュースとして扱われ、ネットワーク中立性はどうなるのか、注目している。








スマートTVを視聴するユーザー。KTは自社のネットワークを経由してサムスンのスマートTVに接続できないよう遮断した。KTは、サムスンにスマートTVがネットワークに負荷をかけているのでネットワーク使用料を払うべきと主張する



 テレビからネットを経由してドラマや映画、ゲームといったコンテンツを利用するという面で、IPTVとスマートTVは似ている。ただし、IPTVは通信事業者が提供するサービス、スマートTVは家電メーカーが提供するサービスという違いがある。スマートTVの利用者が増えるにつれ、通信事業者は、スマートTVを販売するサムスンとLGがネットワークにタダ乗りしていると反発するようになったのだ。KTはサムスンとLGに、「スマートTVを売りたいならネットワーク使用料を払うべき」と要求している。


 KTは大量のトラフィックを発生させる企業からもネットワーク使用料をもらうことで、ネットワークに投資できる金額を増やせる、より高速で安定的なネットワークサービスを提供できると主張する。


 KTはLGのスマートTVは接続を制限していない。LGはKTとネットワーク使用料に関する話し合いをしているが、サムスンはその機会を持たなかった。サムスンは「ネットワーク中立性に違反する処置である」、「スマートTVからアプリケーションを利用するとどれぐらいのトラフィックが発生しているのか検証が必要で、KTの主張を鵜呑みすることはできない」、「高速道路利用料を、車の持ち主ではなく自動車会社に払えと言っているようなもの」と、KTとの話し合いに応じなかったため、今回の接続制限に至ったという。



 KTとサムスンの対立が訴訟戦になりそうになったところで放送通信委員会が仲裁に入り、14日の午後6時頃から接続が再開された。KTとサムスンはスマートTVのビジネスモデルを一緒に考えていくための正式な話し合いを始める、ということで合意した。


 しかし他の通信事業者(SKブロードバンドとLGU+)も、スマートTVからのインターネット接続を遮断することを検討しているとして、KTに同調する。通信事業者とサムスンとのトラブルは全て収まったわけではない。


 ユーザーの心配は、スマートTVから始まったトラフィック負荷とネットワーク使用料論争が、一番人気のある「カカオトーク」や「スカイプ」といったメッセンジャーと音声通話のできる無料アプリケーションにまで及ぶのではないかということだ。


 KTはサムスンからネットワーク使用料はもらえなくても、何らかの形で収益を分けてもらうようビジネスモデルの話し合いを始める。接続を遮断するという強攻策のおかげで、話し合いに応じなかったサムスンを交渉テーブルに連れ出す作戦は大成功というわけだ。


 しかし、KTにインターネット接続料金を払い、サムスンのスマートTVを利用している加入者を無視して、一方的にサービスを使えないよう遮断したKTの責任は問われなくていいのだろうか。サムスンによると、2012年2月時点でサムスンのスマートTVは80万台が売れ、その内30万台がKTのネットワークを経由して使われているという。企業同士の争いにユーザーを“人質”にしていいのだろうか。KTとサムスンという韓国を代表する大企業の張り合いで、損をするのはユーザーだけである。


 放送通信委員会は15日から、スマートTVをネットワーク中立性ガイドラインで定めるサービスの例外にすべきか、アプリケーション事業者が通信事業者にネットワーク使用料を払うべきかを諮問委員会を通じて検討し始めた。


 学界からは、モバイルVoIPとスマートTVの接続制限を許した場合、通信事業者が自社の利益のために新規サービスを妨害する恐れがある、これは結局ユーザーがよりよいサービスを利用できる機会を失う被害につながるとしている。ネットワーク使用料はユーザーからもらっているので、それで十分というサムスンの立場と同じである。ポータルサイトの掲示板でも、KTのサムスンスマートTV接続遮断はやりすぎ、というのが全般的な意見だった。通信事業者の一方的なサービス接続遮断の再発防止策も必要である。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
[2012年2月17日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120217/1041419/

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