iPhone発売をきっかけに、モバイルインターネットの利用が急激に伸びている韓国。スマートフォン向けパケット定額料金制も続々登場しているが、スマートフォンでない端末のユーザーはまだほとんどが従量制、使ったパケット分だけ料金を払っている。 韓国では元々モバイルインターネットはネット利用時間に応じて課金するCircuit方式であったが、2001年モバイルインターネット料金値下げを目的にパケット料金制度に変更された。しかし、パケット料金制度はユーザーから見て料金をはっきり計算しにくく、逆に料金が高くなったことが問題として指摘され続けてきた。 韓国ではパケット使い放題の定額料金制がまだ始まったばかりである。今までの使い放題料金制は期間限定のサービスだった。新規の端末やコンテンツの開始に合わせて3~6カ月だけ使い放題にし、その後からはパケット量に応じて段差をつけた従量制課金になる。使い放題と宣伝する料金制度でもよく見ると最初の6カ月だけで、その後は1GBまで使い放題になるか、料金が値上げされてきた。 パケット料金は基本料に応じて差があり、0.5KB当り0.45~5.2ウォン(約0.035~0.4円)。テキストなのか画像・動画なのか、公式サイトなのか、インターネットに直接アクセスするのかによって適用されるパケット代が全部違う。最近は割引料金制度がとても複雑になっているので、自分が使ったパケットと請求額を比べてみても訳がわからないという状態。もしかして、パケット料金をごまかしているのではないか、間違って割引を適用していないのではないか、パケット代をめぐる苦情は増えるばかりである。そこで、政府の調査が始まった。 韓国政府省庁である放送通信委員会は、移動通信キャリア3社の不当課金疑惑を調査すると発表した。市場シェア50.5%のSKテレコムの場合、料金制度は政府の認可を受ける必要がある。他のキャリアもこれに応じて少し安く料金を設定するので、いまさら移動通信の料金そのものを調査するということではない。きちんと告知した通りの料金を課金しているのか、パケットの水増しはないのか、といったことを調査するという。政府の課金調査は移動通信サービスが始まって以来であるため、通信業界では調査結果に敏感になっている。政府系シンクタンクと一緒に移動通信キャリアのログファイル分析による実際のデータ量の測定も始める。 2008年末から09年にかけて、政府の要請により移動通信サービスの料金の値下げが続いたからだ。大統領の「家計の通信料金負担20%減」の公約を守るため、移動通信キャリアは基本料金・加入費(事務手数料)・SMS・通話料金を20%ほど値下げし、さらに加入者間無料通話、長期加入者割引、青少年割引、低所得者割引、バンドル割引(固定通信・移動通信・VoIP・IPTV・固定電話など同じ系列会社の複数のサービスを同時に利用すると基本料と利用料が最大50%まで割引される)など、数え切れないほどの割引制度を始めた。 しかし今回の調査は、移動通信キャリアの悪さを裁くというより、ユーザーに安心してモバイルインターネットを使ってもらいたいという目的の方が大きいように見える。1999年携帯電話からモバイルコンテンツサービスを利用できるようになったその日から、10年以上も高い高いといわれ続けてきたモバイルインターネット料金の構造を、実際のデータ量と費用を用いて分析することで合理的な料金を算定し、ユーザーに納得して使ってもらいたいということであろう。 携帯電話の加入者数は人口の96%、実に4700万人を超えたのに、パケット定額料金に加入しているのはキャリア3社合わせて410万人ほどにすぎない。ほとんどの人が携帯電話からインターネットなんて料金が怖くて使えないとおびえているが、そうではないということを証明したいのだろう。スマートフォンの本格的な普及前に、OECD加盟国の中で最も高いと不満の種になっているモバイルインターネット料金体制をはっきりさせる必要はある。 全世界で固定通信から移動通信へトラフィックが流れ、ネットの利用形態は早いスピードで変化している。色んな産業分野で携帯端末と移動通信の融合により新しい市場が生まれ、経済活性化に貢献している。これをさらに活気付けるためには、何よりもモバイルインターネットを普及させないといけない。韓国の場合は、焦りから政府が背中を押しすぎているような気がする。市場全体の競争によるものではない政府の圧力による料金値下げやビジネスモデルの変化がどこかで不具合を起こすのではないか心配だ。
さらに移動通信キャリアは、この調査をきっかけにまたもや政府から料金値下げの圧力をかけられるのではないか緊張している様子だ。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2009年12月24日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091223/1021752/