不正会計疑惑で窮地のサムスン、半導体受託で「TSMC超え」に本腰

.

 2020年5月11日、複数の韓国メディアは、検察がサムスン電子(Samsung Electronics)李在鎔(イ・ジェヨン)副会長を今週中に召喚し、「特定経済犯罪加重処罰等に関する法律」と「資本市場と金融投資業に関する法律」への違反について調査する方針だと報じた。検察の調査は、李氏が経営権を承継するためにグループ会社のサムスンバイオロジクス(Samsung Biologics)の不正会計を自ら指示したか否かに焦点を合わせている。既に会計資料を隠蔽しようとした同社の副社⻑ら8⼈が有罪になったが、不正会計そのものはまだ調査中であり結論は出ていない。検察の調査を目前に控えた同月6日、李副会長は本社ホールに記者を集めて「対国民謝罪文」を発表した。

 謝罪文には、「経営権承継に関して法に反する行為や“法の抜け道”を探すことはしない」「自分の子供には経営権を承継しない」「労働組合活動を妨害せず権利を保障する」「新しいサムスンに向けて人材を集めて新しい事業に挑戦する」といった内容が盛り込まれていた。具体的には、以下のようなものである。

  • 「今日のサムスンはグローバル一流企業に成長しました。国民の皆様の愛と関心があったからこそ成し遂げられました。しかし、その過程で時に国民の期待に応えられませんでした。むしろ失望させたり心慮を悩ませたりしたこともありました。法と倫理を厳格に順守できなかったからです」

  • 「社会とコミュニケーションし、共感するという面でも足りない点がありました。“技術と製品は一流”と賛辞されていますが、サムスンに向けられた視線は依然と厳しいです。その全ては私どもの至らない点によるものです」

  • 「私は今日、サムスンの懸案について率直な見解を申し上げます。まず、経営権承継問題についてです。これまで私とサムスンは承継問題に関して多くの叱責を受けてきました。特にサムスンエバーランド(Samsung Everland、事実上のグループ持ち株会社といわれている)とサムスンSDSの件で非難を受けました。最近は承継に関する収賄の疑いで裁判が行われています。私とサムスンを巡り提起された多くの議論は根本的にこの問題から始まりました。私はこの場ではっきり約束します。これからは経営権承継問題で議論になるようなことがないようにします。法を犯すことは決してしません。その場しのぎや倫理的に指弾されることもしません。ひたすら会社の価値を高めることだけに集中します」

  • 「私は今、もっと高く飛躍する新しいサムスンを夢見ています。絶えず革新と技術力で最もうまくできる分野に集中しながら新しい事業に果敢に挑戦します。我々の社会がより豊かになるようにしたいです。もっと多くの方々が恩恵を受けられるよう貢献したいです」

  • 「サムスンを取り巻く環境は以前と全く違うものになりました。競争はますます激しくなり、市場のルールは急変しています。危機はいつも我々のそばにあり、未来は予測できなくなりました。特にサムスン電子は、企業の規模からもIT業界の特性からも、専門性と洞察力を備えた最高レベルの経営だけが生存を担保します。これが私の抱く切迫した危機意識です。サムスンはこれからも性別・学閥・国籍を問わず立派な人材を迎え入れなくてはなりません。その人材がオーナーマインドと使命感を持って猛烈に働き、私よりも重要な位置でビジネスを導けるようにする必要があります。それが私に与えられた責任であり、使命だと思います。私がその役割を忠実に遂行すれば、サムスンはずっとサムスンであり続けられるでしょう。私は子供たちに会社の経営権を継承させないつもりです」

  • 「これまでサムスンの労組問題で傷付いた全ての方々に対して心よりおわび申し上げます。サムスン内部で“無労組経営”という言葉が出ないようにします。労使関係法令を徹底的に順守し、労働三権を確実に保障します。労使の和合と相生(共生)を図ります」

  • 「順法は決して妥協できない価値です。私は順法を重ねて誓います。順法がサムスンの文化として確実に根付くようにします」

  • 「ここ2~3カ月、前例のない危機的状況の中で、私は真の“国格”とは何かということを切実に感じました。(中略)1人の企業家として多くのことを振り返るようになり、私の肩の荷はさらに重くなりました。大韓民国の国格にふさわしい新しいサムスンを築きます」

「減刑狙いにすぎない」との見方も

 今回の謝罪文発表は、謝罪文の中にも登場する承継に関する収賄の疑いで行われている裁判と関連がある。2019年10月に裁判の過程で判事はサムスン内部に横領や賄賂犯罪をできなくする実効性のある順法監視制度の設置を求め、2020年1月には法曹界や学界など外部の専門家を招いたサムスン順法監視委員会が設立された。同委員会がサムスンの経営陣に経営権承継と労働組合問題に関して国民への謝罪と再発防止策の策定を勧めたことで、李副会長の謝罪文発表に至った。同委員会の役割はサムスングループの順法監視だが、法的拘束力があるわけではない。

 謝罪文に対する韓国メディアの反応は、「減刑狙いにすぎない」と厳しいところもあれば、「新しいサムスンに期待する」と好意的なところもある。公営放送の韓国放送公社(KBS)や総合編成チャンネル(有料放送)のJTBCは厳しい見方をしており、「李副会長に有利な条件で合併して株主に損害を与えた疑惑があるサムスン物産(Samsung C&T)と第一毛織(Cheil Industries)の問題や、この合併を進めるために朴槿恵(パク・クネ)前大統領とその友人に賄賂を渡した疑惑、サムスンバイオロジクスの不正会計については釈明しなかったこと」「2008年に李健煕(イ・ゴンヒ)会長も検察の捜査で他人名義の口座に4兆ウォン(約3517億円)を超える財産を隠していたのが発覚し、全額寄付すると発表しながら約束を守らなかったこと」を振り返りつつ、「サムスンバイオロジクスの不正会計問題捜査や、サムスン電子サービス労組活動妨害問題捜査、承継に関する収賄の疑いで行われている裁判が続いている中での(李副会長の)謝罪文発表は、減刑狙いのイベントにすぎないという批判もある」とし、サムスン電子本社前で抗議する市民団体の意見を詳しく報道した。

 さらに、KBSは「全ての疑惑の核心は、李副会長が贈与税や相続税をきちんと払わずに先代の財産を引き継ごうとしているという疑惑である。法が求めるのは誰もが法律で定めた税金を払うことであり、経営権を継承するなということではない。財産の相続は、納税の義務を果たして適法に進めるべき。経営権の継承は株主が決めること。わずか数パーセントの株しか持たない1株主が決める問題ではないはず」と指摘した。

 一方、サムスンに好意的なメディアは、謝罪文発表で減刑となる可能性が高いと分析した。懲役3年以上の判決が出た場合、執行猶予が認められないので、李副会長は2017年に前述の朴前大統領への贈賄疑惑で逮捕されたときのように拘束されるしかない。二審では賄賂とみなされた金額が一審よりも増えており、懲役5年以上の判決が下される可能性も出ているが、判事に言われた通りに委員会を設置して謝罪文も発表したことで、情状酌量の余地があるとみなされ減刑となる可能性があるという。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020.5 .

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00006/

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *