世界覇権へ先手、韓国が「K-半導体戦略」 49兆円投資

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 韓国産業通商資源部(部は省に当たる)は2021年5月13日、韓国半導体産業の競争力強化を目指す国家戦略「K-半導体戦略」を発表した。30年に世界最高の半導体供給網を構築するというビジョンのもと、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)など民間企業が合計で510兆ウォン以上(約49兆円)を投資する。21年5月21日に開催された米韓首脳会談でも韓国は、半導体と電気自動車(EV)向けバッテリー分野で米国と包括的提携を結んだ。現代の戦略物資といえる半導体の世界覇権に向けて、韓国が大きな一歩を踏み出した。

 K-半導体戦略の発表の場には文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領も出席した。文大統領は「半導体産業は企業間競争から国家間競争の時代に移った」「半導体強国を目指し、政府も企業と一心同体になるべきだ」と説明。「世界で自国中心の供給網再編が始まり、激しい競争へと突入している。我々が向かうべき方向は明確だ。先制投資で外部の影響に揺るがないよう国内産業のエコシステムをさらに固め、世界の供給網を主導する。この機会を我々がものにすべきだ」と続けた。

 K-半導体戦略は、19年に発表した「システム半導体戦略」、そして20年発表の「AI半導体戦略」に次ぐ韓国の半導体国家戦略である。その戦略からは、これまで以上に、韓国が世界の半導体強国になろうという本気度が見えてくる。

 同戦略では、半導体設計から素材や部品、装備、製造に至るまで、韓国が半導体製造の中心地に躍り出るように、企業の連帯や協力の活性化、人材や市場、技術確保に至るまで力を入れる。その結果、韓国が世界の半導体需要に対応できる安定供給基地となることを目指し、半導体輸出を20年の992億米ドル(10兆8000億円)から、30年には2000億米ドル(21兆8000億円)へと倍増させる。

水や電気も、半導体関連のインフラ支援

 K-半導体戦略では、半導体関連の民間投資を呼び込むために、税から金融、インフラなどあらゆる分野で半導体企業を支援する。

 例えばサムスン電子の半導体工場がある韓国・平沢(ピョンテク)市や、韓国SK hynix(SKハイニックス)の工場がある韓国・龍仁(ヨンイン)市などでは、韓国政府が10年分の半導体工場向け用水を確保する。素材や部品、装備に特化した生産団地への送電線路設置費用については、韓国政府と韓国電力が半額を負担する。

 21年から24年の半導体関連投資については、税額控除率を上げて企業の負担を減らす。具体的には、現在、大企業が30%、中小企業が40%の税額控除率である半導体研究開発について、40〜50%に上げる。半導体施設投資については、これまで大企業の場合に3%だったところ、10〜20%に上げる。

 こうした優遇措置の結果、半導体大手のサムスン電子やSKハイニックスなど半導体企業153社は、K-半導体戦略の発表に合わせて、工場の増設や設備高度化、メモリー製造施設増設などのために30年までに510兆ウォン(約49兆円)以上を投資することを公表した。21年は41兆8000億ウォン(約4兆円)の投資となる。

 サムスン電子は、30年までに半導体の研究開発と平沢市の半導体工場に171兆ウォン(約16兆6000億円)を投資する。19年に発表した当初計画よりも38兆ウォン(約3兆7000億円)増額した。

 SKハイニックスは、30年までに半導体関連で約230兆ウォン(約22兆5000億円)以上を投資する。生産拠点がある韓国・利川(イチョン)市とは別に、龍仁市に半導体クラスターを造成するため約120兆ウォン(約11兆8000億円)を投資し、利川市と清州市の工場設備増設のために約110兆ウォン(約11兆円)を投じる。龍仁市には素材や部品などの装備特化団地を造成し、50社が入居する予定である。

 SKハイニックスは、工場の生産能力を2倍に拡大するため、韓国内工場増設と海外企業買収の両方を検討していることも明かした。SKハイニックスはメモリー事業の割合が98%を占める専門企業であり、ここに来て非メモリー事業を拡大しようとしている。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2021. 6.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00034/

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