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韓国有数の名門私立小学校であるソウル市ケソン小学校。この小学校はサムスン電子の「スマートスクール」モデル校である(関連記事)。4年生を対象に、デジタル教科書とタブレットPC、電子黒板を使った授業を行っている。今回、同小学校へ社会科の授業参観に行ってきた。
学校内でWi-Fiが使え、クラスの全生徒が1 人1台のタブレットPC(GALAXY Tab 10.1)を使い、65インチの電子黒板と連動して授業を行う。子どもが席に座り、タブレットPCから「授業参加」をタッチすると、先生のディスプレイに子どもたちの画面が見えるようになる。誰が何をしているのか、戸惑っている子はいないか、一目で確認できるので、一人ひとりにレベルを合わせて教えられるのがスマートスクールのいいところである。
2011年10月から始まったケソン小学校のスマートスクールを担当しているのは、チョウ・キソン先生。チョウ先生の“スマートな授業”は韓国だけでなく、今や世界中が注目している。ヨーロッパ各国や日本など17カ国から授業参観に来ているのだ。チョウ先生は韓国教育科学部から委嘱されたデジタル教科書開発先導委員であり、APEC教育諮問教師も兼ねている。
チョウ先生が使うデジタル教科書は、ほかの学校が試験的に導入しているデジタル教科書とは若干違う。政府が制作したPDF版の教科書をベースに、チョウ先生が自ら科目ごとに画像やFlashアニメーション、関連サイトのリンクを貼り付け作った、手作りデジタル教科書なのだ。
チョウ先生は「教育庁や民間の教育会社が提供するデジタル素材はたくさんあるので、そこから子どもたちの理解を助ける素材を選んでハイパーリンクを貼るだけです。とても簡単。ほかの教師もやっていて資料を共有することもあります」と笑顔で説明する。教師が本を制作するPDF作成ツールをまず覚えて、授業のために素材を毎日追加してデジタル教科書を作る。それを電子黒板と子ども用のタブレットPCに表示して授業をするという一連の作業は、「簡単」といえども相当な手間と時間がかかるだろう。
チョウ先生は授業が終わるころ、今日学んだことについて子どもたちがちゃんと理解しているかどうか確認するため、タブレットPCにクイズ問題を送る。このクイズは電子黒板の中に入っている機能で、その場ですぐ作れるという。子どもが回答して送信すると、それをまとめて電子黒板に映してみんなで討論する。授業は本当に楽しそうで、子どもたちの笑い声が絶えない。学校関係者と保護者、子どもたちだけがアクセスできる教育SNS「クラスティング」に、授業中タブレットPCで撮影した写真を投稿したりもする。
タブレットPCを使った授業は難しくないのか子どもたちに聞いてみると、「使い方はとても簡単です。タブレットPCがあるといろいろな資料が見られて参考になるし、自分の力でもっと勉強してみようって気になります」と立派な答えが返ってきた。
ケソン小学校のスマートスクールは韓国でも先進的なケースで、ここまで環境を整えた学校はまだ数校に過ぎない。しかし授業参観をして驚いたのは、タブレットPCやデジタル教科書といった端末の性能よりも、先生である。いろんな機材を操りながら、一人ひとりに目を配り、教科課程に沿って教えるべきことはきっちり教える授業法をマスターしているチョウ先生にびっくりしてしまった。
チョウ先生は、「先生は道を開いてあげる存在。一方的に教え込むのが授業ではない」と話す。「タブレットPCを使って子どもたちが自ら検索して探求することで、短い時間の間にもっとたくさんのことを学べます」とのこと。スマートスクールの意義は子どもが自主的に学習に取り組むことにあるのだ。
チョウ先生は放課後も忙しい。Facebook上でデジタル教科書情報をほかの先生と共有し、子どもたちが携帯メールに送ってくる質問に答える。放課後も仕事が続くなんて、先生はいつ休むんですか?という質問に、チョウ先生は「教師として当然やるべきことをやっているだけです」ときっぱり。
デジタル教科書やタブレットPCはツールにすぎない。大事なのは子どもたちが自ら興味をもって学習できるように先生が導くこと、それをしやすくするのがスマートラーニングのデバイスや技術というわけだ。
「私はすごくないですよ、韓国の先生はみんなこれぐらい使えますよ」と謙遜するチョウ先生。韓国がスマートラーニング先進国になれたのは、やっぱりチョウ先生のような“スマート先生”がいるからに違いない。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
[2012年7月20日]
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120720/1056702/