中国製バッテリー搭載EVが韓国マンション地下駐車場で全焼、約1580世帯に被害

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2024年8月1日早朝、韓国仁川市マンション団地の地下駐車場で独Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)の電気自動車(EV)「EQE」が全焼したと複数の韓国メディアが報道した。23人が病院に搬送され約1580世帯が断水、470世帯が停電、駐車場にあった車72台が全焼、70台が煙による損傷を受けるなどの多大な被害が発生した。

 消火に当たった仁川消防本部によると、同車は充電中でも走行中でもなく駐車中だったが突然発火し、マンション駐車場のスプリンクラーが作動しなかったことで消火活動が難航した。消火までに8時間近くかかったことから被害が拡大したという。火災の原因は調査中とした(同年8月6日時点)。

 韓国の新築マンションは地上で見ると複数の棟があるが、地下駐車場は全て1つにつながっているため、煙が全世帯に広がった。高熱で地下の設備や配管が溶けたことから、マンション建物の安全診断も必要という。仁川市の調査によると、今回の火災による断水・停電の復旧作業は当分続く見込みで、同年8月6日の時点で227世帯696人が避難所で生活している。断水・停電のまま自宅で生活を続ける人も多いという。

 警察が駐車場の防犯カメラを検証した結果、同車は地下駐車場の同じ場所に2日以上駐車したままで、外部からの衝撃もなく突然発火し爆発したという。

 国土交通部(部は省に当たる)やバッテリー業界の調べによると、同車は中国・孚能科技(Farasis Energy)のNCM(ニッケル・コバルト・マンガン)バッテリーセルを搭載していた。バッテリーのモデル名は公開していない。

 メルセデス・ベンツは2020年7月、Farasis Energyの株を3%取得し、電動化戦略の実現に向けて戦略的パートナーシップを締結したと発表した。しかし2021年3月、Farasisのバッテリーはリコール対象になった。中国の北京汽車集団(BAIC Motor)は自社のEVが搭載するFarasis製バッテリーが特定環境で火災の可能性があるとして約3.2万台のリコールを実施した。Farasisがその費用を全額負担している。

 今回の火災はバッテリーが原因なのかどうかの正式発表はなされていない。韓国の自動車専門家らは、EVの火災はバッテリーによるものが多いという。例えば、バッテリーパックの製造過程で問題が生じるか、運行中にバッテリーが損傷した状態で駐車したか、バッテリーの温度や電圧を管理するバッテリー管理システム(BMS)に問題が生じると火災の可能性が高くなるという。

 警察、消防、国立科学捜査研究院は火災現場から当該EVを警察署に運び、鑑識を進めている。火災の原因を調べるためEVのバッテリーと部品を取り外して精密調査をするという。韓国内ではEVの火災原因究明も火災の損害賠償を問うのも長い時間がかかると見込まれている。

 複数の韓国メディアによると、今回のEV火災に衝撃を受け、EVを地上の駐車場に止めるようにするマンションが増えた。地下にあるEV充電施設を地上に移転したりEV専用消火施設を導入することを検討したりするマンションも増えているという。

(出所:Adobe Stock)

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趙 章恩=(ITジャーナリスト) 

(NIKKEI TECH) 

2024. 8. 

-Original column 

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00114

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