韓国の民放ソウル放送(SBS)が撮影・報道が禁止された北京オリンピック開幕式リハーサルの様子をスポーツニュースとして放映し、韓国内でも「国際的な恥」、「取材倫理というのがないのか」、「SBSがオリンピックを中継できないように処罰するべきだ」など大問題になっている。7月29日、SBSは「単独撮影」したという開幕式リハーサルの主な場面を2分ほど放映した。
SBSの言い訳は、「オリンピックでボランティア活動をしている人々を取材するためにメインスタジアムに入った。開幕式リハーサルの練習をしている最中だったが、潜入したわけでも隠し撮りをしたわけでもない。カメラマンが正式に撮影をしたが誰にも止められなかった」とのこと。
つまり公式のリハーサルではなくリハーサルのリハーサルというか、練習場面を放映したに過ぎないという主張だ。中国や日本で言われているように中国をけなすためだとか、オリンピックを台無しにするためだとか、そういうものではなく、「北京オリンピックはすごい、史上最大のショーになる」と絶賛する字幕を入れ、しきりにすごいすごいと盛り上げていた。
しかし誰にも撮影を止められなかったとしても、中国側があれだけ開幕式を当日のお楽しみにするためリハーサルは報道しないでくれと言っていたのに。それを知っていながら、偶然撮影できたから放映してしまおうとする視聴率最高主義には参ってしまう。中国の人々が怒るのも当たり前だ。
SBS側は中国北京オリンピック組織委員会からの公式な抗議はまだなかったとしながらも、幹部が北京に出向いて「オリンピックを盛り上げるための放映だった」と社長名義の謝罪書簡を渡したと説明した。でもSBSは当初謝罪ではなく「こっちは盗撮したわけではない。相手が不快に思うなら遺憾としか言いようがない」と、とんでもない態度を見せていた。韓国内でSBSが謝罪する他に解決策はないと騒がれてから、やっと重い腰を上げたといった感じだった。困ったものだ。
この問題で思ったのは韓国はまだ放送=特権、放送局の記者やカメラマン=何でもカメラを向けていい特権を持っている、という認識が強く残っているんだな、ということだ。韓国では企業のPR担当者が記者を「記者様」と呼び、バレンタインや誕生日にはプレゼントを贈り、プレス発表の時は必ずお土産を用意する。会食接待は基本だ。マスコミに属している記者のために大手企業のビルの中にはパソコンや電話が使える記者室という部屋まで用意してある。この頃はここにアルファブロガーとインターネット新聞の市民記者も接待しないといけないから大変だ。
このような「記者はえらい」、「放送はえらい」という特権意識を変えない限り、このような問題はまた発生するに違いない。でもどうやったら特権意識をなくせるのだろうか。マスコミ入社試験は司法試験並みに難しく倍率も高い。難関を突破したエリート達が集まっているからそうなってしまうのかな。
韓国の新聞報道によると、中国のネットでは「韓国選手団に報復しよう」、なんて書きこみがどんどん増えているという。まさか選手に悪さをするなんてそんな幼稚なことはしないでしょう。SBSは恨めしいけど、それを選手に八つ当たりするのはどうかな。
もしこれが韓国のオリンピックで中国の放送局に開幕式のリハーサルが放映されたら?中国へのネット攻撃は壮絶なものになっていただろう。これぐらいで済まなかったかもしれない。オリンピックのように愛国心に燃え上がれる敏感な時期に中国を刺激してしまった韓国。このままでは中国に住む韓国人、企業が苦労することになる。今後の関係だってどうなることやら。中国のテレビに謝罪広告だした方がいいんじゃないのかな。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2008年8月6日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080806/1006758/