.
韓国サムスン電子(Samsung Electronics)は2020年3月10日、同社の研究所であるサムスン電子総合技術院(Samsung Advanced Institute of Technology、SAIT)が全固体電池(All-Solid-State Battery)に関する画期的な技術を開発したと発表した。寿命と安全性を高めるとともに、大きさを半分にできる技術だという。併せて、研究成果の論文を学術誌「Nature Energy」に投稿し、掲載されたことも明らかにした。
関連記事:サムスンが高い体積エネルギー密度の全固体電池、デンドライトの封じ込めに成功
これは、サムスン日本研究所(Samsung R&D Institute Japan)との共同研究成果である。論文の著者として名前が載っているのは韓国の研究員8人、日本の研究員8人、計16人に及ぶ。そのことからも、同社において全固体電池の大きな研究プロジェクトが進められていることは間違いないだろう。
Nature Energy誌掲載論文:High-energy long-cycling all-solid-state lithium metal batteries enabled by silver–carbon composite anodes
全固体電池は、電池の正極と負極の間にある電解質として液体ではなく固体を使うことで、熱や外部の衝撃に対して強くなり、安全性を確保している。将来的にはリチウムイオン電池の性能を上回るともみられ、電気自動車(EV)向け次世代電池として注目されている。そのため、韓国メディアは「サムスン電子が驚異的な技術を開発した」と大々的に報道した。
SAITは、1987年に開設されたサムスングループの研究開発組織である。未来のための基礎研究と核心技術の開発を手掛けており、頻繁に著名な学術誌に投稿し、研究成果を認められている。全固体電池を巡っては、グループのサムスンSDIが2013年に全固体電池を公開したほか、SAITも2015年に米マサチューセッツ工科大学(MIT)との共同研究成果を発表している。さらに、2018年6月にはソウル市内でサムスン電子主催の「全固体電池フォーラム(Solid-State Batteries Forum)」も開催した。同フォーラムでは、トヨタ自動車の小谷幸成氏や、米コロラド大学ボルダー校(University of Colorado Boulder)教授のイ・セヒ(Sehee Lee)氏など著名な専門家が登壇し、次世代電池の研究動向について紹介した。
全固体電池はまだ技術的な課題が多い。SAITによると、全固体電池では負極にリチウム金属を使うが、リチウム金属には「デンドライト問題」が付きまとう。これは、電池の充放時に電極間を移動するリチウムが負極表面に析出する枝のような結晶体(デンドライト、Dendrite)が電池の分離膜を破壊し、寿命と安全性が低下するという問題である。SAITはこの問題を解決すべく、負極に厚さ5㎛の銀-炭素ナノ粒子複合層(Ag-C Nanocomposite Layer)を設けた「析出型リチウム負極技術」を適用した。これは世界で初めての試みだという。
前出の論文によれば、この薄いAg-C層はリチウムの析出を効果的に制御できることが示されたそうだ。これによって「EVに搭載したときの航続距離800km、1000回以上充電可能」というような、高性能かつ長寿命の全固体電池を作れるようになったという。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
<<NIKKEI X TECH>>
2020.3
-Original column