国民的モバイルゲーム、「Anipang」しないと始まらない

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日本や中国でネットゲームといえば、韓国産オンラインゲームが多い。90年代から数多くオンラインゲームのヒット作を手掛ける韓国ゲーム会社だが、このごろは「大作」と呼ばれる、数万人が同時に接続してロールプレイングしながら敵を倒すといった“重たい”ゲームを作る会社がかなり減った。

 その理由はやっぱり「スマートフォン」。スマートフォンから暇つぶしに短時間で楽しめるゲームの方が圧倒的に売れる時代になったからだ。


 韓国のスマートフォンユーザーなら誰もが使っている国民的アプリ「カカオトーク」。世界で6000万人の登録者を最近記録した「LINE」と使い方は同じだ。お互いにカカオトークに加入していれば、IDではなく携帯電話番号を使って相手を検索し、無料で音声通話ができて、チャットのようにメッセージを送受信できる。このカカオトークのユーザーを対象にしたソーシャルネットワークゲームとして始まった「Anipang」というゲームが、サービス開始2カ月で1500万ダウンロードを突破、同時接続200万人という国民的モバイルゲームに成長して、今、すごいことになっている。






カカオトークユーザー向けのシンプルなゲーム「Anipang」



 Anipangの遊び方はとても簡単だ。動物の絵柄を動かして同じ絵柄を左右上下に3つそろえて消す。60秒の間に誰が最もたくさん絵柄を消して高得点をマークするかの勝負なのだが、どう考えてもどこかで見たことのあるゲーム。昔ゲームセンターやPCゲームで大流行した「Hexa」というゲームにそっくりではないか。絵柄が宝石から動物になっただけでゲームのルールは同じ。新しくもなんともないゲームに、なぜ1500万人もの人が夢中になっているのだろう。


韓国のマスコミが分析したところによると、その答えは「競争」にあるそうだ。60秒という短い時間でできる勝負なので、とても手軽に楽しめる。また、カカオトークのアプリ内に友達登録しておいた人の得点順位が表示されるので、知らないユーザーと競争して何位になったのか競争するより楽しく、友達同士でちょっとした会話のネタにもなるところがいいそうだ。






Anipangをプレイしているところ



 もう一つ、「ハート」という仕組みがある。Anipangはゲームをするために「ハート」が必要である。


 Anipangは、ハート1個で1回プレイできる。ハートは8分ごとに1個もらえる。8分も待てない!という人は、ハートを現金で購入する。1000ウォン(約70円)で11個もらえる。無料でプレイしたいなら、友達に1日にハート1個を無料でプレゼントできる機能を使う。友達に1個ハートを送信し、その友達から1個送ってもらうのがオーソドックスなやり方。例えば、10人の友達とハートを送って、自分も10個もらう。さらに、友達をAnipangに招待するメッセージを送信するとハートが1個もらえる。こうやってみんなAnipangの世界へ導かれていく。Anipangの中でユーザーが送り合うハートの数は、なんと1日1億個なのだとか!



ゲームをプレイするために家族や友達同士で「ハート」を送りあう中で、いつもより会話の頻度が増す、とAnipang側は宣伝していた。40~50代の間でもAnipangは大人気で、その理由は、ゲームが面白いからというよりは、子どもと一緒に遊ぶためなのだとか。韓国は共働きの両親が多いので、会社にいながら子どもにハートを送ってあげたり、誰が点数が高いか競い合ったりする中で会話が生まれ、子どもともっと仲良くなれた気がするというママとパパがけっこう多かった。


 しかし、ハートをめぐっては、親切すぎて迷惑になるケースもある。友達がAnipangプレイしたいのにハートがなくて困っているのではないかと思って、友達登録している全員にハートを毎日送る人がいる。私の場合、Anipangをあまり頻繁にしないのでそんなにハートはいらないのに、毎日80人ぐらいの人から「○○さんがハートを送りました。アプリにおつなぎしますか?」、「○○さんがあなたをAnipangに招待しています。アプリにおつなぎしますか?」のメッセージが届いていた。メッセージが来た!とスマホを見ると「ハート」、あ、なんか届いたと画面を見るとまた「ハート」……。いいかげんにせい! と暴れたくなる。私のような人が結構いたみたいで、Anipang側は1日のハート発送件数を50人までに制限した。


 韓国のゲーム会社の間では、「特命! とにかくカカオトークのプラットフォームに乗る!」が合言葉になっているのだとか。6000万人近いユーザーをかかえたカカオトークのプラットフォームの中でゲームを提供すれば、宣伝費をたくさん使わなくても自然にユーザーを獲得できる。一方では、「ゲーム会社がみんなカカオトークで売れそうなシンプルなゲームばかり作るので、このままではゲーム業界が発展しない」と心配する声もある。


 Anipangのようなソーシャルネットワークゲームの人気は続くのか、それともまたすぐ国民的人気の何かが出てくるのだろうか。熱しやすくて冷めやすいのが韓国人なので、アプリのトレンドに追いつくのも大変だ。







趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年9月21日]

-Original colum
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120921/1064042/

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