2008年12月12日、韓国では大統領まで参加した「IPTV商用化記念式」が大々的に行われた。「Power On IPTV Power Up Korea」をスローガンに、通信と放送業界からも1200人近くが参加し、お祭り騒ぎでIPTVの商用化を祝った。
2004年、IPTVは放送なのか通信なのかの論争が始まってから、5年かけてようやく決着がついたといったところだ。IPTVは放送でもあり通信でもある融合サービスなので、特別法で管理しましょうと決まったのが2007年12月。その後、施行令制定やコンテンツ需給契約にてこずり、2008年11月、ついに放送局ではなく通信会社が提供するIP経由の放送が始まったというわけだ。
「IPTVは通信と放送の融合を象徴するサービス」、「白黒テレビがカラーになった時以来の衝撃的な放送の変化」、「1998年ブロードバンドが韓国の経済を救ったように、この不況もIPTVという融合サービスで乗り切れるだろう」と大騒ぎしているが、IPTVの商用化で国民の生活は何が変わるのだろうか。
韓国最大手通信会社のKTは11月、真っ先にIPTVを商用化した。
放送局やコンテンツ会社と契約を結び、IPTVから地上波放送、VOD、ショッピング、オンラインバンキング、株取引、電子申請、ゲーム、携帯電話へSMS送信、ネット検索、カラオケなどを利用できるようにした。33チャンネル+8万5000件のVODが揃っている。
人気ドラマの再放送もパソコンからではなく、テレビから見たいときに見れるようになり、最新映画もDVDより早くIPTVで公開される。大ヒットハリウッド映画「ダークナイト」は12月5日からKTのIPTVでVODサービスが始まった。テレビショッピングも電話注文ではなくリモコンですぐ注文できるようになった。
KTはIPTVの魅力である「双方向性」と韓国国民の最大の関心ごとである「大学受験」を合わせて、有名予備校の講義を全国どこでも利用できる「TV家庭教師」も、映画やドラマ以上の目玉コンテンツとして勝負している。問題はケーブルテレビ業界の反発がまだ収まらないこと。
韓国は難視聴地域が多く、ケーブルテレビに加入しないとテレビが映らない。
そのため、全世帯の84%がケーブルテレビに加入しているほどだ。ケーブルテレビは地域独占営業の代わりに、全国を77放送圏域に分けられ、圏域の5分の1以上で兼営してはならないという規制があるが、IPTVは全国放送が許された。ケーブルテレビ業界は、「IPTVは新しい需要を生み出すビジネスではない。ケーブルテレビ加入者を奪うだけだ。地域単位の営業しかできない中小規模のケーブルテレビが大手企業であるIPTVに勝てるわけがない」と猛反発。韓国政府はケーブルテレビの規制を緩和することで、なんとか怒りをなだめている。
しかしケーブルテレビの利用料金は安く、70チャンネルほど利用できて、月200~300円しかしない。IPTVは利用料とセットトップボックスレンタル料で月1500円以上はする。この不景気の中、機能がてんこ盛りで料金も高いIPTVよりは、テレビさえ見れればいいので値段の安いケーブルテレビで満足という人の方が多いかもしれない。
それに、IPTVは機能が多すぎてリモコンの使い方がわからない、頭が痛くなるという苦情もしばしば。IPTV事業者は料金割引競争、コンテンツ確保競争に続いてリモコン開発競争に突入した。リモコンでボタンを押すだけで、テレビも見れて、いろんな映像も楽しめて、ネット検索もできるからパソコンもいりません、と宣伝している。
私自身、「これは便利!」と一瞬加入したくなったのだが、よく考えてみたらリモコンの主導権はお母さんにあり。だから子供の教育にも使えるのがIPTVだと宣伝しるわけだ。
IPTVのバンドル販売でなんとか加入者のARPUを高めたい通信会社であるが、法律や制度の壁よりお母さんの壁の方が高いかもしれない。全通信会社のIPTVが出揃う2009年1月が楽しみだ。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2008年12月17日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20081217/1010611/