幼児からデジタル教科書に慣れさせるコンテンツ続々

2014年からは小中学校、2015年からは高校もデジタル教科書を使うことが決まった韓国では、タブレットPCを使った幼児向けの教育アプリケーションが人気を集めている。教育熱の高い韓国の親は、今からタブレットPCで本を読んだり書き込んだり学習したりすることに子どもを慣れさせようとしているからだ。

 KTやSKテレコムなど通信事業者(キャリア)も新規事業の一つとして、小学校低学年と就学前の幼児を対象にした学習アプリケーションを展開している。KTは「オルレ幼稚園」に続いて「オルレスクール(olleh school)」という名前で小学生向けのアプリケーションを開発し、アップルのApp StoreやAndroid Market、KTのアプリケーションストアであるオルレマーケットに登録した。スマートフォンからもタブレットPCからも利用できる。


 オルレスクールにように漫画やアニメで歴史の勉強をしたり漢字を覚えたりするコンテンツを韓国ではエデュテインメント(Edutainment)という。パソコンから利用できるエデュテインメントのWebサイトはいくつもあるが、アプリケーションとして提供されるのは2011年になってからである。


 オルレスクールは読む、見る、だけでなく体験できるアプリケーションであることを強調している。例えば音楽に関するページを開くと、楽器を選択して音を鳴らしたり自分の演奏を録音して聴いたり、インタラクティブな活動ができることから「ユビキタスブック」とも呼ばれている。





小学生向けエデュテインメントアプリケーションとして人気を集めているKTのOlleh School。球状になっているメニューを指でタッチして回しながら見たい学習マンガやアニメを選ぶ


オルレスクールは、参考書や子ども向け学習辞書などを出版する大手出版社と子ども向け新聞を発行するメディア、Eラーニング事業者、公共機関が参加する。10分程度で全問解けるように構成されたドリルや英語を教える漫画などいくつかのメニューは無料。有料会員になると学習効果のあるゲームやクイズ、アニメなどを利用できるようにする。7月まで加入した人には1年間無料で提供し、その後は月4000ウォン(約320円)の定額制にする。

 KTは通信キャリアである一方、アプリケーションマーケットを提供するだけでなく、自らアプリケーションを企画し、制作にも参加している。プラットフォームでもありコンテンツプロバイダーでもあるところが韓国のキャリアの特徴であるが、KTは「だからこそユーザーが欲しがるアプリケーションを素早く提供できる」と宣伝する。


 KTはスマートフォンやタブレットPCを利用して大学の講義を受講できるようにする「スマートキャンパス」事業も進めていて、スマートデバイスを利用した学習に力を入れていくとしている。今後は中学生向けオルレスクール、高校生向けオルレスクールも展開する計画だという。


SKテレコムも幼児・小学生向け学習アプリケーションである「スマートセム(スマート先生)」を始めた。教科書会社、参考書会社が提供する動画コンテンツをベースにしたもので、年齢に合わせて幼児はハングルや基本的な数字を覚えるといったコンテンツを、小学生は学校の試験勉強のためのコンテンツを利用できるようになっている。


 SKテレコムの「スマートセム」は科目別、学年別に設定できる学習管理システムが特徴で、毎月目標を設定し、目標達成はできたか、学習効果はあったのか、といったことも確認できるようにしている。また1対1で担当の先生を付けてくれるので、学習目標を設定するための相談や、よく分からない問題を質問できる。利用料は月5000ウォン(約400円)の定額制。


 SKテレコムは「スマートセム」をNスクリーンにする計画で、一度購入すればタブレットPC、スマートフォン、IPTVからも利用できるようにする。Nスクリーンとは、韓国のキャリアが提唱する戦略で、同一のコンテンツを複数の端末(スクリーン)で見られるようにするというもの。国内ではすでに全国の小中高校の教室にIPTVが導入されていて、低所得層の子どもを預かる放課後教室「IPTV勉強部屋」も全国に1000カ所ほどあるため、IPTVから使える学習アプリケーションも需要がある。


 政府が目指す「所得差や地域差による教育格差をなくす」という教育政策を実現するためには、スマートデバイスとアプリケーションを活用した教育が効果的であるため、学習アプリケーション市場が拡大、参考書や辞書を買うよりも安く良質なコンテンツをいつでもどこでも利用できるので、学習アプリケーションはこれからどんどん増えていくだろうとSKテレコムは予想する。


 そのため、SKテレコムは韓国教員団体とも提携している。スマートデバイスを利用した教育コンテンツの制作や授業設計、教育効率性向上のためのIT通信技術適用などスマート教育のために相互協力するという内容で、まずは2011年の夏休みの間、SKテレコムが教師を対象に学習アプリケーションの開発や活用に関する教育を行う。


 アニメ制作会社や絵本を専門とする出版社も続々と学習アプリケーション、エデュテインメントアプリケーションに参入している。オフラインで人気のシールブック(子どもたちがシールを貼って絵本のストーリーを完成させていく本)のほとんどがアプリケーションとして制作され、人気ランキング上位を占めている。


 首が座ればマウスを握るというほど赤ちゃんからネットを使うのが当たり前な韓国だが、これからはタブレットPCをタッチすることから覚えそうだ。何事もあっという間に広がるスピードの速い国だけに、デジタル教科書やエデュテインメントアプリケーションもあと数カ月もすれば新しくもなんともない日常になってしまうだろう。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年7月14日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110714/1032964/

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *