待望のヨン様のドラマ「太王四神記」、CGのレベルは? [2007年9月19日]

世界90カ国で同時放映予定だった「ヨン様」が出演する新ファンタジードラマ「太王四神記」が、6回にも及ぶ放映延期の末に、9月10日からようやく韓国で先行放映され始めた。韓国のMBC放送局は10日にスペシャル放送を、11~13日にかけては3話連続放送と、なんとか視聴率を上げるために必死になっている。

 が、そこまでしなくても「太王四神記」は十分見る価値のあるドラマだ。韓国人が尊敬する英雄で、韓国の歴史上最も領土を拡張した高句麗19代目の王様「広開土大王」(グァンゲトデワン、日本では好太王)がドラマの主人公になったのは初めてのこと。しかも、ファンタジードラマというジャンルも珍しい。韓国で人気の高い名優も勢ぞろいしている。ヨン様の相手役を演じる新人女優イ・ジアは、30回にも及ぶオーディションから選ばれた強運の持ち主らしく、チェ・ジウっぽい可憐なイメージとお茶目なイメージを併せ持っていて、とても魅力的だ。姉妹の三角関係や王座を取り巻く野望、誤解が招いた復讐など、物語も時代劇というよりは戦争シーンが多いメロドラマといった感じだろうか。ヨン様抜きでも十分楽しめる。


 韓国でもヨン様の復帰作ということで女性が主な視聴者になるのではないかと思われていたが、ふたを開けてみると、時代劇好きのお父さんからCG好きのオタクまで幅広い視聴者がMBCの視聴者掲示板に意見を残している。視聴率は23%ほどで、まずまずといったところだ。


 ただ、テーマ設定などは別として、番組を見て、正直にいただけないなと感じたのがCGや特殊効果だ。


 第1話目に登場した白虎、青龍、朱雀、玄武の四神を描いたCGや特殊効果は正直言うとしょぼかった。というか、どうやってその場面を作ったのかを前日のスペシャル番組で見せてしまったためだろか。それともオンラインゲームの見事なCGに慣れてしまったせいだろうか。感動が4分の1ぐらいに減ってしまった印象だった。四神が登場する場面で、白虎は古くなって毛が抜けた白いぬいぐるみに見えるし、青龍もうなぎ?怖い顔をしたイルカ?っぽくて、「すごい!」というインパクトはなかった。良いCGとは視聴者が見てCGとは気付かないものだが、太王四神記はいかにもCGです!といった場面が多すぎる。追い討ちをかけるように、キム・ジョンハク監督が「視聴者の愛国心に訴えたい」という一言を口にしてしまい、「プロの製作者が、『今になって出来が悪くても韓国産だから仕方ない。愛国心に訴えると思って見てください』はないだろう~」と言われる始末だ。


 こうなってしまったのにはもちろんわけがある。


 韓国のCG関連会社は中小規模の20社ほどあるのだが、もともと映画市場が小規模なのと給料が割安なため、レベルの高い人材はアメリカで就職するか、オンラインゲーム「リネージュ」で有名なNCSOFT社のようなゲーム業界に流れている。韓国の映画制作関係者も「韓国のCGはハリウッドに比べて技術的な面ではかなり追いついてきた。ハリウッドより極端に少ない給料と制作費、極端に短い制作期間、ある日突然修正される台本、などなど最悪とも言える製作環境の中であれだけやっているということは、実は世界一のレベルを持っているのかもしれない」と皮肉を言うほど、CGや特殊効果の世界は日の当たらない業界だ。


 太王四神記は24話完結で、制作費は430億ウォン(約54億円)、制作期間は3年。制作費と制作期間は多い方だ。しかし、台本作りが遅れに遅れた。太王四神記のCGは制作発表段階では映画「ロードオフザリング」のCGチームが担当することになっていたが、台本作りの遅れが響いて撮影が間に合わなくなり、スタッフが1年も韓国に滞在していたにも関わらず、1コマもCGを作ることなく帰国してしまった。


 そこでピンチヒッターとして登場したのが、モーペックスタジオという韓国の映画業界では有名なCGスタジオ。総勢120人がこのドラマのCG作業に参加しているという。しかし、ここでも問題が。番組はハイビジョンで放送するため、CG作業は映画より難しい。解像度が高いので、CGで合成した画面の境界線が見事なまでに丸見えになってしまうからだ。どんなにスタッフが目に見えないところにまで注意を払って作業をしても、ロードオブザリングのCGスタッフのスキルを補った上で、台本作りにかかってしまった時間を挽回するのは困難であり、「ハリーポッター」や「トランスポーター」などを見て肥えてしまった視聴者の目を欺くことはできなかった。


 と、問題ばかりを羅列したが、番組のCGをよくよく見てみると、細かいところまで計算された背景や色彩はCGにはまったく見えず、韓国の技術もかなりのものだな~と思える部分もあった。それに番組放送をきっかけに「○○の場面のCGは良かったね~。私も勉強してみたいな~。」とか、「あの光が爆発する特殊効果はどうやってやったんだろう?」といった言葉が日常会話にも登場するようになり、CGや特殊効果の世界に日が当たった点は高く評価されるべきだろう。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2007年9月19日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070919/282355/

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