恐れていた値上げも? どうなる格安MVNO

今使っている携帯電話番号そのままで料金が安いMVNO(通信業者から無線ネットワークの卸売りを受け、自社の通信サービスとして提供する事業者)に乗り換えできるようなった韓国では、この頃、MVNOの話題が尽きない。基本料金はキャリアの半額以下、通話料もMVNOが30%ほど安い。電話をかけるより受信することの方が多い人は、月3300ウォン(約250円)の基本料金さえ払えば携帯電話を持てる。通話料は10秒13~25ウォンと、日本円に換算すれば1~2円しかしない。

 放送通信委員会の調べによると、MVNO事業者は2012年5月2日時点で23社、加入件数は72万件を突破した。移動通信加入者数が5000万件を超えている中、MVNOの72万件はまだまだ少ないが、KT、SKテレコム、LGU+の大手通信キャリア3社ががっちり握っている移動通信市場とは違って、MVNOは事業者数が多い分、料金制度も豊富にそろっているのが特徴だ。


 LTE対応や、よりハイスペックなスマートフォンを求める人が大勢いる中、音声通話とショートメッセージだけで十分というユーザーは、安さを求めてMVNOに変更している。タンスの肥やしにしていた中古端末(SIMカードの上位互換カードであるUSIMを差し込める3G端末限定)でも加入できるので、ナンバーポータビリティーで新規加入しても端末価格の負担がないのも魅力だ。









2012年3月に街角で行われたMVNOのキャンペーン。4月より全キャリアで、今使っている携帯電話番号そのままで料金の安いMVNOに乗り換えできるようになった



放送通信委員会は、MVNOの認知度をさらに高めるため、MVNOという名称ではなく、より発音しやすく意味がすぐ通じる言葉に変えるため、一般ユーザーを対象に「移動通信再販売サービス新名称公募」というタイトルで、MVNOのニックネーム公募まで行っている。最優秀賞に選ばれると100万ウォン(約7万3000円)の賞金がもらえる。


 5月2日からは、国際電話サービスを提供しているオンセテレコムとKTが提携し、「スノーマン」というブランドのMVNOが始まった。料金制度に応じて国際電話が毎月10~30分無料になるという特典付きなのが売りである。家族の中に必ずといっていいほど留学生がいる韓国ならではの特典である。ケーブルTV大手のCJハロービジョンもスマートフォンMVNOサービスを始めた。キャリアのスマートフォン専用料金の半額ほどである。


 しかしMVNOのスマートフォンの場合、携帯電話番号を使った本人確認や携帯電話料金と種々サービスとの合算請求、金融サービスなどには対応していないため、アプリやネットの利用に制限があるのが不便だ。


 MVNO加入者が増えるにつれ、こうした不便と共に不満も浮上している。海外のMVNOに比べると料金が高い、事務手数料も安くしてほしい、料金に応じたポイント還元などの会員向けサービスがなさすぎるといったことだ。例えれば、安いだけが売りの格安航空会社を利用するか、機内食もあってマイレージも付く大手航空会社を利用するか、これに似た悩みが携帯電話業界でも起きているように見える。



中小企業が頑張って地道に加入者を伸ばしてきた韓国MVNO市場であるが、放送通信委員会はMVNOを活性化させるためとして5月4日、キャリアの子会社もMVNOサービスを提供できるようルールを改訂した。それまではキャリアの子会社はMVNOサービスを提供できなかった。MVNOはキャリアからネットワークを借りてユーザーに提供する「再販売」なので、キャリアが自社の子会社だけ優先する可能性もあるからだ。


 それにキャリアとMVNOがバンドルになって、子会社のMVNOに加入するとキャリアの料金を割引するといった特典も無視できない。放送通信委員会は公正競争のルールを守ることを前提にキャリアの子会社のMVNO参入を許可したというが、中小MVNOはもう既に戦意喪失といった感じで、反論すらしない。


 結局MVNOも、大手企業の参入によってじわじわと料金が値上げされるのではないか。そう不安になる。放送通信委員会は「キャリア3社が寡占している移動通信市場構造を破り、競争を促進させるため」MVNOを導入するといいながら、キャリアの子会社にMVNOを勧めるのは結局大手企業に市場を全て差し出すのとあまり変わらないではないか。放送通信委員会は、中小企業を保護するより、MVNOの事業者数を増やして、MVNOの加入者が増えた、こんなに実績を上げられたという数字に気を取られているのかもしれない。


 ちょっと不便でも、安いからと我慢してMVNOを利用しようとしていたユーザーに対し、大手企業はMVNOも掌握し、値段を吊り上げ、ユーザーにMVNOをあきらめさせて元のキャリアへ戻す可能性もある。MVNOが本来の狙い通りに移動通信市場の競争を活性化させる存在として残れるよう、中小MVNOには頑張ってほしいものだ。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年5月11日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120510/1048802/

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