拡張現実ブームが変えるか? 気合の入る「韓国訪問の年」

2010~2012年は「韓国訪問の年」である。誰が決めたのかというと、もちろん韓国が勝手に決めたのだが、あれ? 数年前も韓国訪問の年ではなかったか? 友情年だったのかな?

 それはともかく、今年はその最初の年で気合の入れようはすごい。2009年9月にはプレイベントとして韓国訪問の年の広報大使であるヨン様こと俳優ペ・ヨンジュン氏が韓国の伝統文化を紹介する本を出版し、東京ドームでイベントまで開催した(本来はヨン様の出版記念イベントだったけど、韓国では「韓国訪問の年イベントに日本の女性が殺到した」と紹介されていた)。


 ヨン様の本は日本でも出版され、韓国でも高い評価を得た。ヨン様が所属する事務所は旅行代理店業も始めていて、ヨン様本に紹介された名所を巡るツアーは、一般的な観光ツアーの4倍ほどする高額にもかかわらず予約が殺到しているというからすごい。2010年2月からはヨン様が出演する韓国観光キャンペーンCMも放映されている。


 インターネットが生活に根付いている韓国では、何でもまずは検索から始まる。観光情報もガイドブックよりネットで検索して旅行サイトやブログの書き込みを参考にする。ガイドブックの情報は出版されるまでに時間がかかるので古い、ブログの書き込みは写真もたくさんあって生の情報だから参考になると思われている。そのせいか、韓国訪問の年委員会でもブロガーを募集し、関連写真を投稿する懸賞イベントも行っている。しかし韓国のブロガーが韓国語で書き込むイベントを行ったところで海外観光客は集まらないだろう。韓国語が分かる通な外国人だけ韓国を訪問しろということなのだろうか…疑問だ。


 韓国内でも訪問の年を迎え、自分の国を知り尽くそうというテーマの旅行がブーム。マリンスポーツとゴルフが定番だったチェジュ島では、島中を歩いて旅できるようにした散歩道「オルレギル」が大ブームとなっている。徹底して歩く旅として世界的に有名なサンティアゴ巡礼の韓国版とも言える道で、コースはいろいろあり、海から山へと続く道をひたすら歩くというもの。ソウル市内では川沿いを歩く都心のトレッキングや自転車旅が流行っている。ITでも「エコ」、「グリーン」がキーワードになっているように、観光も二酸化炭素を発生させない旅がトレンドのようで、どこでも迷うことなく散歩できるマップ連動サービスがどんどん登場している。


 マップ連動サービスといってもポータルサイトの経路案内はもう古い。Googleのストリートビュー、Google Earthと同じサービスは韓国のほとんどのポータルが提供する。車に乗って運転しているような気分を味わせてくれるDAUM(シェア2位のポータルサイト)のロードビューは面白い。高画像パノラマで道の標識や看板の文字まではっきりと見える。現実のビルの屋上にはないが、マップサービスでは、ビルの屋上に電光板があるように見せる広告やマップの上に動画が流れる広告技術もある。マップの上に簡単な情報を提供するだけにとどまらず、「うちのお店に来て下さい!」と熱烈にアピールすることもできるのだ。


 DAUMはこのサービスのためにカメラを装着した車で全国を回っているそうで、釜山ではGoogleのストリートビュー撮影チームとばったり、なんてこともあったという。


拡張現実が楽しさを広げる



 韓国で今一番の話題はやっぱり拡張現実(Augmented Reality)。


 スマートフォンのカメラで道を写すと、ビルの名前や近くにあるカフェ・レストランなどの位置情報と口コミ、ブロガーお薦めショップ、ビルの中にあるギャラリーで行われている展示内容、広告といったいろんな情報が画面の上に登場するサービスである。ソーシャルネットワークサービスとも連動し、近くにいるメンバーの検索もできる。


 知らない街を散歩し、カフェでお茶をして、雑貨屋さんでお土産を買って、といったのんびり観光を楽しむ文化が韓国でも広がっていることから、ゲーム感覚でナビゲーションしてもらえる拡張現実に話題が集中している。


 デジタルカメラにWi-FiとGPSが搭載され、撮った写真をその場で転送するとマップ上に表示されるサービスは前からあるが、それが拡張現実と一緒になったことで、同じ場所を歩いたほかの人の感想や周辺口コミ情報を読みながら歩くとより楽しくなる。


 iPhoneのアプリ「Layar」などで提供される拡張現実。一方、最大加入者を持つSKテレコムも「オブジェ」という名前のアプリで提供している。夜空の星座の位置を教えてくれる機能もあり、位置情報でお店を検索できるのが便利だと口コミで広がっている。まだ他社のソーシャルネットワークと連動していなくて、いろんな口コミまで検索できないのは残念だが、リアルなガイドブックとして全国で使える日が待ち遠しい(現在はソウルの一部分だけ)。


 携帯電話を使った通訳や翻訳サービスの技術も進歩しているので、拡張現実を世界どこでも使える日も近いだろう。以前日本でもRFIDと携帯型リーダー機を使った観光案内の実証実験が行われたことがあるが、特定の場所に行き、1カ所ごとにRFIDを認識させ情報を読み込むものだった。拡張現実はカメラが写す広い範囲の情報を確認できるところも便利である。


 韓国で拡張現実を使って生の情報を入手して、迷うことなく外れのない旅ができるようになれば、訪問の年といったキャンペーンがなくても面白がって観光客がたくさん来てくれるかもしれない。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年3月10日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100310/1023526/

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