携帯「実質無料」規制から1年8ヵ月、韓国の懸念

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今年2月から携帯3キャリアによる「実質ゼロ円」の端末販売方式が廃止された。韓国ではすでに、2014年から法律によって実質無料販売が規制されている。法施行から1年8ヵ月。格安携帯へのユーザー流出に加えて、新たな懸念がユーザーや業界の間からも噴出し始めた。

韓国版「実質ゼロ円」は
法律によって規制されている



 日本でも2016年2月から、大手3キャリアが携帯端末の「実質ゼロ円」販売方式を廃止した。以降、スマートフォンの新規販売台数は激減し、ユーザーがSIMフリー端末などに流れているようだ。

 韓国では2014年10月に「端末機流通構造改善法(端通法)」が施行され、法律によって日本より一足先に実質無料の端末販売が禁じられた。それから1年8カ月経った今でも、ユーザーの不満は後を絶たない。

 端通法の狙いは、大きく3つある。

(1)携帯端末の出荷価格を高く設定してから補助金を支給する仕組みを抑制し、最初から適正な価格で販売する

(2)キャリアの乗り換えや新規加入を優遇し、長期加入者の機種変更には端末購入補助金を付けないといった差を付けるマーケティングをやめる

(3)端末の流通構造を明確にする

 端通法によって、ユーザーがもらえる購入補助金は、キャリアの乗り換えでも新規加入でも機種変更でも同じく最大33万ウォン(5月18日時点で約3万円)になった。

 キャリアは毎週自社のホームページに、端末の機種と加入条件ごとにいくら補助金を支払うのか告知しなければならない。ただし、代理店からの補助金も若干認められている他、発売から15カ月以上経過した古い機種の場合は、33万ウォン以上もらえるケースもある。


格安携帯に流れていく
ユーザーが止まらない

 それまでは、同じ機種、同じキャリアで同じ料金プランを選択しても、携帯ショップごとに端末価格がばらばらなのが当たり前だった。

 韓国の携帯ショップは、よくソーシャルメディアを使って宣伝するので、ソーシャルメディアを頻繁に利用する人やインターネット検索能力が高い人は、キャッシュバック金額が高いショップを見つけることができるが、そうでない人たちは高い金額を払って端末を購入するしかなかった。

 こうした不公平を是正するために韓国政府は端通法を施行したわけだが、ユーザーの反応は決して良いものではない。「みんなで平等に高く携帯電話端末を買う法律」「キャリアだけが儲かる法律」と、反発の声が圧倒的に多いようだ。

 法律施行から1年8カ月後の現在、韓国の携帯電話市場はどうなったか。

 韓国の通信政策を担当する未来創造科学部(注1)は2016年4月末、端通法施行で家計の通信費負担が軽くなったという報告を行った。それによると、携帯電話利用料の毎月の支払い平均金額は、2014年7~9月の4万5155ウォン(5月18日時点で約4000円)から、2016年4月には3万9142ウォン(同・約3600円)と13%ほど減っている。

 だが、韓国メディアは「利用料が減ったのは、ユーザーがより安い料金プランを選択した結果」としてこの報告を批判した。仮想移動体通信事業者(MVNO)や中古端末を利用するなど、ユーザーが自ら安く携帯電話を利用する方法を模索したからであり、端通法のおかげではないという。

 実際、韓国では、いわゆる「格安携帯」と呼ばれるMVNOの加入者が増加しており、未来創造科学部の統計によると、MVNO加入件数は、2014年末に458万件だったものが、2016年4月には620万件に増え、携帯電話契約件数の10.2%を占めるようになった。韓国のMVNOも、通信キャリアのネットワークを借りてサービスする仕組みは日本と同じだ。

 MVNOのサービスは、SKテレコム、KT(韓国通信)、LGユープラスの通信キャリア3社に比べて料金が安いだけでなく、全国の郵便局が販売窓口になっているので気軽に申し込めたり、スマートフォンを賢く買うための口コミサイトが増えたのも加入者が増えた理由の一つだろう。


注1:「部」は日本の「省」に相当


携帯実質無料規制から
1年8カ月後の新たな懸念

 とはいえ、MVNOにユーザーが流れたものの、端通法施行で補助金などのマーケティング費用が大幅に減ったおかげで、通信キャリア3社の収支は大幅に改善した模様だ。

 朝鮮日報は、「端通法以降、通信キャリア3社のマーケティング費用合計は、前年比で1兆ウォン(5月18日時点で約910億円)も節約でき、営業利益も大幅に改善した」と報じた。また、韓国消費者連盟も「キャリア3社の2015年営業利益は、3兆6000億ウォン(同約3300億円)で前年比1.8倍になった」とし、「利益を消費者と共有すべき」と主張した。

 しかし、サムスン電子やLG電子の韓国産スマートフォンは日本円でおよそ8万~9万円。すでに飽和している市場で、新製品の価格が高くて売れないのでは、販促コストが減って収支が改善したといっても、通信キャリアはもちろん、端末メーカーも喜んでばかりはいられない。

 4月24日付の韓国経済新聞は、「いつまた端末購入補助金規制が緩和される分かわからないので、お金を他の投資に回せない」という通信キャリア側の不安を伝えている。

 そして、もう一つの大きな変化は、機種変更をせず長期間同じ端末を使う人や中古端末を利用する人が増えたため新製品端末が売れず、主にキャリア直営店以外の中小携帯ショップが経営難に陥って、次々と倒産したことだ。ここ最近で1000軒近くの携帯ショップが倒産したという報道もある。

 一方で、通信キャリアのテレビCMも、専ら各種サービスとのバンドルによる割引料金や家族割引、メンバーシップ割引(注2)、あるいは、キャリアが開発したアプリの宣伝などが多くなった。

 これらは、「格安携帯」へのユーザー流出が続く中で、データ通信のユーザーを増やし、利用料から数パーセントを代理店に還元することで、何とか直営以外の代理店を生き残らせようとするキャリアの苦肉の策なのだ。

 とかく施行当初から「キャリアだけが儲かる」という点だけがクローズアップされがちだった端通法だが、ここに来て、安価な中国製端末の普及で国内メーカーの開発が停滞し、韓国語の入力など国特有のユーザビリティに影響が出ないか、あるいは、韓国メーカーの競争力自体が低下するのでは、といった懸念の声も挙がっている。

 日本の「実質ゼロ円」廃止は、携帯市場にどんな影響を及ぼすのだろうか。


注2:メンバーシップ割引:年間の支払い通信料に応じ、提携店で各種割引や無料サービスが適用される特典



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

ダイヤモンド online

「コリア・ITが暮らしと経済をつくる国」

2016.5.

 

-Original column

http://diamond.jp/articles/-/91526

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